PKAnzgさんによる福島の甲状腺がん検診結果の考察

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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

先日ちょっと強調して話していた「潜在する病気の場合、有病率とスクリーニング発見率に大きな差が生じうる」という件、やはりちょっとピンと来ない人が多いと思うので、どういうことなのか解説してみようと思います。

2012-09-13 14:17:09
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

まずは用語の簡単なおさらい。有病率:ある集団の中で特定の病気に罹っている人の割合、罹患率(発生率):ある集団の中である一定期間に特定の病気の患者が新たに発生した割合、スクリーニング:特に症状がない集団に検査を行って病気の可能性がある人を片っ端から見つけ出す検査手法

2012-09-13 14:17:22
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

有病率と罹患率の違いは、さっきいい感じの解説まとめが流れてたので、そっちを参照のこと。

2012-09-13 14:18:02
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

で、ここで「有病率」という言葉がなかなか厄介です。「集団Aにおける疾患Bの有病率は0.1%」って聞くと、疾患Bを持ってる患者は0.1%しかいないみたいですよね?でも実際はそうじゃないんです。有病率は病院などで診断された数から導くので、0.1%は「疾患Bと診断された人の割合」。

2012-09-13 14:18:21
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

つまり、有病率という名前ではありますが、これはある集団の中に実際にその病気が存在する頻度を必ずしも反映しないわけです。病気があっても気付かれにくい場合や、病院に行かないような軽い症状しか出ないものは、実際には有病率より多くの潜在的患者が「一見健康な人」の中に含まれてるんですね。

2012-09-13 14:18:36
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

では、ここから図も使って説明します。概念だけ分かればいいので、ややこしい話はざっくり簡略化。ある集団の人は、特定の病気に関して「病気がない」「病気だけど調べても見つからない」「調べれば見つかるけど調べてない」「調べられて病気と診断されてる」のいずれかに分類されると仮定。

2012-09-13 14:18:49
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

まずは皆さんが一番気にしてるであろう癌はこんな流れ(図は甲状腺ですが、他の癌も大体同じ)。1個の癌細胞が発生し、徐々に増大して数ミリ大の組織塊となり、さらに増大して腫瘤になって、浸潤などで神経を刺激したり機能を障害するとやっと症状が出る。 http://t.co/QdIMXOYh

2012-09-13 14:19:15
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

図の上の段は検査しても見えない癌です。下左になると検査すれば見えるかもだけど、検査しないとわからないから普通気付かれない。下中は検査では確実にわかって自分でも触れば気付くけど気付かない人も多い。右下にいくと大体みんな気付きます(気付いても病院に行かない人はいますが)。

2012-09-13 14:19:24
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

どこからが検査で見える大きさか、というのは実はなかなか難しい問題なんですが、そういうのを論じる場ではないんでここは省きます。「検査種や病変の位置・種類によっていろいろだけど、とりあえず小さいより大きい方が見つかりやすい」程度の把握で十分。

2012-09-13 14:19:35
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

次に、癌とは大分違う性格の病気として、尿管結石を挙げておきます。これは病状の深刻さと危険信号としての痛みの強さが最も釣りあわない例として有名で、発症するとひどい症状が出てみんな病院に行きます。つまり、発症例の大半が診断に行き着くわけです。 http://t.co/ZgEQfmT6

2012-09-13 14:19:46
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

最後に甲状腺嚢胞。これも細胞サイズの水溜まりから始まるはずですが、そんなもん病気とは到底言えないので、検査で見える下限から嚢胞扱いです。嚢胞も右の巨大嚢胞までいくとさすがに症状が出ますが、大半はせいぜい真ん中止まりで、右は滅多にいません。 http://t.co/aYArdx2k

2012-09-13 14:20:14
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

なので、甲状腺嚢胞と診断される人は、ごく一部の症状があるものを除けば、別の事情で甲状腺エコーの検査を受けて偶然見つかった人、ということになります。なお、それぞれの間が点線の矢印なのは、癌と違ってごく一部しか大きくならないから。その性質から、小さい嚢胞ほどいっぱい見つかります。

2012-09-13 14:20:24
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

では、ここからそれぞれの有病率とスクリーニング検査での発見率を考えます。癌は追加の話があるので後回しにして、発症すると漏れなく激しい症状が出る尿管結石タイプの病気をまず考えましょう。実際に病気がある人はすごく少ないので、図の上で省略された先には白の丸が山ほどあると思って下さい。

2012-09-13 14:20:36
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

尿管結石タイプの集団内分布はこんな感じです。スクリーニング検査をすれば腎盂結石の人は見つかって、将来患者になる可能性がある人はわかりますが、尿管結石の人が新たに見つかることはまずありません。有病率=実際に患者がいる率と言ってもいいです。 http://t.co/HLza4hHR

2012-09-13 14:20:54
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

では甲状腺嚢胞はどうか。稀にでかいのもありますし、別件から偶然見つかる人もいるので、図では1人を赤くしましたが、基本的に甲状腺嚢胞は検査しないと見つからない病気です。つまり実際の患者のほとんどは、気付かないまま普通に生活しているわけです。 http://t.co/svVSZNqS

2012-09-13 14:21:09
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

そうなると、診断例から導かれる有病率(全体に対する赤の割合)とスクリーニング発見率(全体に対する赤+緑の割合)は大きく乖離します。小さい嚢胞ほど多いことから、どれくらい小さいものまで病気と見なすかで緑の人数は大きく変わるので、嚢胞サイズの下限設定や検査機器の性能が非常に重要。

2012-09-13 14:21:22
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

私が以前に「調査の基準が全く違うものの発見率を比較するな」と強く主張したのもそういうことです。福島の検討では「最大3mmの嚢胞」ですら有所見としてA2扱いされてることが、検査受けた方の相談でわかっているので、小サイズの嚢胞を病変扱いしない調査の発見率と比較しても意味がない。

2012-09-13 14:21:41
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

では、一番重要な癌の説明に入ります。癌の場合はこんな感じで、小さすぎて検査でも見えない癌(でもいつか大きくなる)という分類が加わります。嚢胞と違って放置すればどんどん育っていつか症状を出すので、普通に受診して診断される人もそれなりにいる。 http://t.co/ruPCRcpl

2012-09-13 14:21:53
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

それでもやはり、有病率(赤の割合)とスクリーニング発見率(赤+緑の割合)には間違いなく差が出ます。でなきゃ癌検診(=緑の人を洗い出すための検査)なんてやりません。そして、この緑や青の人がどれくらいいるかは、その癌がどれくらい潜在する性格のものかで変わってきます。

2012-09-13 14:22:03
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

甲状腺癌は以前から何度も書いてる通り、一般的に非常に長い時間をかけて成長する癌です。癌細胞が発生してから検査で見つかる段階になるまで、そして見つかる段階になってから自覚するまでに、それぞれ何年もかかるのが普通なんですね。言い換えれば、気付かずに持ってる期間が非常に長い病気。

2012-09-13 14:22:19
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

しかも甲状腺癌検診ってあまり一般的ではなく、また甲状腺を診ようと思わない限りは甲状腺は調べませんから、偶然に見つかることも少ない。となると、結構な数の潜在甲状腺癌患者がいて、有病率とスクリーニング発見率が乖離するということに。 http://t.co/tuYzIizp

2012-09-13 14:22:29
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

個人的には、甲状腺検診はもっと普及していいと思うんですよね。死ににくい癌だから検診の価値も低く見られがちですが、気管浸潤で気管の一部を取ることになったり、半回神経を切らざるを得なくなって嚥下障害や嗄声を起こしたりというQOL低下を防ぐためにも早期発見は大切。検査のリスクも低いし。

2012-09-13 14:22:40
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

もひとつ余談のようなものですが、癌は一定の速度で大きくなるのではなく、加速的に増大します。というのは、個々の癌細胞が分裂していくので、倍々に近い形で増えるんですね。なので、本当に小さくて見えない状態でいる時間はかなり長いと考えられています。図で青い人を多くしてるのはそのため。

2012-09-13 14:22:54
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

甲状腺癌は「見つかる頃には発生後10年くらい経ってる」と一般的に言われるわけですが、スクリーニングでそれより早い段階のが見つかるにしても、幾ら何でも1年半ってのは早すぎるんですよ。福島医大が「今回の甲状腺癌は原発事故と関係ない」って発表できたのもそのため。

2012-09-13 14:23:07
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

では、仮に原発事故の影響で甲状腺癌がガバッと増えたとした場合、現状はどうなのかと考えると、こういう図になります。今の段階の調査では「正常」とされる青の人がいっぱい。この青の人が長時間かけて緑になり、さらに放置すると赤くなる。 http://t.co/d0PqFGau

2012-09-13 14:23:20
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