作家 橋本紡氏のライトノベル立志伝

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橋本紡 @tsumugu_h

すみません。ちょっと長くなります。小説に興味のある方向けの内容です。まずい内容も含みますが、拡散していただいてOKです。ここはもう、西原さん的に開き直ります。

2012-07-11 08:52:52
橋本紡 @tsumugu_h

最初から書くと、僕はまったくライトノベルに興味なんてなかった。そんなジャンルがあることも知らなかった。電撃小説大賞に応募したのは、ごくごく単純に、SFを受け入れてくれそうだったから。あと締め切りが近かったから。

2012-07-11 08:54:23
橋本紡 @tsumugu_h

ライトノベルなんてジャンルがあることなんて、まったく知らなかった。当時の僕は英米文学しか読んでなくて、日本の小説には興味がなかった。僕はただ、当時付き合っていた彼女に恩返しをしたかっただけ……今の妻ですが。

2012-07-11 08:55:50
橋本紡 @tsumugu_h

そうして応募したら、授賞した。ただ受賞作が売れないことはわかっていた。選考委員に評価はされるけど、読者には評価されない作品というものあると知っていて、それを踏まえた上で書いたから。

2012-07-11 08:57:42
橋本紡 @tsumugu_h

今でもよく覚えているけれど、受賞式後の打ち上げで、上遠野さんや阿智君、編集さんと飲みながら、僕は言った。受賞作は売れですよ、と。だから、次の作品で勝負させて下さい。

2012-07-11 08:59:34
橋本紡 @tsumugu_h

それって、すごく失礼なこと。編集さんは売るつもりで僕を取ってくれたんだから。だけど僕は売れないとわかってた。編集さんの好きな作品を書いてたら、僕は潰れるな、と。だから次の作品をすでに考えていた。

2012-07-11 09:01:12
橋本紡 @tsumugu_h

案の定、受賞作は売れなかった。予想通りだった。ただ、予想通りじゃないこともあった。次のチャンスを貰えなかった。詳しいことは書かないけど、編集部内でいろいろと面倒なことあって、僕はいわゆる「干される」ことになった。

2012-07-11 09:02:38
橋本紡 @tsumugu_h

プロットを送っても読んでもらえない。短編を書いても読んでもらえない。電話にも出てもらえない。そんな時期が二年ばかり続きました。珍しい話じゃないです。おそらく新人賞を取った作家の八割が同じ目にあうでしょう。

2012-07-11 09:06:16
橋本紡 @tsumugu_h

だから僕はいきなり完成作を持ち込んだ。これは売れますから出して下さい、と。編集者にねじ込んだ。それが『バトルシップガール』の第一巻。もう絶版状態だけど、持ってる方は背表紙を確かめてみてください。シリーズ物なのに「1」とついてない。つまり売れなかったら、打ち切り予定だったわけです。

2012-07-11 09:08:30
橋本紡 @tsumugu_h

あそこでごり押ししてよかったと思う。もし行動に移さなかったら、今の僕はなかった。そう、『バトルシップガール』の第一巻は売れました。発売当日に書店からなくなるくらい。

2012-07-11 09:10:22
橋本紡 @tsumugu_h

不安だったので確かめにいったけれど、新宿にあるすべての書店の店頭から、あの作品は発売日に消えました。どこに行ってもなかった。本が出るって編集部に騙されたのかな、と思ってしまったくらいです。

2012-07-11 09:11:54
橋本紡 @tsumugu_h

いわゆる緊急重版で、それからどんどん版を重ねていった。毎月のように増刷の知らせが届いた。預金通帳に毎月毎月、信じられないような額が振り込まれた。だって、それまで通帳には七千円しかなかったんだから。

2012-07-11 09:14:20
橋本紡 @tsumugu_h

そうして売れたおかげで、僕はわりと好きなことをできるようになった。また、あの作品を書いたことで、作家として鍛えられた。必ずしも本意で書いたわけではないけれど、あの作品には感謝している。あの作品に鍛えてもらった。

2012-07-11 09:15:58
橋本紡 @tsumugu_h

あとまあ、世の中ってものを知りましたね。世知辛さというか。売れないときの、大人の冷たさとか。売れたあとの、手のひらがえしとか。売れる前は会ってもくれなかったのに、売れたあとはいろいろな人が声をかけてくるわけです。

2012-07-11 09:18:08
橋本紡 @tsumugu_h

当時存在していた、ほぼすべてのレーベルから依頼があったと思う。ものすごくおいしいものを食べさせてもらったし、ものすごく魅力的な条件を示されたりもした。売れる前は、会ってもくれなかったのにね。

2012-07-11 09:21:17
橋本紡 @tsumugu_h

でもって、当時書いていたレーベル……なんて誤魔化す必要もなく、電撃文庫からは他で書かないでほしいと言われたりもした。僕もそのつもりだったので、もめることはなかったけど。

2012-07-11 09:22:42
橋本紡 @tsumugu_h

今となっては嘘みたいな話だけど、当時は「いつ電撃文庫が潰れるか」ってことが業界の話題だった。それくらいまずかった。状況を変えたのは間違いなく、僕の同期である上遠野さんのブギーポップだったと思う。

2012-07-11 09:24:20
橋本紡 @tsumugu_h

同期である上遠野さんが売れて、僕は干されてた。きれいごとは言わない。もちろん嫉妬した。ねたんだ。うらやましかった。僕がパーティに行っても、邪魔者扱いなんだもの。上遠野さんは別席でちやほやされてるのに。

2012-07-11 09:28:19
橋本紡 @tsumugu_h

ただ上遠野さんが売れてくれてよかったと思う。おかげで電撃文庫は立ち直った。僕も本を出せた。なにより、僕は上遠野浩平という男が好きだった。上遠野さんがどう思ってるのか知らないけど、僕は友達だと感じていた。大人になってから、友達ができることなんて、滅多にないんですよ。

2012-07-11 09:30:56
橋本紡 @tsumugu_h

……と、まあ、いろいろあって、現在に至っているわけです。デビュー十五年目に入ったばかり。今も募集してますけど、この辺のライトノベル衰亡記は誰かまとめて下さい。

2012-07-11 09:33:12