國分功一郎さん、腹を割れないこと、空気について

KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

坂口恭平さん（@zhtsss）がツイートで「ただ腹を割って話さないという単純な行為が絶望的な結果の前に転がっているような気がする」と言っていてRTしたのだが、これは本当に深刻な問題だと思う。ちょこっと誰かと話せば解決するのにそれができず絶望的状況を招いてしまっているという事実。

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同じようなことをこんな場合に感じる。俺がトークショートかで相手と違う意見になる。たとえばドゥルーズについて千葉くんとトークをやったとき、千葉くんと意見が異なるところあって、それについて話をした。すると、次の日にはネットに、國分と千葉はケンカ別れみたいなことが書かれている。

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それが事実として間違っているとかじゃなくて、俺は「みんな、あんな程度の意見対立も日常生活で体験していないの？！」という気持ちになって驚く。他にもこういう例があった。

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いま人は驚くほど対立を避けているということだろうか。だから俺らがあっけらかんと「えぇそれ納得できないよ」みたいな話をするだけで、「あいつらはケンカ別れだ」みたいに思われてしまう。別にそう思われてもいいんだけど、それより、そういう判断をする人の日常生活のつらさが気になる。

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だって、いつも作り笑いを浮かべながら、誰かにも不満を言わず、誰かから自分への不満も言われることなく、ケンカを避けて、対立を避けて、目の前にある「空気」を維持しようと必死に生きているわけでしょ。そんなつらいことはない。

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この前のTBSラジオLifeで「世間論」をやったとき、山本七平の「空気の研究」を取り上げた。読み直したらやはりかなり面白かったのだけれど、ラジオで俺が言ったのは、山本七平の場合、「空気」は「水」と対になっているということだ。

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水というのは「水を差す」の水。つまり、「この空気ではこうせざるを得ない」という空気がある。そしてそれに横やりを入れるのが「水を差す」という行為。山本七平は「戦後、我々は、自由、自由と言ってきたが、その自由とは「水を差す自由」であった」とも言っている。名言。

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ところが、いまKYと言う時の「空気」には水が差せない。なぜか？水を差すためには空気に方向性がないといけない。たとえば戦艦大和を出撃させる空気とかそういう空気。そこに「出撃したら、戦闘機にやられるんじゃね？」っていうのが水を差すこと。

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それに対してKYとか「空気読め」って言う時の空気には方向性がない。だから水を差すも何もなくて、単にみんなでへらへらしながら必死で維持するだけ。しかし「空気読め」といいながら何を維持しているのだろうか？

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Lifeに出演していた濱野智史さんは「空気読め」と言うことで、そいつにうまく場所を与えるという機能もこの言葉にはあると言っていて、なるほどと思った。しかし俺としてはその前に山本七平が問題にしていたのとは別の空気が世間を支配しつつあることにとても危機感を感じる。

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突然思い出したけど、太古の昔『GS』という雑誌に浅田彰が書いたフーリエの紹介文に「フーリエのファランステールでは人はよくケンカをする」というようなことが書いてあったのを思い出した。そうだ。フーリエの理想社会では人はよくケンカするのである。

KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

まあ俺もこの真理に気付いたのはこの二、三年のことなんだけど、つらいことでも誰かに言うと、現実は変わっていないのに楽になるってことがあるんだよね。