ファスト・アズ・ライトニング、コールド・アズ・ウインター #4

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「通話しながら来たぜ……善は急げ、乗りなよ」デッドムーンは助手席を親指で示した。「この件、俺からの請求は実際高くつくから、頑張って稼いだ方がいいと思うね」他人事のように言った。「よかろう」ニンジャスレイヤーは助手席ドアを開けた。「行き先は」「ツキジ・ダンジョン」◆

2012-09-19 17:34:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆KBAM!ロケットエンジンを点火し、ニンジャスレイヤーをピックアップしたネズミハヤイはあっという間に走り去った。「……」エーリアスとアキモトは視線をかわし、何か話そうとした。そこへ、まるで狙い澄ましたように、巨大トレーラーが二人めがけて、真っ直ぐに突っ込んできた。◆

2012-09-19 17:34:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ファスト・アズ・ライトニング、コールド・アズ・ウインター」 #4

2012-09-19 17:35:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だって……?」エーリアスは迫り来る鉄塊を呆然と見つめた。ニンジャアドレナリンがニューロンを加速させ、時間が鈍化した。黒くスモークシールドされたフロントガラス越しに、運転者の姿が見えた。クローンヤクザだ。無表情にハンドルを操作し、こちらへ向かってくる。アキモトが悲鳴を上げる。1

2012-09-19 17:38:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

クローンヤクザのニューロン構造は同一だ。かつてのエーリアスであれば、この距離から運転者のニューロンをジャックし、どうにかする事ができたかもしれない。だが今は無理だ。接触が必要だ。キョート城からの脱出以来、彼女のジツは変質し……いや、どちらにせよ車は急に止まれはしない……。 2

2012-09-19 18:03:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鮮魚市場前の交差点、幸いというべきか、他に人通りは無い。エーリアスはアキモトを抱え、横に跳んで避けようとした。「イヤーッ!」「アイエエエエ!」運転ヤクザは無慈悲にもハンドルをさらに切り軌道修正!殺す為に!トレーラーが迫る!ナムアミダブツ!エーリアスは取るべき手段を求める!無い!3

2012-09-19 18:07:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……エーリアスは起き上がった。言葉を失う。トレーラーは大きく逸れ、「ローン一発換金」と書かれた看板の柱に頭から突っ込んで停止していた。黒いタイヤ痕がトレーラーの突然の蛇行を示す。フロントガラスを突き破り、クローンヤクザが飛び出して死んでいる。タイヤ周辺が炎上している。なぜ? 4

2012-09-19 18:11:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」エーリアスは己の掌を見つめた。「起きたのか」応えは無い。「……有難うよ」頭を振り、立ち上がった。すぐ側にアキモトが倒れている。呼吸と脈を確かめる。大丈夫だ。「う……」老人が呻いた。エーリアスは息を呑んだ。右腕があらぬ方向に捻じ曲がっている。転倒時に折れたのか。 5

2012-09-19 18:19:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「嬢ちゃん」エーリアスの腕の中、アキモトが何か言おうとした。エーリアスは歯を食い縛った。右腕がこんな状態では、スシは握れない。火を見るより明らかだ。「ああ。痛えな。畜生痛えな」アキモトは呟いた。「痛えな……」「こんなのって無いぞ」エーリアスは声を絞り出した。「ふざけるなよ……」6

2012-09-19 18:34:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザマァねえなァ」アキモトは無感情に繰り返した。「ザマァねえやなァ……」ドウ!トレーラーのエンジンに引火し、爆発炎上した。マッポのサイレン音が近づいて来る。「……まだ絶対終わっちゃいねえ」エーリアスは怒りに声を震わせた。「あン?」老人は怪訝な顔をした。「何だ。何を考えてる」7

2012-09-19 18:47:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とにかくまずアンタの腕だ。病院行こうぜ。それでさ、そしたらさ……」エーリアスは決然と言った。「教えてください。スシ、教えてください」「何だと」「俺がやる。俺がワザ・スシのスシを握る!」「何だと!お前……」「俺がやる!」エーリアスはほとんど叫んでいた。「そンで、絶対勝つ!」 8

2012-09-19 18:50:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「馬鹿野郎、勝負は明日だぞ」アキモトは声を荒げた。「スシってのはなあ!そんな一朝一夕になァ!」「絶対戦う!そうだろ!」「……」アキモトは目を細めた。やがて頷いた。「そうだ。戦う」「インストラクションをくれ」エーリアスは言った。「アンタのようには出来ないだろうが、俺はニンジャだ」9

2012-09-19 19:06:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴンゴンゴンゴンゴン!ガンガンガンガンガン!ゴンゴンゴンゴンゴン!ガンガンガンガンガン!激しいインダストリアルノイズ環境音が、快適に密閉された武装霊柩車ネズミハヤイDIIIの車内にまで侵食してきて、冷たいダークエレクトロ・ポップBGMを乱す。……ツキジ! 11

2012-09-19 19:25:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネズミハヤイはツキジの外周部、イタマエ・ドージョーやシーフード・レストランが建ち並ぶ区画を走り抜け、漁港とマグロ加工施設が一体化したイナーエリアに入り込もうとしている。殺人マグロや毒マグロ、危険なクラゲ類などに対するにはハイ・テックとスキルが必須であり、素人を遠ざけている。 12

2012-09-19 19:33:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

こうした気づかいは興味本位の憶測を呼び、スラッシャームービーめいた無責任な言説やメタファーが罷り通る原因となっている。確かにツキジ内道路の両脇にひしめく倉庫はいかにもサツバツとしたアトモスフィアであり、マグロマシーン、マグロミキサーの機械音も、かような凄まじさなのだ。13

2012-09-19 19:36:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

曇天には地上からのサーチライトが投げかけられ、倉庫群の奥には貪婪なネオンを輝かせるオイラン砦の数々。無機質なコンクリートの住宅群。ネオサイタマの食の玄関たるこの区画は、一個のアーコロジーですらある。「だがなニンジャスレイヤー=サン。ダンジョンってのはな」デッドムーンが言った。14

2012-09-19 19:44:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ツキジ・ダンジョンってのは……お伽話より余程ひどい場所だ。ツキジとツキジ・ダンジョンは別物……一緒にしちゃいけない。俺の言う事、わかるかい……」「……」「ニンジャの領域だ」デッドムーンは言った。「ニンジャと、ズンビーと、商人と、奴隷が暮らしてる……本当だぜ……笑えるだろ」 15

2012-09-19 19:59:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ある時、ある団体が、ツキジの一部を突然に買い上げた。団体はその敷地内へ複数の業者を入れ、謎めいた掘削作業を行っているようであった。やがて防壁が区画を囲い、作業は外部から確認できなくなった。受注業者は断片化され、全貌を知る者は無い。会社ごと行方が知れなくなった業者の噂も流れた。16

2012-09-19 20:12:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……いつしかその地下には、どでかい居住区が作られておりましたとさ」「詳しいな」とニンジャスレイヤー。「ああ、詳しいぜ」デッドムーンは淡々と言った。「馬鹿げた地底王国の主の名前はリー・アラキ。アンタも何度か世話になった筈……それから、俺の親父の仇だな」 17

2012-09-19 20:26:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

倉庫群を奥に切り込み、雑多で用途不明の建物群や処理施設を横目に、何度か道を曲がってゆくと、彼らの前方、唐突に「防壁」の一部が姿を現した。「ダンジョンは廃棄された地下施設を利用してる。奴等自身も把握しきれていないと思うね……そこに、マグロが眠る冷蔵施設もあるッてわけさ」 18

2012-09-19 20:39:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネズミハヤイは防壁に沿ってしばし進み、不意に細い路地へ入った。錆びたガレージから編笠を被った皺くちゃの男が出てきた。「時間貸しよ」手振りで値段を示す。デッドムーンはニンジャスレイヤーを見る。当然、この秘密駐車業者へ支払うカネも必要経費である。ニンジャスレイヤーは頷いた。 19

2012-09-19 20:51:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「別にアンタをリー先生に今からけしかけようッて訳じゃ無い」ネズミハヤイを降りた二者は、再び防壁に沿い、しめやかに進む。「実際、発掘マグロはダンジョンが作られる以前から、ごく稀に発見されては、持ち出され、高額で取引されてきた。やがてリー先生が施設自体に目をつけた……」20

2012-09-19 21:03:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

再び彼らは防壁を離れ、別の路地裏へ入る。デッドムーンは路地を曲がった先のマンホールに屈み込むと、周囲を確かめ、ニンジャスレイヤーを促した。ニンジャスレイヤーはニンジャ腕力を発揮。片手で分厚く重い鉄蓋を持ち上げた。「やるもんだな」デッドムーンが梯子を降りる。「ついて来な……」 21

2012-09-19 21:14:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

深い闇への降下。じめついた細い竪穴。「ここは秘密の侵入路、その3」デッドムーンが囁く。彼らは下水道の側道に降り、少し歩いた。やがて突き当たった錆びついた格子をデッドムーンは枠ごと外し、ニンジャスレイヤーを振り返る。「ドーゾ。行列無し・手荷物検査無しのVIP待遇だ……」 22

2012-09-19 21:23:49