森瀬さんによるキム・ニューマン「超人」のストーリー概要

スーパーマン:レッドサンのような「スーパーマンがアメリカ以外に落ちていたら」というスピンオフのifストーリーです。
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森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

『スーパーマン:レッド・サン』が発売されたのでこいつを引っ張り出してみたのだけど、尾之上さんの翻訳でしたねそういえば。『スーパーマン:ブラック・クロス』として現役時代のコミカライズとか妄想してみたい。 http://t.co/dh0fPTba

2012-10-04 21:57:47
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森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

RT数が増えているようなので、キム・ニューマン「超人」のストーリーをざっとご紹介。『ドラキュラ紀元』に代表される、各媒体の古典的作品の登場人物たちを偏執的に盛り込む作風で知られる英国人作家、キム・ニューマンによる『スーパーマン』のパロディです。

2012-10-04 23:23:23
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

もし、カル=エルを乗せたクリプトン星の脱出カプセルが、アメリカのカンザス州ではなくドイツの片田舎に落ちたら--というIfの物語。ドイツ人夫婦に育てられた彼の名前は、クラーク・ケントならぬクルト・ケスラーという設定。

2012-10-04 23:26:59
銅大 @bakagane

@Molice そこで、確率的にはアメリカの方に落ちた可能性が高かったろうし、ソ連に落ちた可能性の方がもっと高かったろうと、レッドサンでも出たあのネタが!

2012-10-04 23:28:56
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

不思議な力をもてあましつつ、〈ターゲス・ヴェルト〉紙の新聞記者となったケスラーが住むことになったメトロポリス(=ベルリン)は、連続殺人鬼”M”(フリッツ・ラング監督『M』)やドクトル・マブゼ(フリッツ・ラング監督『ドクトル・マブゼ』)といったヴィランたちが闊歩する魔都でした。

2012-10-04 23:29:27
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

〈ターゲス・ヴェルト〉紙はNSDAP(ナチス)の機関紙で、ケスラー自身も党員でした。やがて彼はブラウン(突撃隊の制服の色であり、初期ナチのシンボルカラーでもある)のタイツに身を包み、胸に黒い鉤十字のシンボルをつけた「ヒーロー」として戦うようになり--

2012-10-04 23:32:09
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

--1940年代には政府の要請に従い、ドイツ軍の切り札としてその超常能力を戦争に使用します。しかし、殺戮を目撃したことでナチスへの忠誠心は喪われ、彼は連合軍に降伏し、戦犯としてシュパンダウ刑務所に収監。以後、40年の歳月が経過した--という時点から物語が始まります。(長いよ!)

2012-10-04 23:35:59
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

主人公は、伝説的なナチ・ハンターであるエイヴラハム・ブリュメンタル。小説『ブラジルから来た少年』に描かれる事件に関わったことが示唆されるので、ヤコフ・リーベルマンないしはそのモデルであるジーモン・ヴィーゼンタールと、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授の合成キャラと思われます。

2012-10-04 23:37:48
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちなみに、シュパンダウ刑務所といえば、ナチスの副総統ルドルフ・ヘスを収監していた刑務所として知られます。作中では、ケスラーを閉じ込めるためクリプトナイトの緑色の光に囲まれた、怪しい場所として描かれますが。

2012-10-04 23:39:40

海法 紀光 @nk12

@Molice クリプトナイトとは書いてないよね。固有名詞は注意深く避けてる(重箱)

2012-10-04 23:46:33

森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

(物語の結末も、ルドルフ・ヘスの最期を意識したものに見えますが、そこはまあネタバレにつき伏せておきます)

2012-10-04 23:40:45
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

物語は、シュパンダウ刑務所を訪れたブリュメンタルと、かつてのスーパーマン、ケスラーの面会中の対話から構成されます。かつての事件、そして「現在」の社会がどのような状況に置かれているかについては、彼らの対話を通して描かれます。

2012-10-04 23:42:46
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

「超人」は、1930年代(アーリア民族の英雄)と、1960年代(ユダヤ人の英雄)という、異なる価値観が世界を動かす原理であった「前時代」にそれぞれ属する二人のヒーローが、1990年代という新たな時代を前に対話を行い、「ある選択」を行ってひとつの時代を締めくくる物語です。

2012-10-04 23:47:35
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

『S-Fマガジン』1996年3月号に掲載。キム・ニューマンの翻訳料は、アン・ライス同様えらいことになっているようなので、再録などの可能性は低いように思われます。ネット古書店などでバックナンバーを探すのが吉。

2012-10-04 23:48:52
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちょっと面白いクルト・ケスラーのセリフを引用。

2012-10-04 23:50:52
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

「ひとつ事情がちがえば、わたしはロシアの人間だったかもしれない。ソヴィエト連邦はこの星でもっとも広い国だ。世界地図にダーツの矢を投げたら、当たるのはまずロシアだろう」「とうぜん、わたしは余計者だったろうがね。ソ連にはすでに自前の"鋼鉄の男"がいたのだから」

2012-10-04 23:50:57
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

この"鋼鉄の男"は、ヨシフ・スターリンの異名ですね。そのまんま、先日日本語版が発売されたアメコミ『スーパーマン:レッドサン』のプレリュードになっています。 http://t.co/nM2otEXu

2012-10-04 23:51:46
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

そして、ケスラーの言葉はこう続きます。「わたしの矢はカンザスの穀物畑に刺さっていたかもしれないし、アフリカのジャングルだったかもしれない。猿に育てられるよりもひどいことになっていたかもしれない」

2012-10-04 23:53:07
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

--これはE・R・バローズの『類猿人ターザン』の暗示ですね。こういう小ネタの挿入が、キム・ニューマンって人は実にうまい。ひょっとすると、ホームズやターザンの異能力を英国に墜落した隕石と結びつけた、P・J・ファーマーのウォルド・ニュートン・ユニバースを意識していたかも知れません。

2012-10-04 23:54:11

海法 紀光 @nk12

@Molice テン・ビリケンって誰じゃろ……。

2012-10-04 23:54:10
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

@nk12 H・H・エーヴェルスの『アルラウネ』、あるいは映画『妖花アラウネ』に出てくるテン・ブリンケン博士のこと。あるいは、後藤寿庵『マイルド寿庵』の(略

2012-10-04 23:54:59