「ミュンヒハウゼン症候群」「代理ミュンヒハウゼン症候群」と「物語戦術」

脱原発問題や放射能障害についての話題に関連して、最近話題に上ることの多い、「ミュンヒハウゼン症候群」という疾患概念を巡る私なりの理解と解説をまとめてみました。
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斎藤清二 @SaitoSeiji

誤解している人が多いのだが、「ミュンヒハウゼン症候群」「代理ミュンヒハウゼン症候群」は、概念的には「詐病」や「仮病」とは明確に区別される。疾病利得とも直接は関係がない。その概念自体の正当性にも強い賛否両論があると言われている。http://t.co/rHrJhEKV

2012-03-06 18:36:20
斎藤清二 @SaitoSeiji

医療関係のマニュアルなどでも、詐病と偽性障害(ミュンヒハウゼン症候群)を区別しない記載が時にみられるので、誤解されるのも無理はないのだが、偽性障害の症状産生行動は、少なくとも当人にとっては「意識的・意図的」な行動ではない。そこを理解しないと、治療関係は成立しない。

2012-03-06 22:09:52
斎藤清二 @SaitoSeiji

私が今までに治療した経験のあるミュンヒハウゼン症候群は、偽性下痢症、偽性発熱といった病態で、その本体は隠された下剤乱用や自己注射であった。しかし、その事実を話題として当人と共有する関係を構築するには、数年以上にわたるねばり強い信頼関係構築のための努力が必要だった。

2012-03-06 22:18:49
斎藤清二 @SaitoSeiji

あえて単純化して言うと、偽性障害のクライエントはあまりにも深く苦しい心理的問題をかかえているので、そのような問題行動をとらざるを得ないのである。病者役割の希求はやむを得ない対処行動なのである。治療の焦点は問題行動の消失にではなく、心理的苦痛へのねばり強い支援に当てられる。

2012-03-06 22:23:41
斎藤清二 @SaitoSeiji

1991年に下剤乱用による偽性下痢症についての論文http://t.co/InqF2Ykhを書いた時に、ミュンヒハウゼン症候群(factitious disorders)についいてもかなり勉強して理解していたつもりだったが、最近の情報を調べてみたら色々考えさせられた。

2012-03-07 03:41:36
斎藤清二 @SaitoSeiji

最近では「factitious」の訳としては、「偽性」ではなく「虚偽性」という日本訳が定着しているようだ。「ほらふき男爵=ミュンヒハウゼン」という言葉ともあいまって、「意図的に嘘をつく」というイメージがぬぐえない。しかし、もともとは、「不自然な」とか「作為的な」という意味だ。

2012-03-07 03:53:19
斎藤清二 @SaitoSeiji

2005年のメルクマニュアルを見ると、身体表現性障害,虚偽性障害,および詐病は「身体化=精神現象が身体症状として現れること」の下位分類として位置づけられており、一応は区別される概念とされているが、意図性、意識性の程度によるスペクトラム上に位置付けられている。

2012-03-07 04:00:17
斎藤清二 @SaitoSeiji

ちなみに、DSM-4 では、虚偽性障害の定義として(1)意図的に症状や所見を作りだす、あるいは装う(2)その行動の動機は病者役割を引き受けること(3)外的な利得がないこと、の3つが挙げられている。(3)は、詐病との鑑別条件であるから、虚偽性障害と詐病は明らかに別の概念である。

2012-03-07 04:18:32
斎藤清二 @SaitoSeiji

メルクマニュアルに戻ると「ミュンヒハウゼン症候群は,重症慢性型の虚偽性障害であり,外的誘因のないところで身体症状が反復的にねつ造されるものである」「この障害は精神的な問題で,単に症状を偽るという以上に複雑であり,深刻な情緒的問題と関連している」と記載されている。

2012-03-07 04:24:22
斎藤清二 @SaitoSeiji

さらにメルクマニュアルでは「彼らが詐病者と違う点は,その嘘や模倣が意識的で意図的であっても,彼らの苦しみに対する医学的注意以上にどんな得るものがあるのかが明確でないこと,その動機と注意を引きつけたいという欲求がほとんど無意識であいまいなことである」と述べられている。

2012-03-07 04:25:44
斎藤清二 @SaitoSeiji

日本でのインターネットなどの記載を見ると、ミュンヒハウゼン症候群(虚偽性障害)を仮病や詐病とほとんど同じであるかのようにように記載してあるものが目立つ。しかし、この両者を混同することは、患者の支援や治療を考える時、致命的な悪影響をもたらす。

2012-03-07 04:32:59
斎藤清二 @SaitoSeiji

第一に「詐病」とは言葉の定義上「病気」ではなく、むしろ「病気でない」ということが「詐病の定義」である。よって、治療関係というものがそもそも成り立たない。ある人が「詐病である」と判断されるということは、「その人は病院(医療機関)から立ち去るべきである」ということを意味する。

2012-03-07 04:38:45
斎藤清二 @SaitoSeiji

これに対して「虚偽性障害」は、定義上医療の対象とすべき「病気」であり、「虚偽性障害と診断された人」に対して、医療者は「医療者ー患者関係」を構築し維持する義務を負うことになる。しかし、この義務を適切に遂行することは、通常大きな困難を伴う。

2012-03-07 04:44:10
斎藤清二 @SaitoSeiji

メルクマニュアルは、虚偽性障害の治療治療についても触れている。DSMやICDは、診断と統計のためには役に立つが、治療については、当然援けにはならない。メルクマニュアルから引用する。「治療が成功することはまれである・・(続)」

2012-03-07 04:51:01
斎藤清二 @SaitoSeiji

(承前)「患者は,治療への要求が満たされることで最初は症状緩和をみるが,その挑発はエスカレートするのが典型で,ついには医師の意思や能力の範囲を超えてしまう。治療の要求に正面から対決したり拒否したりするとしばしば怒りの反応を導くことがあり,一般には医師や病院を替えてしまう(続)」

2012-03-07 04:53:42
斎藤清二 @SaitoSeiji

(承前)「・・精神科治療は通常拒否されたり避けられたりするが,危機打開の最低限の手助けとして,助言とフォローアップケアは受け入れられることがある。しかしながら,一般的に管理は障害の早期認識と,危険な処置および過剰または不要な薬物の使用を避けることに限定される」

2012-03-07 04:55:21
斎藤清二 @SaitoSeiji

メルクマニュアル虚偽性障害の治療についての記載は、精神科の専門家の観点からの正直な記載であり、現代の標準的な状況を適切に述べていると思われる。しかし、このような治療の困難さは、結局は治療関係の維持の難しさを別の言葉で言い換えているに過ぎないとも言える。

2012-03-07 04:59:58
斎藤清二 @SaitoSeiji

治療関係が切れてしまえば、治療は不可能である。よって治療関係の継続と改善こそが、どんなに困難であっても、最大の目標とされなければならない。そのような努力をねばり強く続ける中からなにかが起こってくる可能性が生じる。それは稀有なことであるかもかもしれないが、時にそれは起こる。

2012-03-07 05:07:06
斎藤清二 @SaitoSeiji

先日「虚偽性障害=ミュンヒハウゼン症候群」についての知見と私的見解についてツイートしたが、その追加として「代理ミュンヒハウゼン症候群」についてまとめておきたいと思う。

2012-03-10 21:36:30
斎藤清二 @SaitoSeiji

メルクマニュアルの2005年版の記載をます引用する。「代理によるミュンヒハウゼン症候群は(ミュンヒハウゼン症候群の)一種の変種で,成人(通常は両親)が彼らの庇護下にあるもの(通常は子供)に意図的に症状を作り出したり,そう見せかけたりするものである」

2012-03-10 21:39:57
斎藤清二 @SaitoSeiji

(引用続き)「大人が病歴を偽り,子供を薬物やその他の物質で傷つけたり,尿試料に血液や細菌汚染物を加えたりして病気を装う。親は子供の治療を求め,子供のことを深く心配し,守ろうとするかのようにみえる・・・(続)」

2012-03-10 21:49:17
斎藤清二 @SaitoSeiji

(引用続き)「子供は頻繁な入院歴をもつのが典型で,通常は様々な非特異的症状があるが,確定的な診断には至らない。被害を蒙る子供は重篤な状態になり,死亡することもある」・・この記載は、wikiを始めとする多くの、一般の人が入手できる情報とほぼ同じ内容である。

2012-03-10 21:52:33
斎藤清二 @SaitoSeiji

ミュンヒハウゼン症候群の場合でも、本人との治療関係を構築することは非常に難しい。その最大の理由は、治療者が採用している「疾患の物語」が、本人によって受け入れられることは、ほぼあり得ないからである。ましてや代理ミュンヒハウゼン症候群(MSbp)の場合はさらに複雑な問題がある。

2012-03-10 21:59:13
斎藤清二 @SaitoSeiji

もし医療現場や社会福祉の現場で、MSbpが疑われた場合、それはほとんどの場合「虐待」という文脈でとらえられることになる。医療者および司法が母親とその子供を「虐待というストーリー」で理解したとしても、母親がそのストーリーを受け入れることはほとんどないだろう。

2012-03-10 22:06:23
斎藤清二 @SaitoSeiji

MSbpがもし事実であったとしても、当事者である母親は虐待を認めないだろうから、母親の側は「冤罪」を主張することになる。もし万一、MSbpを疑われた母親が本当に無実だった場合は、これはまさに「冤罪」になってしまう。これはいずれにせよ非常に難しい状況だ。

2012-03-10 22:22:17