【二次創作な】「グッドバイ・マイ・アストロノーツ」#1

ニンジャスレイヤー(@njslyr)の二次創作小説です。 原作との整合性がいよいよアブナイ。
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欺瞞動画の会社 @naclaqns

深夜のタラバー歌カニで男は目覚めた。半覚醒状態の彼はカニボタンを乱暴に叩くが、この時間既にカニ食べ放題サービスは終了している。あの特徴的な電子音は鳴らず、当然カニも出てこない。男は擦り切れた革張りソファをきしませながら身を起こし、解けた氷で薄くなったアイスコーヒーを飲む。1

2012-09-13 15:56:11
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暗い部屋の中、カラオケモニタが青白い光を放つ。『軌道上…時代は!軌道エレベーター!』地球を見下ろしコマめいて回転する宇宙ステーション。男はモニタを狙いグラスを振りかぶるが…その腕は力なく下ろされた。騒ぎを起こすわけにはいかない。もはや彼にトラブルを切り抜ける気力は無いのだから。2

2012-09-13 16:02:02
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このカラオケステーションも三泊目、場末の店とは言えそろそろ店員が訝しがる頃だ。億劫ではあるが、明日は新しい宿を探さなければなるまい。彼は携帯IRC端末を取り出す。一通のノーティスが入っていた。例によって差出人は暗号化されている。内容もいつも通り。曰く、「宇宙へ行きませんか?」3

2012-09-13 16:07:48
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「じゃあ、早く連れていってくれよ」彼は毒づく。それでも、何もかもを失った彼にとっては定期的に届くこのノーティスこそが自殺を思い留まらせる最後の命綱であった。男は再び寝転がる。五十代も中盤に差し掛かろうかというその顔には深い疲労が浮かんでいた。「こちとら、いつだっていいんだ」4

2012-09-13 16:13:00
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「大変お待たせしました。実際申し訳ない」貸し切ったはずのカラオケルームに声が響く。男は再び身を起こし、カラテ警戒姿勢を取る。彼の背後、壁際に細かい紫電が走った。小さな雷鳴とともに紫電は人の形を取り…それが止んだ頃には、白のスーツに身を包んだ褐色肌の男が立っていた。5

2012-09-13 16:18:41
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褐色肌の男は懐からクシを取り出し、白金色のオールバックを撫で付ける。「ドーモはじめまして。アマクダリ・セクトのアガメムノンです」「…ドーモ、エンデバーです。アンタは…」「お察しの通りの者です。こうして実際にお迎えに上がるのが遅れたことを、まずはお詫び致しましょう」6

2012-09-13 16:24:47
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「いや、そういうのはいいんだ。好きじゃあない。単刀直入に頼む」「話が早いのは助かります。貴方の持つアストロカラテ。このまま腐らせておくには余りに惜しい。その力を我々に貸して頂きたいのです」「アストロカラテ、…アストロカラテね。そいつはもしかして、これの事かい?イヤーッ!」7

2012-09-13 16:32:08
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エンデバーと名乗った男はソファからフワリと立ち上がり、アガメムノンに殴り掛かる。しかしアガメムノンは手の平だけでこれを止める。ペシン。軽い。これならば常人の方が余程…「とまあ、アストロカラテってのはこういう物だ。とてもじゃないが、1G環境下じゃ…」「素晴らしい」8

2012-09-13 16:37:59
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アガメムノンが微笑む。「元より我々も、貴方のカラテをゴミどものひしめく地上で使って頂こうなどとは考えていません。貴方の舞台は…あちらでしょう?」アガメムノンは上を指した。その先にはタラバー歌カニの薄汚い天井。その更に先には重金属酸性雲、そして荒れ狂う磁気嵐。更に先には。9

2012-09-13 16:44:12
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「まさか。行けるわけ無えさ。戦争屋のバカ共が何もかもパアにしやがった」「果たしてそうでしょうか?本当に?我々は拓くべき道を見付けた。足りないのは水先案内人だけです。宇宙時代は再び来ます。貴方の力があれば…の話ですが」「本気かい」「勿論」アガメムノンが手を差し出す。10

2012-09-13 16:50:03
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エンデバーはアガメムノンの眼を見た。彼はこの眼を知っていた。野望持つ者の目、意思持つ者の目。この男の言葉は真実である。いや、言葉を真実にする力を持っている。エンデバーはアガメムノンの手を握る。冬のドアノブめいて静電気が走るが、これを開けなければ自らの家へは帰れない。11

2012-09-13 16:56:43
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「分かった。やってやろうじゃねえか。ただしこれは取り引きだ。俺は俺の場所へ帰る、じゃあお前は何が望みだ?」「簡単です。来るべき宇宙時代は我々アマクダリ・セクトが管理する、しかし…その障害となる者が居る」「そいつをやれってか?」「やはり話が早い。さすがはアストロノーツ」12

2012-09-13 17:04:22
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「御託はいい。俺は、誰をやればいいんだ」「ええ。その者の名は…」アガメムノンの両の目の奥に、雷光が生まれた。まるで生命誕生以前の地球めいて。「ニンジャスレイヤー」13

2012-09-13 17:09:20
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NINJASLAYER二次創作短篇集「エイト・ミリオン・フラウズ」より:「グッドバイ・マイ・アストロノーツ」#1

2012-09-13 17:09:40
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その日のネオサイタマは月に一度あるかないかの晴れ模様だった。暗黒非合法探偵モリタ・イチローは無人のストリートを行く。今回の事件は単純な地権トラブルであり、ニンジャの関与は…それが彼にとって良い事か悪い事かは別にして…見えない。幾ばくかの報奨金を懐に、モリタは昼食を考えていた。14

2012-09-13 17:15:35
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「…!イヤーッ!」突如モリタがバック転!彼と入れ違うように何かがアスファルトに落下、深いスリットを刻む!スリットから僅かに覗く金属片、彼にとって余りに見慣れた物体…スリケンである!「イヤーッ!」続けて降り注ぐスリケンをムーンサルト回避しつつモリタはトレンチコートを脱ぎ捨てる!15

2012-09-13 17:22:21
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トレンチコートの中には動脈血めいて赤いニンジャ装束、その顔には「忍」「殺」のレリーフも禍々しい鋼鉄メンポ!イチロー・モリタ…彼の真の名はフジキド・ケンジ。ネオサイタマの死神、ニンジャスレイヤーその人である!ガツッ!スリケンが宙を舞うハンチング帽を貫通、地面に突き刺さる!16

2012-09-13 17:28:21
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敵の正体は不明。スリケンの落下はおよそ三秒に一度のペース、速度は上位ランクのカラテを持つ自身でもニンジャ第六感を働かせなければ察知できないレベル、従って威力も相応に高い!まずは安全確保が必要だ!ニンジャスレイヤーは手近の廃ビルを目指し疾走!スリケンの火線が後を追う!17

2012-09-13 17:33:47
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CRASSSH!ガラスをブチ破り廃ビルにエントリー!ガツ!ガツ!ガツ!ガツ!廃ビルは五あるいは六階建て、しかし屋上に突き刺さるスリケンの音はここ一階まで響いてくる!ニンジャスレイヤーは柱に身を添わせ警戒!ガツ!ガツ!ガツ!…ガツ。およそ六〇秒ほど響いたその音が不意に止む。18

2012-09-13 17:40:34
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ニンジャスレイヤーはフロアの隅に打ち捨てられたワータヌキ像を発見。サイズはおよそ六フィート、自身と同程度だ。彼は数秒の思考の後それを抱え上げ、エントランスから外へと注意深く転がした。一〇秒…二〇秒…三〇秒…。変化は訪れない。四〇秒…五〇秒…六〇秒!BAGOOM!!19

2012-09-13 17:47:08
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陶製ワータヌキが爆砕!無論落下スリケンの直撃によるものだ!対物ライフルめいた威力、もし自身が食らえば…?ウカツな行動は取れない。慎重な状況判断と決断的行動が必要である。彼の戦術UNIXめいたニューロンが働き、戦況分析を始める。まずはルールの把握だ。全ての戦場にはルールがある。20

2012-09-13 17:55:04
欺瞞動画の会社 @naclaqns

スリケンの射手は?不明。上空は快晴であり、飛行物があれば必ず発見できる。威力…これは一撃ヒサツ、ツヨイ・スリケン並みと見てよい。回避は拓けた場所なら可能、込み入った場所では恐らく不可能。キーとなるのはタイムラグ。投擲のスタートとエンドはなぜか六〇秒ズレる。これをどう活かす…?21

2012-09-13 18:01:00
欺瞞動画の会社 @naclaqns

このままやり過ごすか?有り得ない、それはジリー・プアー(徐々に不利の意)の最たる物だ。今は兎も角包囲されれば終わりである。応援を呼ぶ?正体不明の敵に?誰を?却下だ。可能性があるとすれば…打って出るほかない。結局活路は危険の中にしか無いのだ。これまでの戦闘経験がそう告げている。22

2012-09-13 18:07:55
欺瞞動画の会社 @naclaqns

六〇秒、ニンジャのイクサにおいては決して短い時間ではない。オーバーすれば再びのジリー・プアー。それまでに打開策を見つけ、とにかく何とかどうにかする。「スゥーッ…ハァーッ…」チャドー呼吸を一度、ニューロンを沈静化させると「イヤーッ!」彼は再び無人のストリートへ駆け出した!23

2012-09-13 18:13:35