山本七平botまとめ/「危機の叫び」と「あやし」で成り立つ”虚構の子守歌”が導いた滅びの脱出路「バシー海峡」

山本七平著『なぜ日本は敗れるのか』/バシー海峡/42頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【小松真一が挙げた日本の敗因21ヶ条/第15条『バァーシー海峡の損害と、戦意喪失』】前略~人々とは危機を叫ぶ声を小耳にはさみつつ、有形無形の組織内の組織に要請された日常業務に忙しい。そしてこの無反応を知った時、危機を叫ぶ者は益々その声を大にする。<『なぜ日本は敗れるのか』

2012-11-08 03:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

②しかし声を大きくすればするほど、またそれがたび重なれば重なるほど、まるでイソップの「狼が来た」と言いつづけた少年の言葉のように、人々は耳を傾けなくなる。

2012-11-08 03:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

③だがその時、誰かが、危機から脱する道はこれしかない、と具体的な脱出路を示し、そしてその道は実に狭く細くかつ脱出は困難を極め、恐らく全員の過半数は脱出できまい、といえば、次の瞬間、今まで危機々々と叫ぶ大声に無関心・無反応だった人々が、一斉に総毛立って、その道へと殺到する。

2012-11-08 04:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

④危機というものは、常に、そのように脱出路の提示という形でしか認識されない。バシー海峡は…太平洋戦争全体にとっても、そこを通過してかろうじて助かった一個人にとってもその名をロにしただけで総毛立って「戦意喪失」する、血まよえる者が誤認した脱出路だったのである。

2012-11-08 04:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤従って、敗戦21ヵ条にバシー海峡(註:台湾とフィリピンの間の海峡)が登場する事は、あらゆる意味で私にとっては当然である。それは、我々が如何に危機に対処できずに滅びるかを示す象徴的な「名」である。一体、何かゆえに、制海権のない海に、兵員を満載したポロ船が追んでいくのか。

2012-11-08 05:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥それは心理的に見れば、恐怖にわけがわからなくなったヒステリー女が、確実に迫り来るわけのわからぬ気味悪い対象に、手あたり次第に無我夢中で何かを投げつけ、それをたった一つの「対抗手段=逃げ道」と考えているに等しかったであろう。

2012-11-08 05:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦だが、この断末魔の大本営が無我夢中で投げつけているものは、ものでなく人間であった。そしてそれが現出したものは、結局、アウシュヴィッツのガス室よりはるかに高能率の、溺殺型大量殺人機構の創出であった。このことはだれも語らない。

2012-11-08 06:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧しかし『私の中の日本軍』で記したから再説はしないが、計算は、以上の言葉が誇張でなく純然たる事実であることを、明確に示している。だが「ヒステリー女の手あたり次第のもの投げ」といえば、おそらく反論はあるであろう。

2012-11-08 06:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨大本営には確かに一つの理屈はあった。だがそういった”理屈”とか”理論”とかいうものは、常にヒステリー的衝動の正当化と理論づけにすぎない。当時我々の受けた「訓示」によれば、日米両野戦軍はまだ一度も”決戦”をしていないということであった。

2012-11-08 07:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩確かに、島嶼の争奪は、十数個師団を展開する”奉天大合戦”的”会戦”ではない。「広さ」は戦力である。幸いマッカーサーは「アイ・シャル・リターン」。来るにきまっている。

2012-11-08 07:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪従って、戦備をととのえ、ルソンの山野に大兵を展開して米軍に決戦を挑み、これを包囲殲滅した上で対等の講和に持ちこむ、というのが、あらゆる方法で大兵団を比島に送った基本的な”理論”であり、これを彼らは”唯一の脱出路”と考えたわけである。

2012-11-08 08:28:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫だが窮地に陥った者は、そこが唯一の脱出路と思い込んだ瞬間、そこへ殺到して自滅する。そしてそのように、日本軍は、バシー海峡で自滅し、そしてその自滅の瞬間まで、危機の叫びは、実は、逆作用する一種の子守歌にすぎなかったのである。

2012-11-08 08:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬組織の中の一員は、前述のように、その当時であれ現在であれ、世界的な情況の中にある自己の位置は把握できない。確かに、周囲の情況は、あらゆる不安に満ちている。しかし、ちょうど「オオ、ヨシヨシ」といって子供をあやして不安を鎮めるような装置もまた、到る所にある。

2012-11-08 09:28:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭無敵神話・東条スマイル・軍歌と国民歌謡・お守り・旗の波は、幼児から「あやしと甘え」で育った者に、理由なき鎮静を与える。また、軍隊という組織・鉄の軍紀・階級・信念・猛訓練等、一切合財が「あやし」になる。

2012-11-08 09:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮そして「危機の叫び」と「あやし」のバランスで成り立つ「虚構の子守歌」は、本当の危機すなわち「脱出路」の入口まで、各人を眠らしている。

2012-11-08 10:28:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯そして整々と脱出路まで導かれた者が、ある情況を目にした瞬間、一切は虚構で、現実には全てが既に終っており、自分たちはただ”清算されるため”にそこにいるにすぎないことを知り、冷水をあびせられたように慄然とする。それがバシー海峡であった。~後略

2012-11-08 10:57:51