岡和田晃氏:真夜中のヒロイック・ファンタジー講義 第1講
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【HF講義1】前置き終了。まずヒロイック・ファンタジーを特別に考える必要があるのは、別に分類の必要があるからではなくても。ヒロイック・ファンタジーを特段文学史の中で持ち上げようとか、そういう意図とは少し違います。あ、持ち上げたくはあるか(笑)
2010-07-21 02:55:19【HF講義2】知っておいた方がツールとして便利だからです。まず、『千の顔をもつ英雄』。神話学者ジョゼフ・キャンベルです。英雄神話のパターンを網羅した本、というよりも英雄神話の技巧について語った本と言った方がよいでしょうか。
2010-07-21 02:55:31【HF講義3】ヒロイック・ファンタジーの通史的な講義だと、小谷真理の『ファンタジーの冒険』という本がある。古書だと今安いはず。これをとりあえず通史的に読んでおけば、必要な知識は得られるのです。
2010-07-21 02:55:41【HF講義4】結局のところ、あらゆるフィクションはオリコン・ヒットチャートの対象となるだけじゃなくて、愉しむためにあるもの。ただぼけっと口を開けててもつまらない。基本的な様式は押さえておく方が、引き出せるものが増えるんですな。
2010-07-21 02:55:55【HF講義5】そもそもジャンル批評の読者を長年やってきた身からすれば、ジャンルというものは事後的に形成されるものでしかない。読者が勝手にパターンを見出して、その中であれこれ覇権争いをするというつまらない世界だ。
2010-07-21 02:56:08【HF講義6】その覇権争いは宦官的に政治的な場合もあるけれども、愛から来る場合もある。そのうえジャンルは様式を概念化したものなので、必然的に認識が閉じ、考えが伝わりづらくなる。ただ、内に沈潜しないと見えないものもまたある。
2010-07-21 02:56:25【HF講義7】このことの苦しさを感じさせるのが、鏡明『二十世紀から出てきたところだけれども、何だか似たような気分』。これは三〇年連載されたコラムの単行本化だけれども、ぶっちゃけ、なんだ、ものすごくツィッターっぽい書き方の話。
2010-07-21 02:57:11【HF講義8】あちこち話が飛ぶのよ。でも、三〇年前にツィッターはなかった。これから先、続くかもわからない。だからこれだけジャンル内で思考をぐるぐるさせてきた痕跡というのは貴重なのです。特に若い人は読むべし。
2010-07-21 02:57:26【HF講義9】で、なぜヒロイック・ファンタジーに拘泥するのかというと、このジャンルが持つ独特の視点は拾う価値があるからなんです。なんというのかな、血を這い、泥水を啜りながらのし上がっていく感覚。その感覚は戦争文学などでもあるけれども、HF的な視点はなかなか保てないんです。
2010-07-21 02:58:10【HF講義10】やや、のし上がらなくてもいいんです。でも昨日語ったように、のし上がらないと死んでしまう。無為に死んだら、生きてきた記録が回りに残らない(笑)政治家みたいな残り方する例もあるけれども、なんか嘘くさい。
2010-07-21 02:58:29【HF講義11】もちろん、民話の一環として普通の人として生きる場合もあるでしょう。ただ、『ブルターニュ幻想民話集』みたいなものを読んでいると、民話の登場人物って交換可能なのね。英雄も交換可能なのだけれども、両者は本質的に違うんですよ
2010-07-21 02:58:50【HF講義12】英雄というのは、トライ&エラーの結果、出てくるものなのね。例えば『ハーンマスター』というRPGでは、最初から英雄になれない。だいたい80%くらいの確率で、キャラクターは農奴になる。農奴! 熱いものが滾りませんか。
2010-07-21 02:59:01【HF講義13】農奴のままで終わってもいいんです。ラヴクラフトの「月の沼」みたいに、妖精さんにたぶらかされて踊り狂った人間のカリカチュアになってもいい(笑) ただ、それとは違って、自然ならざるものに対峙するフィクションの形がある。
2010-07-21 02:59:14【HF講義14】その対峙の仕方が、なまなかな科学技術じゃなくて、裸で自分の生命力をぶつけるような方法を取るのがHFの出発点。そこからダークサイドに落ちてもいいんですよ。悪ければ悪いほどいい。悪いということは、強いことだから。
2010-07-21 02:59:29【HF講義15】事実、HFで「悪い」ことは、文字通りに「悪い」ことではまったくないんです。善悪二元論を採っていたとしても、善と悪には相対的な優位性がない。意匠はどうあれ、本質的には勧善懲悪じゃないんです。そのことがHFの大前提なのです。
2010-07-21 03:00:00【HF講義16】こうした因果律が発展し、網の目のように張り巡らされ、万華鏡のように乱反射する。それがHFの世界観だったりします。その最良の達成が『新しい太陽の書』でしょうね。同書の考え方を前提とせずして、芸術ジャンルが更新されえるとは思えない。「固有名」の話じゃないですよ。
2010-07-21 03:00:35【HF講義17】ちなみに現代のあらゆる種類のもの書きに、「あなたの書いているものはHFですね」と言ったとしたら、マーケットでそう記されている/あるいはHFに過剰な愛のある人たち以外は激しい拒否反応を示すでしょう。だから要注意。
2010-07-21 03:00:54【HF講義18】でもね、叙事詩的伝統をなんとか現代に活かすための試行錯誤が詰まっているのもまた事実。そこから、鑑賞/創作のための手がかりを引き出すことができるのもまた事実。だいたい、HFがわからなきゃ夏目漱石も読めないのよ(『幻影の盾』)。
2010-07-21 03:01:09【HF講義19】というわけで、今回もまた激しいメタ理論みたいになりましたが、次があるときは、何か具体的な作品についてあれこれ語りたいですね。D・J・ハインリヒ『竜剣物語』か、B・クレイグ『いまわしき死の使い』にしたいなあ。
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