作家・高橋源一郎氏の吉本隆明さんへの追悼文 『 思 想 の 「 後 ろ 姿 」  高 橋 源 一 郎』

朝日に掲載された追悼文を奥様が書き込んで下さいました。
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アイコンは奥様がファンであるネゴシックスさんが描いた高橋さんです。

高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

新聞なので買い逃した方のために、昨日の吉本隆明さんへのタカハシさんの追悼文をこちらでアップします。 思 想 の 「 後 ろ 姿 」  高 橋 源 一 郎 

2012-03-20 01:40:21
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

1. いま吉本さんについて書くことは、ぼくにはひどく難しい。この国には、「わたしの吉本さん」を持っている人がたくさんいて、この稿を書く、ほんとうの適任者は、その中に いるはずだからだ。吉本さんは長い間にわたって、ほんとうに多くの人たちに、大きな影響を与えてきた。

2012-03-20 01:44:04
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

2.けれども、その影響の度合いは、どこでどんな風に出会ったかで、違うのかもしれない。半世紀以上も前、詩人としての吉本さんに出会った人は、当時、時代のもっとも先端的な表現であった現代詩の中に、ひとり、ひどく孤独な顔つきをした詩を見つけ驚いただろう。

2012-03-20 01:46:02
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

3.そして、この人の詩は、孤独な自分に向かって真っ直ぐ語りかけてくるように感じただろう。六十年代は、政治の時代でもあった。その頃、吉本さんの政治思想に出会った人は、社会や革命を論じる思想家たちたくさんいるけれど、彼の思想のことばは、他の人たちと同じような単語を使っているのに、

2012-03-20 01:48:42
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

4.もっと個人的な響きを持っていて、直接、自分のこころの奥底に突き刺さるような思いがして、驚いただろう。あるいは、その頃、現実にさまざまな運動に入りこんでいた若者たちは、思想家や知識人などいっさい信用できないと思っていたのに、この「思想家」だけは、いつの間にか、自分の横にいて、

2012-03-20 01:51:17
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

5.黙って体を動かす人であると気づき、また驚いただろう。それから後も、吉本さんは、さまざまな分野で思索と発言を続けた。そこで出会った人たちは、その分野の他の誰とも違う、彼だけのやり方に驚いただろう。吉本さんは、思想の「後ろ姿」を見せることのできる人だった。  

2012-03-20 01:53:36
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

6.どんな思想も、どんな行動も、ふつうは、その「正面」しか見ることができない。それを見ながら、ぼくたちは、ふと、「立派そうなことをいっているが、実際はどんな人間なんだろう」とか「ほんとうは、ぼくたちのことなんか歯牙にもかけてないんじゃないか」 と疑う。

2012-03-20 01:56:07
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

7.けれども、吉本さんは、「正面」だけではなく、その思想の「後ろ姿」も見せる ことができた。彼の思想やことばや行動が、彼の、どんな暮らし、どんな生き方、どんな 性格、どんな個人的な来歴や規律からやって来るのか、想像できるような気がした。  

2012-03-20 01:57:50
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

8.どんな思想家も、結局は、ぼくたちの背後からけしかけるだけなのに、吉本さんだけは、ぼく たちの前で、ぼくたちに背中を見せ、ぼくたちの楯になろうとしているかのようだった。ここからは、個人的な、「ぼくの吉本さん」について書きたい。

2012-03-20 02:00:10
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

9.ぼくもまた、半世紀前に、吉本さんの詩にぶつかった少年のひとりだった。それから、 吉本さんの政治思想や批評に驚いた若者のひとりだった。ある時、本に掲載された一枚の 写真を見た。吉本さんが眼帯をした幼女を抱いて、無骨な手つきで絵本を読んであげている写真だった。

2012-03-20 02:01:14
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

10.その瞬間、ずっと読んできた吉本さんのことばのすべてが繋がり、腑に落ちた気がした 。「この人がほんものでないなら、この世界にほんものなんか一つもない」とぼくは思った。その時の気持ちは、いまも鮮明だ。

2012-03-20 02:02:58
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

11.大学を離れ、世間との関係をたって十年後、ぼくは小説を書き始めた。吉本さんをたったひとりの想像上の読者として。その作品で、ぼくは幸運にもデビューし、また思いがけなく、その吉本さんに批評として取り上げられることで、ぼくは、この世界で認知されることになった。

2012-03-20 02:04:20
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

12.ぼくは、生前の吉本さんに何度かお会いしたが、このことだけは結局、言いそびれてしまった。おそらく、それは「初恋」に似た感情だったからかもしれない。ぼくが、この稿に適さぬ理由は、そこにもある。

2012-03-20 02:06:46
高橋源一郎 お仕事お知らせ @takagengen2

13.吉本さんの、生涯のメッセージは「きみならひとりでもやれる」であり、「おれが前にいる」だったと思う。吉本さんが亡くなり、ぼくたちは、ほんとうにひとりになったのだ 。

2012-03-20 02:07:46

写真を探していただきました。

高橋源一郎 @takagengen

ありがとうございました。この写真です。写っているのは、たぶん、ばななさんですね。 RT @jomonsugi10000: 吉本隆明さん。高橋源一郎さんの追悼文のあの写真です。http://t.co/7v5J2ULq

2012-03-20 11:55:34