使用済み核燃料プール、ジルコニウム火災について

自分まとめ。使用済み核燃料プールの水が一挙に抜けたり、プールが倒壊したりして燃料棒が空気中に露出する事態になったとき、一番に懸念されるのはジルコニウム被覆管の「火災」(zirconium cladding fire) のようです。 アメリカでは911のテロ攻撃を契機に、使用済み燃料プールの脆弱性が議論の対象となったようで、このジルコニウム火災を扱った論文や委員会報告が2000年代以降いくつか出ています。 こうした論文と報告について、ぽつぽつと拾い読み中。
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Alvarez 他 (2003)

最初にこの問題に強く注意喚起したのは Alvarez 他 (2003) の論文でした。

これより前、米原子力規制委員会 (NRC) は 2001 年に、(廃炉の決まった原発に対する安全性評価の報告で)ジルコニウム火災の帰結は深刻なものの、まず起こらないのでリスクは小さいとしていました。

畠山元彦 @MuiMuiZ

テロなどで使用済燃料が外気にさらされ火災となる問題は911を受け2003年にAlvarez他が指摘したよう。 http://t.co/q6jTHIOY 密に燃料の詰まったプールから水が抜けると、被覆管のジルコニウムが発火し、チェルノブイリ以上の汚染を引き起こす。

2012-03-30 12:24:34
畠山元彦 @MuiMuiZ

プールで水が抜ける事故が起き燃料集合体が曝け出された場合、γ線線量はプールの縁で100Sv/h以上、直接燃料が見えないフロア内でも数Sv/hとなって、その場しのぎの作業はできなくなる。(Alvarez et al., 2003)

2012-03-30 12:26:33
畠山元彦 @MuiMuiZ

米の典型的なプールなら、火災によりすべての燃料が放出されるとCs-137だけで最悪チェルノブイリの約70倍の5万km²(東北全県は6.6万km²)風下の距離にして600kmが370万Bq/m²以上の汚染となる。(Alvarez et al., 2003)

2012-03-30 12:27:57

ちなみに、平均的にはアメリカのプールの方が燃料の本数が多いようです。 Alvarez らの論文では、使用済み燃料プールの冷却材喪失事故の危険性を減らすために、5年以上経った燃料を早期にドライキャスクへ入れることなどを提案し、そのための追加の費用を見積もっています。

おまけ

畠山元彦 @MuiMuiZ

Alvarezさんはこのおじさんだった。見たことあるわ ─(2011-06-10) Democracy Now『福島原発事故の深刻化に立ちあがる市民』 http://t.co/NFt9uwcj シンクタンクIPSに311以降のレポート2つ http://t.co/bfhTwAHr

2012-03-30 20:47:27

米研究評議会委員会報告 (2006)

畠山元彦 @MuiMuiZ

使用済燃料プールでのジルコニウム火災の危険性について(主にテロに対し)検討された報告書のよう Safety and Security of Commercial Spent Nuclear Fuel Storage (2006) http://t.co/owGaBsyO

2012-03-29 22:33:34

Alvarez 他の論文の公表後、NRC などから論文に対して(主として対策の費用対効果に関して)批判的な議論が起こったようです。 これによって米議会が全米アカデミーに使用済み燃料プールのテロに対する脆弱性に関する報告を求めることとなりました。 全米アカデミー下の米研究評議会が 2004 年に機密の報告を提出し、2006 年に機密部分を除いた公開報告が出版されています。

報告はテロによる使用済み燃料プールの冷却水喪失事故による火災の危険があることを実際に認めるものでした。

畠山元彦 @MuiMuiZ

おそらくこの論文もあって、National Academiesの「商業用使用済み核燃料貯蔵の安全・危機管理委員会」がテロ対策として機密の報告を行っており、2006年にその一部が公開報告として公開されている。 http://t.co/owGaBsyO

2012-03-30 12:29:33
畠山元彦 @MuiMuiZ

拾い読みすると、酸素または水蒸気にジルコニウムが晒されたまま崩壊熱で1000℃ほどとなると、それを上回りうる熱を出して「ジルコニウム被覆火災」となる。約1800℃になると酸化ウランと反応して溶融物となり、放射性物質がガスやエアロゾルとしてダイレクトに放出される。

2012-03-30 12:30:45
畠山元彦 @MuiMuiZ

この報告があったこともあって、NRCは福島の事故でプールの水位に早期から注目したんじゃないだろうか。実際、福島ではこの紙一重のところまでいって、偶然の水の流入によって救われた。

2012-03-30 12:38:20
畠山元彦 @MuiMuiZ

今後もし福島の4号機プールや他のプールから水が抜けたり崩れ落ちたりすれば、チェルノブイリのように誰かが死を覚悟して砂や鉛を投下するなどし、なんとか火災を防がなければならなくなるのだろう。それでうまくいくのかどうかわからないけど。

2012-03-30 12:40:06

3章「使用済み燃料プール貯蔵」に関して

(2012-04-05追加)

畠山元彦 @MuiMuiZ

米研究評議会委員会報告(2006)3章:プールの水が抜けたとき被覆管のジルコニウムは酸素 Zr+O₂→ZrO₂+熱 (1200万[J/kg])、あるいは水蒸気 Zr+2H₂O→ZrO₂+2H₂+熱 (580万[J/kg]) と反応。※後者は炉で起きて水素を発生させた反応。

2012-04-05 08:10:09
畠山元彦 @MuiMuiZ

発生する熱は周囲の温度を上げて酸素か水蒸気がある限り自己触媒的に反応を加速させ暴走(runaway)する。発火温度は条件によって変わるが、900°C以下だと反応は非常にゆっくり進むとしている(Ch.3 n3) 反応は「森林火災か線香花火のように」前線を作って燃料棒を伝わっていく

2012-04-05 08:11:09
畠山元彦 @MuiMuiZ

BWRのプールに関して解析と実験がサンディア国立研究所で行われた(PWRに関してはおそらく現在も継続中)。詳しい結果は秘密のようで公開報告書ではさわりしか触れられていない。ただし火災が起こるには燃料棒の配置が重要で、崩壊熱の大きな燃料棒が密集しているとよくない。(§3.3.2)

2012-04-05 08:11:48
畠山元彦 @MuiMuiZ

また空気による冷却が確保されているかどうかも重要なよう。水が途中までしか抜けていないと完全に水が抜けたときよりもかえって下からの空気の循環が阻害される。水蒸気との反応でプールが建屋内の水素の供給源となり爆発するかもしれないという話にも触れられている。(§3.3.2)

2012-04-05 08:12:32
畠山元彦 @MuiMuiZ

ジルコニウム火災の危険性を少なくするには、崩壊熱の大きな燃料と小さな燃料が市松模様のように配置しているのがよいよう。(§3.3.2) ※残念ながら4号機プールではそんな気遣いはされていない http://t.co/pByG5HGT (DOE via @hyd3nekosuki)

2012-04-05 08:13:42

おまけ

4/10に米科学アカデミーが米議会の要請で2年がかりの福島の事故調査委員会を立ち上げるという報道がありました。 そのトップとなるらしい Crowley 氏は、米研究評議会の Nuclear and Radiation Studies Board のトップなので上の報告とともに名前が出てくるのは不思議はないと思われます。 米アカデミー事故調の報告は上の報告と同じような形で行われ出てくるのかもしれません。

畠山元彦 @MuiMuiZ

科学アカデミー事故調 Kevin D. Crowley:最近見てた米アカデミーの使用済み燃料の委員会 http://t.co/MOi4Nofb でも Study Director となっている。 元々は地質学者のよう。11/26の講演: http://t.co/ynUXzdZc

2012-04-10 17:19:43

模擬 BWR 燃料集合体加熱実験

サンディア研究所で行われた実験結果について詳細は公開報告に書かれていませんが、他の資料でそれらしきものの概要がわかります。

畠山元彦 @MuiMuiZ

メモ:OECD/NEA Sandia Fuel Project http://t.co/JDGboDHn ― (PWRの)燃料集合体の発火実験とシミュレーション。800°Cぐらいで発火のご様子。BWRの実験データもあるのかな?

2012-04-02 12:17:37

上のツイートは、スイスのパウル・シェラー研究所 (PSI) の過酷事故研究 (SACRE) のグループのページにあったサンディアによる加圧水型原子炉 (PWR) プールの実験の提案についての解説へのリンク(記述年不明)です。 上のツイートでは勘違いしていますが、これ以前に行われた沸騰水型原子炉 (BWR, 福島第一など東電が使用している型) の実験結果が一部含まれています。 800°C は引き算間違い、実際はおよそ 1200 K (≈ 900°C) でしたm(_ _)m
(以下 2012-04-09 追加)