サツバツ・ナイト・バイ・ナイト #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第3部「不滅のニンジャソウル」より 「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」#3

2012-04-28 22:30:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:ザクロやヤモトが住む、ネオカブキチョのニチョーム・ストリート。ザクロの政治力によって、ニチョーム自治会はソウカイヤやザイバツとの間に不可侵条約を結んできた。だがニチョームとニンジャスレイヤーとの関係性を疑うアマクダリは、恐るべき計画を実行に移そうとしていたのだ……!)

2012-04-28 22:35:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

灰色の朝。曇り。不夜城ネオカブキチョの巨大ビル群が落とす長い影の下で、セクシャル・マイノリティたちの避難所、ニチョーム・ストリートが目を覚ます。ザクロの経営するバー「絵馴染」のシャッターが開き、竹ぼうきで日課の清掃を行うために、ヤモト・コキが外に出てきた。 1

2012-04-28 22:40:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

古い歓楽街の朝は、どこも似ている。満タンのポリバケツ、割れて転がったサケ瓶、側溝からはみ出した嘔吐物……カラスたちが我が物顔で翼を広げ、気だるげに垂れ下がった電線の上を飛び去ってゆく。夜闇とネオンの化粧を落としたストリートは、低血圧オイランめいて、まだ眠そうに横たわっている。 2

2012-04-28 22:48:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトは少し肌寒い空気を感じながら、ほうきを動かす。向かいのゲイマイコポルノショップ「真剣味」から、丸坊主にあごひげを生やした若いゲイマイコが出てきて彼女にアイサツし、ブラシとバケツで店の前の嘔吐物を処理し始めた。早朝のゴミ出しや清掃は、まだロクに客も取れない新入りの仕事だ。 3

2012-04-28 22:54:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゲイマイコは「ラテン」と繊細ミンチョ体で縦書きされたノボリを、女性よりもしなやかな動きで担ぎ、またヤモトに一礼して「真剣味」に帰っていった。ヤモトも静かに一礼を返す。彼女はこの街の住人のひとりとして認められるのみならず、ザクロの助手として静かなリスペクトを受けてもいた。 4

2012-04-28 23:03:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトはこの街が好きだった。むろん、彼女自身は特殊性癖を持つ訳ではない。しかし、マイノリティを差別せず、全てのものを許容するこの街の優しさが、闘争と別離の中で傷付いたヤモトの心を癒してくれたのだ。冷酷なキョートの格差社会に生まれた彼女にとって、この猥雑さはある種の救いだった。 5

2012-04-28 23:15:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトはストリートの左右を見渡し、左の並びの清掃がまだ終わっていないことに気付くと、ほうきを持ってオスモウサウナ風呂「キマリテ」の前に向かう。この街のニュービーだった時から、ヤモトはこうした謙虚な心配りを忘れない。奥ゆかしさ……それは彼女がキョート時代に身に付けた美徳である。 6

2012-04-28 23:24:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あー、ヤモト=サンじゃなーい!」「ヤモト=サン、オハヨ!」シャム双生児めいた特殊結合サイバネ手術を施した双子の人気ユーレイゴス、オブツダンとセンコウが、お互いの眠た目を擦りながら、両手にワイン瓶を持って歩いてくる。また昨日も、セプク・ショーの仕事が深夜まで続いたのだろう。 7

2012-04-28 23:38:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オハヨ、今日もお疲れさま」ヤモトは顔を上げ、穏やかな笑みを返した。「カワイイヤッター!ヤモト=サン、桃みたいな肌!」オブツダンがけらけらと笑い、センコウは妹の人差指を舐めながらヤモトに色目を投げる「……ね、ヤモト=サン、いつでも遊びに来ていいよ、3人いっしょに、遊びましょ」 8

2012-04-28 23:49:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ダメよー。困ってるじゃないー」妹がたしなめると、姉は陰気に笑ってワインを煽った「カワイイのに誘わないと、シツレイだし」。このような事はチャメシ・インシデントだ。だが心配は無い。この街の住人は、自分達の趣味を他者に無理強いすることはないからだ。観光客のほうが余程無礼である。 9

2012-04-29 00:01:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッ!ドッソイ、スミマセン!」横のシャッターが開き、ほうきを持った眠そうなスモトリが出てきた。「あ、おはようございます」ヤモトが礼をする。「ホントよおー、いいところだったのに…」双子は小さく笑いながら遠ざかる。「ヤモト=サンを撫でたかったなあー」センコウがおどけて笑った。 10

2012-04-29 00:13:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「掃除してもらった上に、邪魔まで!」スペード眼帯をつけたスモトリ崩れは、酒焼けした声で謝罪する。ケジメしかねない勢いだ。ばつが悪くなり、ヤモトも謝る。スモトリは奥からオスモウ惣菜を持ってきて、それをフロシキで包んで渡した。ヤモトは礼儀正しく2度これを断り、3度目で受け取る。 11

2012-04-29 00:24:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトもザクロも「キマリテ」の焼肉や密造酒は大好きだ。ヤモトは礼を言った。「味に奥ゆかしいキョートの人に褒めてもらうと、ウレシイ」とスモトリ。ヤモトは優しくかぶりを振る「……この街のほうが、アタイの住んでたガイオンより何倍も奥ゆかしいよ」。そして朝食を作るために踵を返した。 12

2012-04-29 00:36:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆守りたい◆ 【NINJASLAYER】 ◆健全な◆

2012-04-29 00:39:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チャブの上にはベジタブル・スシ、味噌汁、海苔、紫色のピクルス、お茶などが並ぶ。典型的な日本の朝食だ。「キマリテ」からもらったタマゴもある。「これ、美味しいわね」チャブに座ったザクロが、オスモウ惣菜を口に運びながら言う。向かい合って座るヤモトも、それに同意した。 14

2012-04-29 23:04:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ね、ザクロ=サン」ヤモトがお茶を飲んで話を切り出した。まだ自分の中で答えが見出せていない疑問について「……会いたい人がいて、でも、会うと迷惑が掛かるかもしれない……っていう状況、ザクロ=サンはどう思う?」「アーラ!珍しいじゃない、アータがそんな話してくるなんて!」 15

2012-04-29 23:12:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マ、迷惑ったら迷惑ね」「やっぱり迷惑なんだ」ヤモトがアサリの顔を思い浮かべながら呟く。「でもね」とザクロは思い人の顔を思い浮かべながら続ける「アタシがもし待つ側だったら……そんなの、会いに来てほしいに決まってるじゃない!迷惑が何よ!迷惑したいのよ、アタシは!禁断の恋よ!」 16

2012-04-29 23:24:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトは別離して久しい親友を想うあまり、ザクロの最後の言葉が耳に入っていない。「ニンジャでも、同じことなのかな?」「当たり前じゃない、ニンジャでも人間でもおんなじよ」「でも、会うと身に危険が迫るかも」「だ、か、ら、こ、そ、よ!明日には散るかもしれないのよ。だから守るのよ!」 17

2012-04-29 23:33:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「じゃあ、周りの人にまで迷惑かけちゃうかもしれない時は?周りの人の……普通の人たちの幸せを、壊しちゃうかも……しれないなら」「……重い話ね」ザクロが熱いお茶を啜った「そうよね。別に守らなくちゃいけないものがあるとなると、マー、フクザツよね。……ああ、そういうコトなのね……」 18

2012-04-29 23:41:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……だからあの人は……でも……」今度はザクロが野太い腕を組んで、何か物思いに耽ってしまった。ヤモトは、ザクロと何か話が噛み合わないことを不思議がりながら、箸を置いて朝食を終えた。それから、昨日のモージョー屋台での一件を思い出してザクロに伝え、自分は屋上へと上がった。 19

2012-04-29 23:52:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

まだニチョーム・ストリートの空気は早朝に片脚を突っ込んでいた。「絵馴染」の低い屋上に上がったヤモトは、愛刀ウバステを抜き、イアイドー・トレーニングを行う。彼女の日課の一つだ。あの時教わった太刀筋、カラテ、剣捌き……全てを忘れぬように、反復する。早朝の冷たい空気を、刃が斬る。 20

2012-04-30 00:28:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

凛々しい音。自然と背筋が伸びる。100回ワンセットの素振りを終えると、ヤモトはウバステを構えたまま目を閉じ、瞑想を行った。脳裏に浮かぶのは、先程フジキドの事を伝えた時のザクロの笑顔、そしてニチョームの人々の奥ゆかしく暖かい生活。それらを守りたい。それが自分の幸せでもある。 21

2012-04-30 00:36:50