山本七平botまとめ/【中国兵は強かった②】/内戦で鍛え上げられた中国のヴェテラン歩兵に引きずり回された日本軍

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/中国兵は強かった/63頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】これから引用するさる「匿名氏」の手紙を読んでも、人びとは絶対に信用しないかも知れぬ。しかし私にとってはそのこと自体が、すでにみなの判断が狂わせられている証拠にすぎないのである。<『ある異常体験者の偏見』

2012-11-10 14:28:09
山本七平bot @yamamoto7hei

2】この手紙は、去年の五月に私が…毎日新聞の『百人斬り競争』と朝日新聞の『殺人ゲーム』を扱った少し後に、全くの無署名で届いたものである。 (~手紙本文の引用省略~) 同じ頃新聞が報じた、勝った勝ったの「怒濤の快進撃」とこの「匿名氏」の手紙と、人はどちらを信用するであろうか。

2012-11-10 14:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

3】頭から信じない人もいるであろうし、T中尉の話をきいたときの私同様、半信半疑の人もいるであろう。しかし私にとっては、この「匿名氏」の手紙は、実は、そうたいした驚きではなかった。

2012-11-10 15:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

4】というのは、この手紙を見た瞬間、ある機密文書を思い出したからである。この文書は確か「戦訓速報」と言ったと思う。…戦場におけるさまざまな失敗例のうち、特に、下級将校の教育資料として必要と思われるものを集めて、いわば「悪しき例の教材」として、送られて来たものらしい。

2012-11-10 15:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

5】…これは「公文書」であり、しかもいわば「恥辱の記録」だから、創作が入っているはずはないし、また「教育上百害あって一利なし」と思われるほどひどいものは、入っていなかったはずである。従って最低の例とはいえない。

2012-11-10 16:28:10
山本七平bot @yamamoto7hei

6】そして編集の重点は「将校の非違行為」およびこれによって惹起された損害にあった…この「速報」のこういった記事のほとんどすべてが、中国戦線に集中していたように思う。

2012-11-10 16:57:52
山本七平bot @yamamoto7hei

7】そしてそれらからうける印象は、結局この「匿名氏」の言われている通りのこと――即ち、相手は清朝末期以来の永続的な内戦で鍛見抜かれた戦争の超ヴェテランで、日本軍は、いわば、鼻づらをつかまれて思う存分に引きまわされているのにそれすらわからないにすぎない、ということ、

2012-11-10 17:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

8】氏の言葉を借りれば「田舎五級」と「八段」の対局そのままの状態であるということであった。 だが今でもそれがわからない人も多いらしく、ちょうど将棋のわからない人が、「歩」がずんずん前に出たことを、そのときは勝っていたと思いこむのと同じようなことを思っている人もいる。

2012-11-10 17:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

9】そして「匿名氏」のような評価は、また当時の軍内部の一種の「定評」でもあった。中国戦線から南方にまわされたヴェテランの将校・下士官・兵が口を揃えていった事は、「中国の歩兵は世界一」という事であった。

2012-11-10 18:28:07
山本七平bot @yamamoto7hei

10】もちろんその言葉には「それにひきかえて米兵は、まるで素人だ」という意味があり、また「米軍ニ戦術ナシ、算術アルノミ」という言葉もこの対比から出たものであったろう。神出鬼没、内戦で鍛えあげた超ヴェテランの中国兵と比べれば、確かにアメリカ兵は私同様の素人であったろう。

2012-11-10 18:57:51
山本七平bot @yamamoto7hei

11】だがこの素人は…いわば素人に徹するというようなところがあった。朝鮮戦争の時、ある新聞が中国軍の勇敢を賛えていたが、その言い方はまるで「かつてのチャンコロ兵が、毛沢東の下、にえたぎる民衆のエネルギーを結集して驚くべき勇敢な兵士に生れかわった」と言っているようであった。

2012-11-10 19:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

12】しかしこれは、自分たちが勝手に作りあげた過去の虚像を事実として、それを現状と対比している無根拠な断定にすぎない。彼らが毛沢東が政権をとる以前から、鍛え抜かれた世界最強の歩兵であることは、体験者がすべて認めることであった。

2012-11-10 19:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

13】牟田口司令官が「インパール作戦」を強行した裏には「イギリス兵は中国兵よりはるかに弱い」という認識があったそうである。この人は日華事変の初めから北支を転戦した連隊長だから、中国軍のことはよく知っていたはずである。

2012-11-10 20:28:07
山本七平bot @yamamoto7hei

14】そして、大作戦の行われる前の小戦闘や威力偵察や衝突等の報告から、相手の「手ごたえ」を的確に判定する能力はもっていたはずである。従って彼のこの認識自体は誤りであったとはいえない。そして一歩兵連隊長の判断ならこれで良いかもしれぬ。

2012-11-10 20:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

15】しかし彼は、日本軍の通弊通り、補給ということを無視して、全軍崩壊の端緒をつくってしまった。

2012-11-10 21:28:09
山本七平bot @yamamoto7hei

16】このヴェテランたちの米軍に対する評価にも、やや似た点があった。「匿名氏」の言葉を借リれば、彼ら米兵も「田舎五級」であったろう。 「匿名氏」は、中国軍というのは姿が全然見えないと書いておられる。

2012-11-10 21:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

17】虚報『百人斬り競争』のため処刑された向井少尉の「上申書」にも、人を斬るどころか、無錫と丹陽で双眼鏡でかろうじて中国軍を見た事があるだけだという記述がある。 だが、当時も今も人はこの言葉を信用せず、新聞記事を信用する。そして彼を処刑してしまう。

2012-11-10 22:28:15
山本七平bot @yamamoto7hei

18】しかし中国軍は姿が見えない――これは中国戦線から来たヴェテランたちが等しく言った言葉である。…だがアメリカ兵の場合は、そうはいえない。彼らは、そういう意味のヴェテランでなく、またまことに奇妙な野放図なところがあった。

2012-11-10 22:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

19】…彼らには「術」とか「器用さ」とかいったものは皆無であり…従って「戦術ナシ、算術ノミ」といった批評が生れたのであろうが、そのかわり、素人に徹していて、そういう「術」は自ら一切排除して、算術的な確定要素しか信じない面があった。

2012-11-10 23:28:09
山本七平bot @yamamoto7hei

20】従って、前にのべた原則の通りに、こちらに野砲が一門でも残っていれば、その射程外から艦砲で完全に叩きつぶしてから、これもまた白昼堂々と上陸してくるわけであった。いわばどちらを向いても手も足も出ない。

2012-11-10 23:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

21】中国では、優秀な軽火器をもち内戦で鍛えあげた超ヴェテランに引きずりまわされる。南方では、同じような素人でも圧倒的火力による算術的確定要素しか信じない相手に、こちらの射程外から一方的に叩かれる。これにどうしたら対抗できるか、その結論は、結局新井宝雄氏の結論であった。

2012-11-11 00:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

22】強力な武器をもつか高度の戦闘技術(これも強力な武器だが)をもつ敵に対して、ただただ精神力という一種のエネルギーをもって対抗する、という図式であった。もっとも陸軍の首脳は専門家だから、そんな安易なことは考えてなかったらしい。

2012-11-11 00:57:44