リブート、レイヴン #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
3
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「リブート・レイヴン」#3

2012-02-07 21:11:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二週間後。ガンドーとシキベは、未だ怪盗スズキ・キヨシの正体を追い続けていた。かさむ経費と滞納料金取立により、探偵事務所の預金残高は減る一方だ。何としてもキヨシを捕え、一億円を手に入れねば。ガンドーは『斑鳩』『探偵』『不如帰』のショドーを貼った壁に向かい、今日も机で朝を迎えた。 1

2012-02-07 21:19:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電話が鳴る。シキベは昨晩ヤタイで酒を飲み過ぎ、未だ眠っていた。ガンドーが取る。謎の依頼人だ。Zooom……またあの不気味な細切れフランジャー電子音声が聞こえてくる。自分は宇宙の真理であるとでも言いたげな、冷たい威圧感を放つ声「ドーモ」「ドーモ」「首尾はどうかね」「悪くないぜ」 2

2012-02-07 21:27:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーは煙草を吹かしながら、調査と推理の経緯を報告した。……スズキ・キヨシの正体は恐らく、カチグミ企業コケシ社の道楽御曹司だ。同じような地位にある若者二人とつるみ、愉快犯的行動を繰り返している。いくら証拠を揃えても、現行犯で捕えない限り、カネと地位の力でもみ消されるだろう。 3

2012-02-07 21:40:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……では次の犯行は?」「明後日、琵琶湖クルーズ船『グランド・オモシロイ』で、財界の大物らを招き、ネオサイタマ系メガコーポ各社による大規模なビジネスショウが行われる。添え物として、企業所蔵の骨董美術品もいくつか展示されるはずだ。俺はそこに、スズキ・キヨシが現れると踏んでいる」 4

2012-02-07 21:50:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「流石はクルゼ・ケン所長の直弟子。興味深い推理だ。君はそこで、違法行為に及ぼうとするスズキ・キヨシを捕まえるというわけか。……私から協力できることはあるかね?」「追加で三百万の経費」キャバァーン!預金口座が再び潤う「……これ以上の経費は無しだ。私は君のスシ・パトロンではない」 5

2012-02-07 21:56:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オーライ。プロとして必要経費は最低限に留める」ガンドーは推理机の薄汚いメモを手繰り『ズバリ1リットル』を横線で消す「あとは、俺が目星をつけた3人の誰かが乗船するかどうかを知るために、ショウの招待客リスト……それからショウ当日の乗船チケットが2枚必要だ。無理なら俺たちの手で」 6

2012-02-07 22:02:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「その2つの調達は難しくないだろう、私の地位を使えば。今日中に届けさせよう。なお、君がこの仕事を達成した後」電子エフェクト音声がピッチの変動を増す「君とのコンタクトを断つ。私の正体を詮索しようとはしないことだ」「ああ、その手の制約はチャメシ・インシデントさ」ガンドーは笑った。 7

2012-02-07 22:11:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「幸運を祈る。カラダニキヲツケテネ……」不気味な余韻を残し、音声はそこで途切れた。その奥ゆかしい言葉からも、依頼人の高い地位は自明である。正体はコケシ社の失墜を狙う対立メガコーポの重役か、どこかのファンドの人間か、あるいは本当に、個人的復讐を果たそうとする位の高い公人か……。 8

2012-02-07 22:15:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「詮索好きの犬は警棒で殴られる、だな」ガンドーは平安時代の哲学者ミヤモト・マサシの有名なコトワザを呟いた。私立探偵にとっての重要な警句でもある。ベッドで欠伸する助手の声を聞きながら、彼はカレンダーを見た。今日はブツメツ・バッドラックだ。一日事務所に篭って、英気を養うとするか。 9

2012-02-07 22:26:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

たまには助手にコーヒーでも淹れてやるか。驚く顔が見たい。ガンドーは小さな冷蔵庫に向かい、1ヶ月前に開封した賞味期限ぎりぎりのケモミルク・ボトルを取り出す。俺は1億の依頼でシリアスになり過ぎていないか?逆に、シキベが来てから腑抜けてはいないか?ガンドーは時折、自問自答を行う。 10

2012-02-07 22:35:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

師匠クルゼ・ケンの教えが脳裏をよぎる……「ある日ブッダは使途を集め、ワニで満たされた蓮の泉の上に一本の縄を張らせると、そこを渡るよう使徒たちに命じた。一人目は全くブレずに渡ろうとし、あえなく泉に転落した。二人目は棒を持ち、左右にブレながら歩くことで、見事これを渡り切った」 11

2012-02-07 22:47:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このゼンめいた故事は、様々な意味に解釈できる。クルゼはここから、柔軟性と平常心の大切さを説いた。シリアスになり過ぎて右にブレ過ぎても、リラックスし過ぎて左にブレ過ぎても、かつ小さなブレを恐れてもいけない。そうしなければ綱は渡れないのだ、と。皮肉にも彼は、右に転落したのだが。 12

2012-02-07 22:56:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺は大丈夫さ」ガンドーはブレッドを錆び付いたトースターに差し込みながら、独りごちた。コーヒーを注ごうかと思った矢先、電話がまた鳴る。シキベは完全に眼を覚まし、上半身を起こした。「はいこちら、ガンドー探偵……ああ、ムタギ=サンか。どうだい、調子は……あァ?家出?娘さんが?」 13

2012-02-07 23:04:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「家は……8階層か?ヤバいな、そりゃ……」ガンドーはメモを走らせる。落ち着かない鴉のように、寝起きのシキベと預金残高、重点赤丸がついたカレンダーを順に見やる。ほとんど依頼料の期待はできない仕事だ。それどころか明後日の計画を立てる時間が削られる。しばしの思案「……今すぐ行く」 14

2012-02-07 23:18:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

歩きながらコートを羽織るガンドー。「アー……依頼デスか?最近全部、断ってたんデスよね?」「馴染みの客が、ちょっとな、トラブルだ」「明後日の準備は大丈夫なんスか?」「まあな。あの大宇宙野郎が、手間を省いてくれる」「電話来たんスね」「ああ、火星人のマネさせてやったぜ」「ウェー」 15

2012-02-07 23:23:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「シキベ=サン、留守番頼む」「アー、所長、いいスかね?一緒に行きたいんスけど」ガンドーは投げ縄で捕えられた牛のように、大回りのターンを決めて振り返る「……まあいいか。女のカンも役に立つ。まずスラックスを履いて、5分で支度だ」「アー……」「返事はノーか?」「ハイヨロコンデー」 16

2012-02-07 23:33:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

炭化したトーストと冷めたコーヒーを残したまま、2人はキャブで琵琶湖に向かっていた。家出事件は解決したが、グランド・オモシロイの出港時間が近い。「だからあれほど言ったんスよ!」大慌てで化粧を整えるシキベ。「今データを確認中だ、愚痴なら後で頼むぜ」首後ろの端子をさするガンドー。 19

2012-02-07 23:45:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もっと速く頼む」ガンドーは依頼人から提供された情報を脳内にダウンロードしつつ運転手に注文した。無数の電子ボンボリでライトアップされた巨大クルーズ船が彼方に見える「違法速度ギリギリでな」「…アー、まだちょっと眠いんスけど、ズバリって、どうなんスかね?」「ズバリは、やめとけ」 20

2012-02-07 23:53:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブオーン。ブオーン。虚無僧が吹き鳴らすホルンめいた音が、港に響き渡る。ガンドーは黒いタキシードにサイバーグラス。49マグナムを持ち込む余裕はない。助手は斜めに傾いたいつもの黒いセル眼鏡に、カジノディーラーめいた服装。2人はマキモノを警備員に渡し、ぎりぎりで船内に駆け込んだ。 21

2012-02-08 00:07:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

グランド・オモシロイの威容は、まるでサイバーオイラン空母だ。一つの街なのだ。甲板には土が敷き詰められ堀が走る。中央部には高さ数十メートル、コの字型の遊郭めいた建物が聳え立つ。無数のボンボリの灯り。後部にはアンテナに覆われた荘厳な巨大トリイ。ブッダ!全てが整然と奥ゆかしい! 22

2012-02-08 00:24:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

乗船してまず目を引くのは、見事な柳が並ぶ庭園。美しい日本の伝統美を感じさせるたおやかなオイランが等間隔で立ち、スシの盛られた黒漆オボンを持って微笑む。「これはすごいですね!」「胸を揉みたい!」「君、ここはネオサイタマじゃないぞ!」キョート・ニュービーたちが馬脚を呈している。 23

2012-02-08 00:37:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スシには目もくれず、ガンドーとシキベは堀に渡された橋を渡り、遊郭めいた建物内のイベントホールへと急いだ。「この建物は巨大なホテルだ」ガンドーは早足で歩きながら小声で説明する。限られた時間の中で考えた、場当たり的な作戦だ。「ターゲットの部屋は解ってる。忍び込んで情報を掴む」 24

2012-02-08 00:45:24