山本七平botまとめ/「伝統文化」と「近代化」を調和させることの難しさ/~「日本ダメ論&スバラシイ論」は無意味~

山本七平著『「常識」の研究』/倫理的規範のゆくえ/188頁以降より抜粋引用。
5
山本七平bot @yamamoto7hei

①日本における世論というより、むしろ論壇・マスコミの”空気”は非常に奇妙に転換する。もっともこれは”空気”だから、それが当然でやがて雲散霧消するであろうが、この”空気”は時には一時的にドグマとして人を拘束するから、やはり無視すべきではないであろう。<『「常識」の研究』

2012-09-23 22:28:10
山本七平bot @yamamoto7hei

②「日本ダメ論」は長い間、論壇・マスコミの”空気”であり…この伝統は相当に長く、決して戦後始まったものではない。私は…「これだから日本人はダメなんです」といった種類のお説教を聞かされて「では一体貴方は『なに人』ですか」と反問したくなった経験がある。

2012-09-23 22:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

③戦後は欧米先進国、また社会主義を「スバラシイ」として「それにひきかえわが国は……」とする形の「日本ダメ論」が「定式化」していた時代もあった。これも相当期間続いている。しかし、この方式は社会が受けつけなくなった。その反動のように出てきたのが「日本スバラシイ論」であろう。

2012-09-23 23:28:10
山本七平bot @yamamoto7hei

④これは確かに、長いあいだ続いた無意味な「ダメ論」への解毒剤として価値はあったであろうが「ダメ論」と同じ問題点を含んでいる。日本人は何も天性ダメでもなければ、天性スバラシイわけでもない。

2012-09-23 23:57:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤現時点で非常にうまくいっているのは、日本の伝統的文化が近代化・工業化社会の形式に適合していることと、戦後政策の成功、および国際環境が日本に有利に展開しているといった様々な複合的要因の上に成立しているのであって、その一つが欠けても現状はあり得なかったであろう。

2012-09-24 00:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥それは、日本が社会主義圈に組み込まれていたらどうなっていたであろうかを想像すれば十分である。この状態は、「自然に形成された」ものでなく、方向を誤れば逆転もあり得る。

2012-09-24 00:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦かつてのチェコ・スロバキアは東欧一の工業国で、ある一時期はアメリカより生活水準が高かったなどと言っても、今の人にはもう実感がないであろう。同様なことが起これば、日本も同様な状態になる。これは「ダメ論」「スバラシイ論」で解ける問題ではない。

2012-09-24 01:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧従って、その状態にならない為の努力と負担は惜しむべきではあるまい。さらに同じ自由主義圈に属していても、その中の各国の比重は絶えず変わっている。勤労を絶対的規範としてきたプロテスタント圏においても、その伝統文化の保持は必ずしも成功しているとはいえない。

2012-09-24 01:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨これは日本にもいえることであり、あらゆる宗教ないし宗教的思想には徹底した堕落があり得ること、また同時に宗教改革・対抗宗教改革による再生があり得ることも歴史が示している。現代の状況を見れば、勤労を絶対的規範とする日本の伝統文化が、放置したまま持続しうるという根拠はとこにもない。

2012-09-24 02:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩この点でも、「ダメ論」も「スバラシイ論」も意味をなさないのである。更に社会保障という問題がある。社会保障を「絶対善」とする”空気”はまだ強く残っており、これに関して様々な問題提起をする事は一種のタブーになっているが、(続

2012-09-24 02:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪続>社会保障が人間の心理にどういう影響を与え、それが社会心理となった場合、勤労のエトスにどのような影響を与え、それが産業国家をどう変質させるかといった問題は、何一つ論じられていないに等しい。

2012-09-24 03:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫だがこれは、社会保障を可能にしうる産業的基盤そのものを危うくし、それが社会保障をも不可能にしかねない問題を合んているはずである。これまた「ダメ論」でも「スバラシイ論」でも解決がつかない問題である。

2012-09-24 03:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬現代の世界を見ていてつくづく感じることは、最も困難なことは決して新しい技術や組織の輸入ではなくて、自己の伝統的文化をいかに保持するかであり、同時にそれを、近代化・工業化・脱工業化という社会的変化にいかに適応させて機能させていくかという問題である。

2012-09-24 04:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭伝統文化保持のため近代化を排除すれば、その国は転落せざるを得ない。しかし近代化のため伝統文化を破壊すれば、混乱を生じて近代化は不可能になり、やはり転落せざるを得ない。イランも中国も、形は変わってもこの問題に解決の道が見出せずに悩んでいる点は同じであろう。

2012-09-24 04:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮しかし、さらによく見れば、先進国なるものの抱えている問題も、実は、同じ問題であることに気づく。そして、この問題を抱えているという点では日本も決して例外ではない。「ダメ」「スバラシイ」ではなく、日本の伝統を踏まえつつ、この問題にどう対処していくかが、我々の課題であろう。(終)

2012-09-24 05:28:02