「なぜ、貧困層、社会的弱者ほど国家の戦争に熱狂するか」に対する専門家のコメント

先般より注目を集めていた「『なぜ、貧困層、社会的弱者ほど国家の戦争に熱狂するか』から始まる会話。」(http://togetter.com/li/379538)に関して、ドイツ現代史、特に戦間期の義勇軍運動を研究されている@heero108さんの一連のコメントをまとめておきます。上記まとめに第一次世界大戦後のドイツの話題が例として取り上げられていたため、私(@hhasegawa)がコメント欄でご専門の@heero108さんをお呼びして、ご連投を頂いたという経緯になります。 * togetterのコメントを経由してツイートされたものをまとめであり、字数の関係で一部が尻切れになっております。ご指摘を頂きましたので、下方に全文を併記しておきました。 ** 訂正を追記しました(2012年10月1日)。
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朝守飛阿弥 @heero108

@hhasegawaさんに召喚されやって参りました。ヴァイマル期ドイツの義勇軍(Freikorps)を研究している者です。私も憶測でいろいろモノを考えたりするのは大好きなのですが、やはり「少なくとも正.. http://t.co/qMXmy3jK

2012-09-30 03:21:54

@hhasegawaさんに召喚されやって参りました。ヴァイマル期ドイツの義勇軍(Freikorps)を研究している者です。私も憶測でいろいろモノを考えたりするのは大好きなのですが、やはり「少なくとも正確な事実を押える」ことも大事だと思いますので、ここにいくつかの事実とデータをメモしときたいと思います。

第一次世界大戦後の義勇軍参加者と社会階層

朝守飛阿弥 @heero108

まず、1918年11月9日にコンピエーニュの森で第一次世界大戦の休戦協定が結ばれた際、ドイツ軍にはおよそ600万人の将兵が所属していたとされています(R. Bessel, Germany after .. http://t.co/7OOFeySX

2012-09-30 03:25:26

まず、1918年11月9日にコンピエーニュの森で第一次世界大戦の休戦協定が結ばれた際、ドイツ軍にはおよそ600万人の将兵が所属していたとされています(R. Bessel, Germany after the First World War, Oxford 1993, p. 69)。

朝守飛阿弥 @heero108

しかしながら、戦後の内戦状況の中で義勇軍その他の志願兵部隊に身を投じた人間は、その一割以下でした。 http://t.co/3X0d2Gam

2012-09-30 03:30:15

しかしながら、戦後の内戦状況の中で義勇軍その他の志願兵部隊に身を投じた人間は、その一割以下でした。

朝守飛阿弥 @heero108

例えば1919年3月の時点でそれらの組織に所属していた人間は、大きく見積もっても40万人程度であり、さらにその数字には、第一次大戦に従軍しなかった学生たちも含まれていたのです。(ibid, p. 25.. http://t.co/UWhFr9bw

2012-09-30 03:30:35

例えば1919年3月の時点でそれらの組織に所属していた人間は、大きく見積もっても40万人程度であり、さらにその数字には、第一次大戦に従軍しなかった学生たちも含まれていたのです。(ibid, p. 258; B. Barth, Dolchstoßlegenden und politische Desintegration, Düsseldorf 2003, S. 237)。

朝守飛阿弥 @heero108

またこれは多くの先行研究で一致するところなのですが、義勇軍を構成した主要な社会集団は旧軍将校・下士官や学生、そして手工業者であり、それこそ@hhasegawaさんの指摘されたとおり、「下層中産階級以上.. http://t.co/nQCqQBk3

2012-09-30 03:39:32

またこれは多くの先行研究で一致するところなのですが、義勇軍を構成した主要な社会集団は旧軍将校・下士官や学生、そして手工業者であり、それこそ@hhasegawaさんの指摘されたとおり、「下層中産階級以上が中心で、労働者層ではないわけです。」

第一次世界大戦の開戦時の熱狂と社会階層

朝守飛阿弥 @heero108

そして話を1914年にまで遡ると、開戦時の熱狂として有名な「8月の体験Augusterlebnis」も、近年の研究ではかなり相対化されてきています。 http://t.co/C7bRa8NH

2012-09-30 03:50:12

そして話を1914年にまで遡ると、開戦時の熱狂として有名な「8月の体験Augusterlebnis」も、近年の研究ではかなり相対化されてきています。

朝守飛阿弥 @heero108

つまり、1914年8月のドイツにおける戦争への熱狂は、大都市のブルジョワ的諸集団に限定して見られる現象であって、労働者階級や農村住民らはそれに共鳴しなかったということが明らかになっているわけです(B... http://t.co/iQwUkcRC

2012-09-30 03:56:47

つまり、1914年8月のドイツにおける戦争への熱狂は、大都市のブルジョワ的諸集団に限定して見られる現象であって、労働者階級や農村住民らはそれに共鳴しなかったということが明らかになっているわけです(B. R. Kroener, Militär, Staat und Gesellschaft im 20. Jahrhundert (1890-1990), München 2011, S. 73)。

追記

朝守飛阿弥 @heero108

予想外の反響があり、少し驚いています。ここで「8月の体験」のくだりについて、一つ訂正をさせていただきたく思います。 http://t.co/0xFpuvNw

2012-10-01 10:28:58

予想外の反響があり、少し驚いています。ここで「8月の体験」のくだりについて、一つ訂正をさせていただきたく思います。

朝守飛阿弥 @heero108

もちろん、労働者や農村住民が第一次大戦にまったく熱狂しなかったわけではないです。原著の表現にもとづけば、戦争への熱狂は「特定のブルジョワ的諸集団の、主には大都市的現象」であって、「労働者層や農村住民ら.. http://t.co/YcDDSPRy

2012-10-01 10:42:22

もちろん、労働者や農村住民が第一次大戦にまったく熱狂しなかったわけではないです。原著の表現にもとづけば、戦争への熱狂は「特定のブルジョワ的諸集団の、主には大都市的現象」であって、「労働者層や農村住民らの反響をごくわずかにしか呼ばなかった」というほうが正確でした。すみません。