シージ・トゥ・ザ・スリーピング・ビューティー #6
「ワイルドハント=サン死亡、インペイルメント=サン死亡、モスキート=サン死亡、……アブサーディティ=サン、戦線離脱直後に連絡手段喪失。生存を確認できておりません」ドージョーめいた広間、シシマイ像に埋め込まれたUNIX端末に向かい、淡々と報告を行うニンジャ有り。アンバサダー。 1
2012-02-23 13:47:02『実際手ひどい打撃だ』通信相手は言葉とは裏腹、平然たるイントネーションで答えた。『だが、上昇志向を隠しもせぬワイルドハント=サンは、ここのところ下品であった事よ』「御意」『テロリスト一匹の退治を口実に、ネオサイタマでの地盤固めとは、まこと僭越。これもインガオホーか』「御意」2
2012-02-23 14:19:09『……御身はその点わきまえておろう。アンバサダー=サン』「御意にございますパーガトリー=サン」アンバサダーは低く言った。『これで御身も却って動き易かろう』「……御意」 3
2012-02-23 14:28:05アンバサダーはドージョー入場者の気配を感じ取り、振り向く。入場者は先にアイサツした。「ドーモ。ブラックヘイズです」手練れめいて、油断ならぬアトモスフィアを漂わせるニンジャである。「ドーモ、ブラックヘイズ=サン。アンバサダーです」アンバサダーは通信相手に囁く「傭兵が報告を」 4
2012-02-23 14:36:47『よい。このまま話せ』「は。……ブラックヘイズ=サン。首尾はどうか」「煙いいかね」訊きながら、既に傭兵ニンジャはメンポに葉巻を差し込み、親指のバーナーで点火し終えていた。「イッキ・ウチコワシのアムニジアはドラゴンドージョーの忘れ形見、ユカノだ。まず間違いあるまい」「やはりか」 5
2012-02-23 14:45:26『流石だアンバサダー=サン。ロードもお喜びになる』「有り難き幸せ」『そして、この件ではサラマンダー=サンに恩を売ってやるとしよう』パーガトリーが応答するたび、シシマイUNIXの目が謎めいて点滅する。『詳細な捕獲計画は御身に任せる。信頼しておるがゆえに。ぬかるなよ』「御意に」 6
2012-02-23 14:54:58『ロードの御治世ますます栄えんことを。ガンバルゾー……』「ガンバルゾー!」シシマイの目が消灯した。アンバサダーはブラックヘイズに向き直った。不敵な傭兵ニンジャは壁に寄りかかり、葉巻をふかしている。 7
2012-02-23 15:07:46「終わったか」ブラックヘイズは言った。「見ざる、言わざる、聞かざる」「当然だ」アンバサダーは言った。とはいえ、ブラックヘイズがそうしてわざわざ言うまでもない事であった。ブラックヘイズはプロフェッショナルであり、ザイバツもそれを承知だ。「で……ミッションは、いつ入るね」 8
2012-02-23 15:13:02「知っての通りイッキ・ウチコワシはその実、ニンジャ集団。君一人送り出すのも偲びない」アンバサダーは言った。「こちらからはフェイタル=サンをつけよう。連携してくれ」アンバサダーの傍らに、女のニンジャが膝まづいていた。闇を照らすが如き華やかな美貌!「ドーモ。フェイタルです」9
2012-02-23 15:20:52「こりゃまた美しいニンジャ殿」ブラックヘイズは肩をすくめた。アイサツを返す。「ドーモ、フェイタル=サン。ブラックヘイズです」「くくく」フェイタルは低く笑う。腰まであるプラチナブロンド、ニンジャであるがメンポはせず、瞳は謎めいた黒だ。「彼女には変身能力がある」とアンバサダー。10
2012-02-23 15:42:45「変身能力?」「そうだ。イクサのための変身だが」アンバサダーは謎めかして言った。フェイタルがせせら笑った。「今のうちに網膜に焼きつけておけ。私の美貌をな。ミスターダンディズム……そうしたいのなら!くくく」「ま、頼らせてもらうとしよう」彼は目を細め、葉巻をふかした。 11
2012-02-23 15:52:06「……ドーモ。ネザークイーンです」「ヤモト・コキです」武装霊柩車を降りてアイサツした三人に、ネオカブキチョの二人はオジギを返した。鍛え上げた2メートル超の身体を持つネザークイーンと華奢な少女ヤモトが並んで立つさまは、いささか滑稽とも言えた。 13
2012-02-23 16:34:00(およそ数日前に会ったばかりではあるが……)とニンジャスレイヤーはヤモトに切り出そうとしたが、ヤモトの目配せに気づき、奥ゆかしく触れずにおいた。ネザークイーンはその時意識が無く、やり取りは無い。二人が互いにアイサツしたのはレッドゴリラとのイクサの時だ。 14
2012-02-23 16:40:49「委細は先刻IRCで伝えた通りなんだが、どうかね……」デッドムーンが口火を切った。「ザイバツとコトを構えちまっててな」ネザークイーンは厳しい目で彼を見返した。「ええ、話の方は、だいたい把握させてもらった」腕を組み、言った。「正直、迷惑ね。トラブルの種でしかない」 15
2012-02-23 16:46:58「ま、そうなるな」デッドムーンは頷いた。ネザークイーンは続ける。「ニチョームはザイバツとアマクダリ・セクト、それぞれの微妙なせめぎ合いの間で浮かんでいる。ツブす口実があればツブしに来る……アタシはそう考えている。最悪の事態を考えて動かないと、寝首をかかれるの」 16
2012-02-23 16:51:50ニンジャスレイヤーとナンシーは無言で目を見交わす。デッドムーンは言った「俺らは面倒の種……それを踏まえた上で、だ……幸い、敵の指揮官以下はニンジャスレイヤー=サンのほうで排除した。ハッキングも抜かりなしだ。長居はしないだろうさ……体勢の立て直しができりゃ、それでいい」17
2012-02-23 16:58:17「……」「ザクロ=サン」ヤモトがネザークイーンに囁く「その、なんか言えなくて、言わずにいたんだけど、この前の……」「仕方ねえわ」ネザークイーンは目を閉じ、重々しく頷いた。「困っている奴を助けないとダメ。ミヤモト・マサシがそんなような事を、アレよ、まあコトワザにもあるし」 18
2012-02-23 17:07:52「いいのかい」とデッドムーン。ネザークイーンは踵を返し、歩きながら言う。「まずその霊柩車。当座のガレージに案内する。でも贅沢言うんじゃないわよ」「有難いぜ……」「そこのニンジャスレイヤー=サンにも、以前にノリで言っちまった手前もあるし。困ったらアタシの『絵馴染』に来いってさ」19
2012-02-23 17:14:27「かたじけない」ニンジャスレイヤーは頭を下げた。ネザークイーンは手を振り、「仕方ねえわ。実際、ザイバツに追われながら飛び込んで来るとまでは思わなかったけど!しかも傷だらけでね……ナンシー=サンも」「ありがとう。私はせいぜいバイクで一回転んだぐらいよ」「アータもタフなのね」 20
2012-02-23 17:19:45……10分後、彼らはネザークイーン=ザクロのバー、『絵馴染』の一階で、めいめい椅子に掛けていた。ニンジャスレイヤーだけは別で、彼はシツレイを詫びた後、床にアグラしてチャドー呼吸を繰り返していた。彼の負ったダメージは軽くは無く、メディテーションによる治癒力のブーストが必要だ。 21
2012-02-23 17:26:01「旦那、ネザークイーン=サンと面識アリとは」デッドムーンは飲み干したグラスを置いた。「以前にな……」ニンジャスレイヤーは深く呼吸しながら答えた。ネザークイーンはデッドムーンにボトルを投げ渡した。「アイサツ程度よ」「……本当に感謝するわ」ナンシーがあらためて礼を言った。 22
2012-02-23 17:37:23「アータは初めましてよね。ナンシー=サン」「ええ」ナンシーは頷いた。ネザークイーンは笑った。「タフな女は好きよ。謎めいた女も」ナンシーは笑って肩をすくめて見せた。「……で、これからどうするんだい……」デッドムーンが言った。 23
2012-02-23 17:47:02「キョートに戻る」ニンジャスレイヤーはチャドー呼吸を止めた。「何もかも、かの地に残したままだ。何ひとつ解決していない」……そして彼は、ザイバツ・ニンジャのダークドメインが彼に言い放った言葉を思い起こしていた。タカギ・ガンドーの死……その真偽と経緯も確かめねばならぬ。 24
2012-02-23 18:02:20