レプリカ・ミッシング・リンク #2

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「レプリカ・ミッシング・リンク」#2

2012-11-09 22:18:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:エンジニアの父と再会し、カネモチ・ディストリクトの邸宅で新たな生活を始めたばかりの無軌道大学生ユンコ・スズキ。だが突然謎のニンジャが彼女の家に押し入り父親を殺害!通報を聞きマッポたちが駆けつけるがチーフマッポも実はニンジャでありユンコに殺人の濡れ衣を着せようとする!)

2012-11-09 22:22:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ユンコが手錠をはめられたその時、家庭用オイランドロイドが突如戦闘モードに入りアサルトライフルを乱射し始める。混乱に乗じてスズキ邸から逃げ、サイバーゴスクラブ「ウゴノシュ」へと避難するユンコ。アマクダリ・セクトのニンジャ「キングピン」と「ターボアサシン」の狙いは、果たして……?)

2012-11-09 22:25:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私が、死んでる?ナンデ?」ミッドウィンター(本名ユンコ・スズキ)は眉根を寄せて立ち上がり、ヘイトディスチャージャーに問うた。電子手錠がコンクリートの床に転がり、ハッカー双子がそれを弄ぶ。「電電電子電子電子刺激クルー!」ホールからは耳を聾するようなサイバーテクノの轟音と閃光。 1

2012-11-09 22:32:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヘイトディスチャージャーは密着してくる彼女を、ユーレイでも見ているかのような顔で見下ろした。これは幻覚か?クスリか?いや、別に新しいカクテルを試した覚えはない。やはり目の前にいるのは、ミッドウィンター=サンだ。「何でって……去年事故で死んだだろ……?詐欺とかそういうアレか?」 2

2012-11-09 22:42:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「去年死んだ?」ユンコは間の悪いジョークを言うジョックでも見るような顔つきで、彼を睨んだ。彼は無言で頷くばかり。後ろを向くと、全員が揃って頷いていた。双子ハッカーも、少し遅れて頷いた。これはシリアスだ。「その娘は誰ですか?」金網ドアを開けて、IRC中毒のサイバーゴス女が入室。 3

2012-11-09 22:50:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ミッドウィンター=サンだ」ヘイトディスチャージャーが言う「知らないか。ここに来て半年ぐらいだったな」「昔の人ですか?」サイバーサングラスをかけたその若いサイバーゴス女は、彼の腕に絡み付いてユンコを警戒しつつ、ユンコの頭から爪先までをジロジロ観察した「さっきTVで見ました?」 4

2012-11-09 22:58:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「TV?」「ニュースです」「ニュース?」プライベート室のサイバーTVがつき、チャンネル球が操作される。嫌な予感がする。マイコ天気予報の中で臨時ニュースが流れていた。「凶悪殺人事件の続報ドスエ」豊満なマイコキャスターがキモノを着替えながら告げる。そこにはユンコの顔が映っていた。 5

2012-11-09 23:06:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ!?」ユンコが困惑する。青色と骨色のLANケーブルヘアー、黒いゴーグルを額に、肌は雪のように白く、眉毛はバーコード状、そして印象深いサイバネアイ……間違いなく彼女だ。しかも表情が悪い。いかにも凶悪で知能が低そうな写真を選んだに違いない。マッポがやりそうなことだ。 6

2012-11-09 23:15:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「指名手配犯ユンコ・スズキは、保険金目当てで事故死を装った直後に雲隠れし、今度は父親の遺産を奪うべく凶行ドスエ。さらにネオサイタマ市警の職員十数名を死傷させたいへん凶暴ドスエ。賞金は実際高い。情報提供は、アアーン……今すぐこのIRCアドレスに……」「……どういうこと、これ?」 7

2012-11-09 23:26:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワオーワオーワオー!突如、独特な電子サイレン音が鳴り響き、ダンスホールを照らしていたレーザービームの色が警戒色に変わる!「アイエエエエエエ!?」「マッポ?マッポクルー!?」狼狽えるサイバーゴスたち!ナムアミダブツ!これはマッポがクラブに乗り込んできた時に鳴らされる非常警報だ! 8

2012-11-09 23:35:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ケミカルションベン臭え所だぜ……」マッポを引き連れたキングピンが、ジッテとチョウチンで客を威嚇しながらエントランスを抜けてきた。まるで熱帯魚の楽園を切り裂くマグロ魚群のように。カニ捕り漁船のカゴめいた構造の三階プライベート室の金網床から、ユンコたちはそれを見下ろしていた。 9

2012-11-09 23:42:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエエエ!マッポ!マッポクルー!?」プライベート室にいたレッサーゴスたちも、慌てて金網の隙間から違法薬物を下に落とそうとしたり、違法フロッピーを物理破壊しようとする。その動きでプライベート室を吊るす四本の鎖が軋み、ユンコの覚束ない未来を暗示するかのように揺れた。 10

2012-11-09 23:48:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ねえ、まさか、助けてくれないってワケじゃないよね?」ユンコがプライベート室の面々を見回した。誰も答えない。「……ミッドウィンター=サン、悪く思わないでくれよ、俺はこのクラブを守らなくちゃいけないんだ」ヘイトディスチャージャーが首を横に振った。「逃げるなら、今、独りで」 11

2012-11-09 23:57:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電子手錠を投げ渡されたユンコは、頭の中が真っ白になっていた。怒りと、失望と、恐怖と、ヘイトディスチャージャーに対する少しの感謝と、よくわからない気持ちで胸がいっぱいになり、今にもニューロンが焼き切れそうだった。「オタッシャデー……」彼女はそう言い残し、プライベート室を出た。 12

2012-11-10 00:08:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイ、アイ、アイアム、ヘイ、ヘイ、ヘイトディスチャージャー」彼は口元を覆うガスマスクのディストーション調整ボタンを押すと、シーケンサー搭載型電子オコトの前に立った。ズン!ズン!ズズン!ズン!ズン!ズズン!ズンズンズンズズキューワキューキュキュ!重低音がクラブ内に鳴り響く! 13

2012-11-10 00:16:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マッポが悪いー」ナムサン!これは実際かなり珍しいヘイトディスチャージャーの生演奏だ!「ワオオオー!」ホールにいた薬物酩酊サイバーゴスたちは皆、電子刺激を与えられたカエルの脚めいて急激なサイバーダンスを始めた!「ガキどもが!」足止めを受けたキングピンが電撃ジッテを振り回す! 14

2012-11-10 00:27:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイ、アイ、アイアムザマシーン」ダークロードの非人間的マシンボイスが響く中、ユンコは弾丸めいて逃げた。理不尽への怒りがタイムラグ的に沸き起こり、全ての感情を吞み込む。「ブッダ……ファック!」彼女は二階の窓を強化ゴスブーツで蹴破った。冷たいネオサイタマの風が吹き込んできた。 15

2012-11-10 00:41:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暗い路地裏を見下ろし、ユンコは飛び降りを一瞬躊躇った。LANケーブルを後ろに引っ張られるような想いだ。だが、自分の居場所はもうここにはない。飛んだ。「アイ、アイ、アイアム、ヘイ、ヘイ、ヘイトディスチャー……アバッ!アバババババーッ!」その絶叫ノイズは彼女には聞こえなかった。 16

2012-11-10 00:52:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンアーッ!」ユンコはゴミ袋の山にダイブし、アスファルトの上に転がった。お気に入りのサイバーウェアが傷だらけだ。息つく間もなく「こちらへどうぞ!」「スゴイ!」「賞金が欲しい!」カネに目の眩んだ中階層サイバーゴスの声が大通りから聞こえ、ライトの灯りが何本もユンコを照らした! 17

2012-11-10 01:03:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「…まだ走れって?」ユンコは立ち上がって逃げる!不確かな記憶を頼りに、夜のカネモチ・ディストリクトを駆け抜ける!「アイエエエエ殺人犯!」「コワイ!」背後に聞こえる無数の罵声や、悲鳴や、マッポサイレン音を振り切りながら。「ファック!ファック!ファーック!私が何したっての!?」 18

2012-11-10 01:16:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがユンコ自身ですらも、その糾弾が的外れであることは薄々感づいていた。ここはネオサイタマ……無数の陰謀と殺人事件と冤罪と、それを上回る数の不運と理不尽がそこかしこに転がっているのだ。道に迷った彼女はビルの迷宮に迷い込み……やがて隣接ディストリクトとの境界線に偶然行き当たる。 19

2012-11-10 01:24:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カネモチ・ディストリクトは露骨な高台になっている。目の前の坂を下り、透明な「天井」から滝のごとく降り注いでくる重金属酸性雨を抜ければ、猥雑なネオン街が彼女にカモフラージュ効果をもたらしてくれるだろう。だがその前に、坂の前には高さ3メートルの電磁金網が立ちはだかっているのだ。 20

2012-11-10 01:28:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

別の逃げ道を探すしかない。あるのかどうかは解らないが……ユンコは威圧的な低い電子音を放つ金網に対して悪態をついてから、後ろを振り返った。自分が通ってきた灰色の無機質ビル街の谷間を、再び駆ける。……その時、彼女の出口を塞ぐかのように、数台の黒いヤクザベンツが大通りに停車した。 21

2012-11-10 01:37:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今度は何だ?ユンコが立ち止まり、ショーユドラム缶の陰に身を潜める。だがその努力は徒労に終わった。敵は既に彼女を発見していたからだ。……全員同じ背丈と顔つき、全員同じスーツ、全員同じサングラスのヤクザたちが、一糸乱れぬ動きでベンツから降り、ユンコに向かって黙々と歩を進めた。 22

2012-11-10 01:42:08