山本七平botまとめ/【中国兵は強かった③】/なぜ小学生でもわかるはずの計算がわからなくなるのか?/~日本を破滅させた「一方的断定」と「判断の規制」~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/中国兵は強かった/71頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】先日、故池島信平前社長の紹介で、Sさんという方が来訪されたので、その機会に南京攻略当時の話をうかがった。当時は私はまだやっと少年期を脱したところで、そのころの軍部の実情などは何一つ知らなかったので、そのお話は大変に興味深かった。<『ある異常体験者の偏見』

2012-11-11 01:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

2】というのは…収容所で高級将校から聞した話と全く同趣旨の内容だったからである。氏のお話によると、南京戦の前に、多田参謀次長が「今『トラウトマン斡旋案』を受諾して戦争をやめねば日本は破滅する」といって、これを受諾さすべくあらゆる方法で極力各方面に働きかけていたそうである。

2012-11-11 01:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

3】考えてみるとまことに不思議な話である。…当時は総長は皇族だから多田参謀次長は陸軍の統師部の最高責任者である。この最高責任者が「負けるから戦争はやめろ」と言っていたのである。不幸にして戦争は既に始まっている。この場合に最も大切な事は、それに対する最高責任者の判断であろう。

2012-11-11 02:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

4】そして新聞に「知らせる義務」があるなら、この場合にはこの最高責任者の判断こそ、全日本人に知らせる義務があったはずである。なぜこれらの最も重要なことを知らせずに「戦意高揚記事」を書きつづけて来たのか。もちろん私は、今それを非難しているのでもなければ糾弾しているのでもない。

2012-11-11 02:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

5】幸い新井宝雄氏(註:毎日新聞編集委員/山本七平の論争相手)は、「深い反省からしか何も生れない」と言っておられるから、その理由を徹底的に解明していただきたいと願っているだけである。もちろん私も解明してみたい。反省とはそういうことであろうから――。

2012-11-11 03:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

6】おそらくそれは、判断をまず規制するということから生ずるのだろうと思う。すなわち、負けるという判断自体がよくない、そういう考え方は敗戦主義者の非国民のすることだ、という考え方だろうと思う。これが、大小とわずすべての面に作用していたように思われる。

2012-11-11 03:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

7】勿論私は大きなことは知らない。しかし私の体験でも、当時は私自身も「ああ考えてはならない」とか「こう考えるべきでない」とか「こういう見方をしてはならない」というような判断の規制に囲繞(いにょう)されているような状態であったと思う。そして皆がそういう状態にされていた。

2012-11-11 04:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

8】そのためそういう判断の規制をせずに「十榴」の前に立てば、それが外国のイミテーション兵器であるために、当時の日本人の平均的体格を基準にすれば欠陥兵器であることは、だれにもわかるはずなのに、それがわからなくなってしまうのである。

2012-11-11 04:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

9】つまり判断を規制され、その為特定の判断以外の判断を下す事を停止させられると、人間は目の前にある対象を正確に見る事ができなくなるからである。人間が恐怖に晒されると判断が停止して「馬の目」になり、ただ「見る」だけの生物になってしまうと前にのべたが、ちょうどその逆の現象を呈する。

2012-11-11 05:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

10]すなわち、規制された判断に基づいてしか対象を見ないので、見ればわかる事が、見えなくなってしまうのである。そういう時の人間の目はいわば「上の空」になっていて、目があいているのに何も見ていない。事実を目の前につきつけられてもわからない。

2012-11-11 05:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

11】小学生でもわかるはずの計算を見せられても、その計算が目に入らなくなってしまうのである。もちろん、正しいデータに基づく判断を提供して、それを人びとの判断の参考に供するならよい。

2012-11-11 06:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

12】しかしその際にも、判断を供するなら、同時にそう判断した基礎データを示すか、たとえ同時でなくても、要求されたらそのデータなり根拠なりを示す義務は、その人にあるはずである。

2012-11-11 06:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

13】それが出来ないなら、それは、無根拠の一方的断定を人に押しつけて、人びとの判断を阻害し規制しているにすぎない。 たとえば新井宝雄氏が「強大な武器をもつ日本」と判断され、その判断で人びとの判断を規制するなら、その根拠を示す義務があるはずである。

2012-11-11 07:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

14】新井氏が、果して日本軍の兵器を見たことがあるのか、さわったことがあるのか、操作したことがあるのか。たとえそれをしていてもそれだけではこの判断は下せないはずである。

2012-11-11 07:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

15】それを外国の兵器と比較し、さらに兵器それ自体は優秀でも果して日本人の体格性格にマッチしているかどうか、を検討した上でなければ言えないはずである。氏はそれをされたことがあるのか?

2012-11-11 08:28:08
山本七平bot @yamamoto7hei

16】さらに「十挺の機関銃で十万人」と言った人は、果して機関銃というものを見たことがあるのか。その性能を調べたことがあるのか。操作したことがあるのか。一体全体、自分が今まで一度も、見たことも、さわったことも、操作したこともないものに、どうやってそういう断定が下せるのか。

2012-11-11 08:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

17】全くの無根拠で、ただそういったような断定を一方的に下し、それと別の判断を下す者の口を実質的に封じていったこと、参謀次長の口さえ封じたに等しいことが、日本を破滅させたのではないであろうか。

2012-11-11 09:28:02