＜完全版＞ワシントンDC国際エイズ会議の記録

浜崎　伊南　HAMASAKI Ina @HAMASAKI_Ina

米国で23年ぶりに開催される国際エイズ会議参加の為ワシントンDCに滞在中。ペンタゴンの裏あたりにたくさんホテルがある。ちょうどレーガン空港が向かい側にあるからの様子。買い物はペンタゴンセンターという大味なショッピングモールに頼るしかない。交通は便利だが地下鉄の駅が遠い。

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今日は一日、世界エイズ・結核・マラリア対策基金の資金拡大に関する市民社会の戦略会議。代わり映えのしない顔ぶれが揃うが、以前、同基金の理事会に米国政府代表団の主要メンバーとして出席していた人物がいて驚く。焦点は結局、新たな資金拠出制度についてのロビーイング戦略に。相変わらずだ。

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国際エイズ会議開会式前、UNAIDSと韓国CDC主催のサテライトセッションで韓国外交通商省副大臣が登壇、韓国が完全にHIV陽性者への旅行制限を撤廃したことを表明、満場の拍手。韓国はかつて最も厳しい旅行制限を強いていた国。隔世の感と同時に、韓国のHIV関係市民社会の不在が気になる。

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韓国保守政権は、国際的には人権や援助に関する改革ポーズをとり、西側と価値観の同じ進歩的な新興国として自国を売る。一方、左派市民社会は国民国家の壁の中で保守政権打倒を呼号。いつしかギャップが拡大、左派が取り残される一方で、本当に肝心な問題は放置：こうした図が手に取るように見える…。

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米国の保健NGO、MSH主催の「MDG6を越えて：非感染性慢性疾患とHIV」に出る。途上国でのHIV治療普及で「HIV治療してた人がその後心臓発作で死んだ」これをどう防止するか。問題意識は悪くないが、本来アプローチすべき課題に答えを出さない曖昧なセッションに若干失望感。

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MSHのサテライトセッション：途上国でも生活習慣病に治療で挑むなら、治療薬の知的財産権保護への明確な立場が必要。予防ならプライマリー・ヘルス・ケアへの視点の強化が不可欠。これらの問題への言及がほとんどなく、新しいイニシアティブや用語に曖昧にもたれかかる感覚に無責任さを感じる。

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世界基金とPEPFAR（米国大統領エイズ救済緊急計画）の連携に関するサテライトセッション。評価指標のや調達の仕組みの統一など技術論が殆ど。国レベルでの援助効果向上には重要だが、むしろ特定の国のHIV対策ニーズをどう満たすかについて他ドナーも含めた戦略的連携をどう作るかが重要では？

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今度は南部アフリカ経済共同体（SADC）のサテライトセッションに行くが、ボツワナのモハエ前大統領、SADC事務局の偉い人、と続くが、全員がお題目の繰り返し、何の具体的な内容もないのにびっくり。独自にサテライトセッションをやるだけ偉いともいえるが。猛烈な眠気が襲ってくる。

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死にそうに退屈だったSADCのセッションに突然、88歳にもなるザンビアの初代大統領ケネス・カウンダが登場、「同志たちよ、エイズとの闘いを共に」と叫び、歌を歌い始めるがこれが実に美声、皆で手拍子。いきなり場が和む。独立第一世代の大統領としては地味な印象だったが、こんなに役者だとは。

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次に登場したウガンダの前副大統領（女性）は、ジェンダーや性的指向（sexual orientation）がどうであれ、健康な国民をつくることが必要、と明言。民主党政権下の米国首都、いわば敵の土俵だけにドナーの歓心を買う作戦かとも思うが、ウガンダの有力政治家の発言としては画期的か。

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国際エイズ会議の開会式。エイズ援助の六割を拠出し、国内的にもエイズへの取り組みが盛んな米国で、23年ぶりに開催だから盛り上がるのも当然。ゲイの合唱団がコミュニティ色豊かに美声を披露。24日には「We can end AIDS」のデモがあり３万人も参加とのこと。今日も何かあるかも。

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世銀のジム・キム新総裁が国際エイズ会議開会式に登場。WHOで画期的な「５×３」戦略を打ち出したキム総裁「国際エイズ会議で演説した世銀総裁は私が初めて」。アクトアップの名前を出してエイズに取り組むラディカルな市民社会を称賛。「我々が生きているうちに極度の貧困を根絶する」と宣言。

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しかしこのジム・キム世銀総裁、まるでオバマ大統領の再来かと思うほどスピーチが上手い、声にも好感が持てる。エイズの歴史とMDGs達成、貧困の根絶を結び付け、アクトアップの正式名称「力を解放するエイズ連合」の名称を引用して「力を解放すれば貧困をなくせる、エイズを克服できる」と。

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次に登場したミシェル・シディベUNAIDS事務局長も人権とラディカルな市民社会の主張のコピーを大安売り。結構なことだが、ここまでやられると「褒め殺し」ではないかと疑いたくもなる。国連や世銀の活動家もどきが活動家の言葉をコピーすればするほど、活動家の言葉の鮮度が落ちる。

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シディベ事務局長はエイズ・保健の財源として、金融取引税にも言及。「ロビン・フッド・タックス・ナウ！」と。実際、UNAIDSが唱える「新規感染ゼロ、差別ゼロ、エイズ関連死ゼロ」の三つのゼロを実現するには、金融取引税が必要であることは明らか。しかし御膝元のアメリカが大反対。

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シディベの後に出てきたのはナイジェリアのHIV陽性のお母さん。お子さんも出演。「私の子はエイズ・フリー（＝感染していない）」。母子感染予防100%でエイズ・フリー世代をという国際社会の誓約を確実に、とアピール。「私は恵まれた例外になりたくない」。お子さんも負けじと発言。

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次に出場したのがカリフォルニア州選出の民主党議員バーバラ・リー氏。今回、米国でエイズ会議が開催できるのは、彼女が最初に、少数派になることを厭わずHIV陽性者の入国制限撤廃を主張したから。それが結局PEPFAR法の改正に繋がり、オバマ政権成立を待たずに入国制限撤廃に道を開いた。

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オバマ大統領は結局、虐殺事件の起きたコロラド州オーロラに訪問とのことで国際エイズ会議に来れず、代わりにシベリアス保健長官がスピーチ。参加者がどんどん帰る中でのスピーチはあまり愉快ではないだろう。とりあえず今回の開会式の最重要人物はジム・キム世銀総裁ということか。

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さてキム総裁に褒められたアクトアップだが時代の遺物ではなく、現実の存在として会議場近くのホステルインターナショナルに陣取る。しかし左翼活動家気質というのはどこでも同じ、延々と終わらない会議、仲間内だけでひそひそ話、英語がわからない者への配慮はゼロ。決して褒められたものではない。

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国際エイズ会議の開催地であるワシントンDCのHIVの成人感染率は、全体で１～２％、南部の一地区は感染率3.1%にも達する。全体会合でHIV感染の全体像を語ったファウシ博士は「ワシントンの一部の感染率は、米国が行う『大統領エイズ救済緊急計画』の対象国の一部と同じくらい高い」と紹介。

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米国のエイズ・ラディカリズムは健在で本日の全体会合に登場したヒラリー・クリントン国務長官に対して「途上国の治療アクセスを阻害するTPPやめろ」と横断幕を出したが、なにぶん参加者が少なく、叫びもヒラリーの声にかき消されがち。基本、善人たちの行動で、資本や権力が持つ奥深い怖さと違う。

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直接行動は警備当局側との調整の下に行われているが、調整を90年代のアクトアップの立役者エリック・ソウヤーや横浜国際エイズ会議の直接行動でも活躍したアンディ・ベレスら古株が未だにやっているのが笑える。昨日キム総裁がエイズとの偉大な戦いの唱道者として褒めたのはこの世代の活動家たち。

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北米のブラック・ディアスポラとHIV/AIDSのセッションに出る。人種主義、同性愛嫌悪といった表現は本来流動的な物事を定型化してとらえる分析用語だが、それで実際の人々の現実を捉えられるのか。LGBTの存在自体が顕在化してない日本のアフリカ人社会での取り組みには殆ど役に立たないか。

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しかしこのブラック・ディアスポラのセッション、全てのスピーチが大変文学的で、皆ビシっと決め文句を決める。この黒人トランスジェンダー女性も、サパティスタ民族解放軍のマルコス副司令のように迫力ある決めフレーズを連発する。確かに英語でこのように話せれば素晴らしいだろう。表現に感心する。

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国家レベルでのエイズ対策に関するセッション、ルワンダの保健大臣と南アの副大統領、ウクライナのエイズ活動家、米国のエイズ調整官という豪華な顔ぶれだったが内容に具体性なし。ウクライナの活動家が「『エイズ・フリー世代』とかそんな楽観的な気分になれない」と言っていたのが印象的。