f_zebraさんによる「原子力発電のリスクについて」

耳の痛い話ではある。 リスク比較は、厳しいものなのだ。 脱原発を目指すのなら、原発のことを知らなくては。 しかし、相変わらず私のネーミングのセンスは、悪い。
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Flying Zebra @f_zebra

電事連が既存の原子力発電所にフィルター付きベント装置を追加すると発表したそうです。1年前までは原発の設備について関係者以外の人が興味を持つことなんてありませんでしたが、今はこういった細かいことまでニュースになるんですね。

2012-02-08 12:32:22
Flying Zebra @f_zebra

原子力発電のリスク管理について少しつぶやきましょうか。その前に、リスクの一般的な話をおさらいしておきます。リスクとは、被害の大きさである「ハザード」にそれが起こる「確率」を掛けたものです。ハザードや確率について、我々が実感を持って理解できる幅は実はそれほど広くありません。

2012-02-08 12:36:44
Flying Zebra @f_zebra

よく比較される飛行機と自動車の事故ですが、飛行機の方がリスクは格段に低いとアタマでは分かっていても、普段から飛行機に乗り慣れている人以外は離着陸の瞬間にはどうしても不安になるものです。一方、疲れていたり眠かったりするときに車を運転するのは平気だったりします。

2012-02-08 12:43:03
Flying Zebra @f_zebra

放射線のリスクを過剰に怖がる人をバカにするような風潮も一部にありますが、「不安」というのはそもそも理屈ではないので、怖いという気持ちを否定するのは筋が悪いと思います。そもそも、我々は全てを合理的に判断して行動するなんてことはできないのです。

2012-02-08 12:47:43
Flying Zebra @f_zebra

許容できるリスクが一定だとすると、ハザードと確率を軸にグラフを描くと反比例の双曲線(の片側)になり、その内側が「許容できるリスク」ということになります。リスクを下げるには、ハザードを小さくするか、確率を下げることになります。

2012-02-08 12:51:10
Flying Zebra @f_zebra

原子力事故のリスクを評価する試みは繰り返し行われていますが、有名なのはMITのラスムッセン教授によるレポートでしょう。1年1炉あたりの確率として、100人が急性障害で死亡する事故の頻度が1×10^-7、1000人以上の死者なら1×10^-8と見積もられました。

2012-02-08 12:56:00
Flying Zebra @f_zebra

IAEAの安全基準では、確率論的安全評価(PSA)による炉心損傷頻度を1年1炉あたり1×10^-6以下とすることとなっています。多くの事業者は、評価上はそれよりも1~2桁低い値を達成しています。

2012-02-08 12:56:39
Flying Zebra @f_zebra

いずれにせよなかなか実感しにくい数字ではありますが、残念ながら確率については実績がこの数字を遙かに上回っているのは明らかです。1979年にTMI、1986年にチェルノブイリ、2011年に福島で事故が起き、福島では一気に3炉(4号機を含めると4炉)が炉心損傷に至りました。

2012-02-08 13:00:03
Flying Zebra @f_zebra

これまでの原子炉の運転経験はおよそ14,000炉・年となります。この間で5基または6基というのが「実績」です。RBMK(軽水冷却黒鉛減速炉)のチェルノブイリを除いても、1基しか減りません。

2012-02-08 13:15:47
Flying Zebra @f_zebra

(昼間の原子力リスクの続きです)被害規模についても、ラスムッセン・レポートでは100億ドルの経済損失に至る事故は2×10^-8/炉・年としていましたが、福島事故の経済損失が100億ドル(8000億円)で収まることはあり得ないでしょう。

2012-02-08 16:48:22
Flying Zebra @f_zebra

ただ、この数値は確率が1000人死亡の半分であることから分かる通り、現代とは人的損害と経済損失のバランスが大きく異なります。また、経済損失は事故「後」の対応次第で桁が1つ2つ変わるくらいのばらつきがあります。

2012-02-08 16:51:25
Flying Zebra @f_zebra

では、福島事故を受けてなお原子力を推進しようとしている国々の、原子力のリスクに対するアプローチを見ていきましょう。まずはアメリカです。米国は徹底したリスク解析にによって僅かなリスクの芽も摘み取り、過酷事故の確率を極限まで下げるというアプローチです。

2012-02-08 16:55:47
Flying Zebra @f_zebra

表面的には似通っている日米の原子力規制ですが、米国の規制は「事故は必ず起きるもの」という前提に立って、具体的な数値を示して「許容できる確率」に留めることを求めています。国民の「リスク」に対する理解も日本とはかなり異なります。

2012-02-08 16:58:19
Flying Zebra @f_zebra

一方、フランスを中心とする西欧の諸国では米国とは異なるアプローチが福島事故以前から実践されています。万一事故が起こった際の被害を少なくする、つまりハザードを小さくするというアプローチです。具体的にはフィルタード・ベントという方法です。

2012-02-08 17:04:53
Flying Zebra @f_zebra

フランスはサンドフィルターでベントで排出する放射能を1/10に、ドイツはスクラバーと金属繊維フィルターで1/1000(ただしヨウ素は1/10)まで減少させる装置を開発、設置しています。今回日本の既存原子力発電所に設置しようとしているのがどのタイプかは発表されていません。

2012-02-08 17:10:04
Flying Zebra @f_zebra

対して、日本のアプローチはどうでしょうか。「安全神話」は事業者というよりは政治家と「市民」が作り上げたものというのが私の理解ですが、いずれにせよ「絶対安全」を唱えてしまったことでハザードを下げる努力は説明できなくなり、事故の確率を減らす努力も消極的になってしまいました。

2012-02-08 17:11:17
Flying Zebra @f_zebra

今後原子力をどうするにせよ、事業者や規制者だけでなく、国民の一人一人がリスクの存在を認識し、他のリスクと比較してどこまで許容するかを考える必要があります。僅かでもリスクがあるのは嫌、といった思考停止では決して安全な社会は実現できません。

2012-02-08 17:16:39
Flying Zebra @f_zebra

フィルタードベントのようなハードにしろ、食品の放射能検査、流通規制といったソフトにしろ、その意味するところを正しく説明、理解しないまま採用しても正しく運用することはできず、結果として安全性を高めることにはならないと思います。

2012-02-08 17:17:04