トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア #6

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア」#6

2012-07-07 15:23:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:ザイバツの本拠地であるキョート城に幽閉されたドラゴン・ユカノは隙をついてホウリュウ・テンプル(訳注:城敷地内)の地下座敷牢から密かに脱出。ニンジャスレイヤーらの突入を支援するために、ウイルスの入ったモーターチビ(訳注:小型正十二面体ドロイド)を伴って電算機室へ走る!)

2012-07-07 15:30:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホンマル内の迷宮の如き回廊を、ユカノは音も無くしめやかに渡る。所々にサウンド・トラップが仕掛けられた木板の廊下を、こうして無音のまま駆け抜けられるということは、即ち彼女が常人でないことの証左。ユカノはソウル憑依者ではない。彼女はドラゴンニンジャ・クランのリアルニンジャなのだ。 1

2012-07-07 15:40:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワイヤフレームUNIXゲームめいて、薄暗い廊下はL字やT字に小刻みに折れ曲がる。ユカノが速度を落とさぬまま角を曲がると、その先には、不用意な侵入者を惑わせる代わり映えしない回廊が再び出現した。左右には無数のフスマが並ぶが、情報不足のため容易にこれらの部屋には侵入できない。 2

2012-07-07 15:48:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユカノが速度を落とさない理由は、作戦決行までの時間が限られているからだ。あと十分弱で、ナンシー・リーがキョート株式市場と為替市場へのフェイク電脳攻撃を開始する。ユカノはそれと連携し、チビを電算機室に放さなくてはいけない。予定では既に、ユカノは電算機室前に到着している筈だった。 3

2012-07-07 15:59:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

遅れの理由は、追っ手を撒かねばならぬからだ。ユカノは奇怪な四脚獣のごとき番犬ニンジャが跡をつけてきていることに気付いていた。電算機室が狙いだと気付かれれば、この作戦は失敗する。壁に掲げられたロードの直筆ショドー、「急がば回れ」のコトワザが、彼女を嘲笑っているかのようであった。 4

2012-07-07 16:06:50
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T字路の突き当たりに向かって駆けるユカノ。右か、左か。迷っている時間は無い。「カチカチカチ……」不気味な音が、数十メートル後方でユカノの足取りをぴったりとトレスしてくる。精神を集中する。経路的には左。だが左からは別なニンジャソウルの気配!彼女は直前で素早く右にカーブを切った! 5

2012-07-07 16:14:11
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「イヤーッ!」ユカノは回転ジャンプで壁を蹴り、一瞬だけ左手の敵を確認しながら右に曲がる。もう一人の追跡者の影が仄見えた。オーバーオールで体を覆い、鉈を構えた大柄なニンジャ……レッドクリーヴァーである。彼の頭部にはワッチドッグと同様、人間性を廃した不気味なメンポが備わっていた。 6

2012-07-07 16:24:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユカノにとっては幸か不幸か、彼らは自我無き自動殺人者であった。増援を呼ばれる危険性は少ない反面、手加減という言葉を知らぬ。ユカノは焦燥感と苦痛に、いささか顔を歪めた。ホンマルに侵入する直前、ワッチドッグと川沿いで交戦した際に、左腕に傷を負ったのだ。カラテの力量差は歴然である。 7

2012-07-07 16:35:48
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ユカノは非人道兵器マキビシを躊躇無くばら撒きながら、長い廊下を走り抜ける。だが果たして、あの異形ニンジャ相手にどれほどの効果を発揮するものか。「チビ、経路情報を」「ヌンヌンヌン……」ユカノの前方に3Dホログラフィで地図と残時間が表示される。「絶望的な」というナビ情報とともに。 8

2012-07-07 16:44:53
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左右の壁に、何十本もの小ロウソクが揺らめく薄暗い小部屋。白いエルゴノミックUNIXチェアに掛け、ザゼンめいた精神集中を試みるのは、黒いキャットスーツの女ハッカー。ナンシー・リーである。カウントダウンを続けていた彼女のサイバーサングラスの液晶面が、00:00:00を表示した。 9

2012-07-07 16:54:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワーオーワーオーワーオー!キョート城電算機室に警告音が鳴り響き、電子ボンボリが回転する!「ダッコラー!?」「ザッケンナコラー!」防寒着を着込んだクローンヤクザたちが、鉄網状のフロアを慌しく駆け回る。「何よこれ?」中央戦略チャブに座る女ニンジャは、原因究明の試みを続けていた。 10

2012-07-07 17:06:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうした、ストーカー=サン、何の騒ぎだ」突如、電算機室の天井が開き、もう一人のニンジャが己の居室から電算機室内にひらりと着地した。彼こそはグランドマスター位階ニンジャ、ヴィジランスである。ストーカーと呼ばれた女ニンジャは安堵の息をつく。「キョート株式市場への経済攻撃です」 11

2012-07-07 17:17:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヴィジランスは眼鏡を掛け直し、戦略チャブ上に映し出された数十個の画面から情報を読み取る。その目の下には深い隈。彼は二十四時間体勢でキョート経済を監視、必要に応じて操作する役目を与えられている。彼はLAN直結者ではなく、故にストーカーのように忠実で有能な助手を必要とするのだ。 12

2012-07-07 17:30:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どこまで突破された?」「第七論理ファイアウォールが破られるまで、あと数十秒です」ストーカーが新画面を開きながら返す。そのついでに、先程までプレイしていたゲーム画面を密かに閉じる。ザイバツの秘密に近づきかけた市民をネット上で徹底マークして破滅へと追いやる、悪辣なゲームだ。 13

2012-07-07 20:39:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……何故もっと早く手を打たなかった?」ヴィジランスはシリアスな口調で問い、椅子に座ると、ストーカーから戦略チャブのメインタイピング権を奪う。画面だけを見ながら、邪魔そうに手を横に伸ばして助手を立たせた。「一瞬で突破されたんです」「一瞬で?第六論理ファイアウォールまでを?」 14

2012-07-07 20:45:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

助手の言葉をにわかには信じられなかったが、まさか彼女がそのような見え透いた嘘をつくまいとも考えられた。戦略チャブに備わった4個の物理キーボードと上に投影された緑色ホログラフィ・キーボード2個を高速タイピングし、彼は敵の攻撃履歴を解析する。その結果は「……YCNANだと!?」 15

2012-07-07 20:50:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「YCNAN!」(((あのクソ女狐…!)))ストーカーは舌打ちし、美しい顔が一瞬だけ憎悪に醜く歪む。YCNANはネオサイタマの伝説的女ハッカーであり、これまでにも数回キョートIRCに侵入を図った。ストーカーは何度も追尾を試みたが、彼女はいつも尻尾を掴ませず逃亡するのだった。 16

2012-07-07 21:00:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヴィジランスは自らの箱庭のごとき市場を調査した。幸い、被害はまだ無い。だがこのまま第七第八の論理防壁が破られれば、制御権を奪われ、市場は大混乱に陥るだろう。「ウィルス迎撃はできないのか?敵のIPは?」「まだです。違法プロキシを何個も経由しています」「やはり只者ではないな!」 17

2012-07-07 21:07:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「第七防壁陥落ドスエ」電子マイコ音声が鳴り響く!「アババババーッ!」脳改造を施された奴隷ハッカー2人が鼻血を流して倒れた!「これはネオサイタマからの宣戦布告だな」ヴィジランスは眼鏡を直しながら言う。「よかろう。全制御権を私に集約しろ!私のエコノミック・カラテを見せてやる!」 18

2012-07-07 21:15:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方その頃、ユカノは未だ電算機室に辿り着いていなかった。迂回経路を選択したが、ワッチドッグに先回りされ、再び逃走を強いられたのである。咄嗟に投擲したドス・ダガーの代わりに、廊下に掛けられたサイを握り、点在するタンスからスリケンやマキビシなどを補給しつつ、休みなく駆け続ける。 20

2012-07-07 21:28:48