山本七平botまとめ/【中国兵は強かった④】/「百人斬り」などの虚報を何の抵抗もなく受け入れる人に、米英撃滅を呼号した戦前の人をあざ笑う資格はない。

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/中国兵は強かった/73頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】だが参謀次長云々といったような高度な問題をひとまずおくとして、兵器にもどろう。日本軍は「欠陥兵器集団」だといった以上、私には、私なりの根拠があるのであって、ただに星一つのときの印象だけでそう判断したわけではない。<『ある異常体験者の偏見』

2012-11-11 09:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

2】といっても、私も日本製の兵器のすべてを外国製の兵器と比較検討したわけではない。私たちは昭和19年の六月にルソン島についたが…結局支給されたのは改造三八野砲四門、十二榴一門、観測車一両だけで、あとは、緒戦当時アメリカが捨てていった兵器、いわゆる押収兵器を支給された。

2012-11-11 10:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

3】私は…この支給される押収兵器の分解・点検・試射いわばテストを全部やらされたわけである。1917年式小銃、ガラント自動小銃(いずれも口径七ミリ七)、自走砲、重機、携帯電話機から、砲弾、信管、雷管、導火索、導爆索等にいたるまて、アメリカ製ですべてテストした。

2012-11-11 10:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

4】…テストの結果の細部は省略する。一言にしていえばO博士のいわれた通りであり、その差は、一種の絶望感に襲われるほどであった。彼らは戦術では日本軍同様「田舎五級」かも知れないが、兵器に関する限りは「八段」であった。

2012-11-11 11:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

5】確かに日本製も外見は一応同じである。しかしその材質と製品のバラツキという点では、まさに天地の差があった。これは当時の日本の工業水準・技術水準では、何とも出来なかったことなのであろう。戦前は今とちがって「メイド・イン・ジャパン」とは粗悪品の代名詞であった。

2012-11-11 11:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

6】…何とかいう喜劇映画で海賊に扮したダニー・ケイが、手鉤を相手の船にひっかけたところが、それがポロリと折れる、すると彼が間髪入れず「ははあ、メイド・イン・ジャパンだな」という、すると観客がどっと笑った、という話を聞いたが、これが昔の日本製品の材質の世界的定評であった。

2012-11-11 12:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

7】全般的な材質そのものがそういう水準では、それから作られるものはすべてその水準で、O博士のような人がいくら努力しても、兵器だけ特別ということは技術的に無理なことであったと思う。もう一つは製品のバラツキである。

2012-11-11 12:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

8】これは下請から下請へとわたされ、最終的には家内工業に等しい中小企業で部品が作られる。従って職人的な腕に依存する部分が非常に多く、腕の差でバラツキが多くなったものと思う。

2012-11-11 13:28:08
山本七平bot @yamamoto7hei

9】そしてさらにその職人が兵隊にとられてしまい、あとを、全く無経験の徴用工や勤労動員の生従でうめるというような結果になると、ますます製品の質は落ちてくるわけであった。従って、新式新製品ほど粗悪という妙な結果にもなった。

2012-11-11 13:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

10】たとえ泥縄でも、イミテーションという面では、前にのべたK中尉の言葉通りに、軍は一心に改良はしていたらしい。しかしその新式ほど、部品の加工が粗雑なため、正常に機能しない。従ってひどい兵器にあたると、どうにもならない。

2012-11-11 14:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

11】歩兵の一個中隊には機関銃が四挺あるわけだが、安岡章太郎氏のお話では、そのうち三挺が作動することはまず皆無に近かったそうである。機関銃が動かなくなっては、近代戦ではもうどうにもならない。

2012-11-11 14:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

12】安岡氏は「軽機の名射手とは、射撃のうまい人間を言うのじゃなくて、修理のうまい人間を言うんだ」と言って笑っておられた。 砲兵の恐怖は、不良信管による腔発事故で、運悪く不良信管にあたれば、砲側の全員がほぼ確実に死んだ。

2012-11-11 15:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

13】さらに光学兵器、通信機材と比較していけぼきりがないので省略するが、すべての点でいわば当時の「舶来上等」時代のままであり、国産兵器といっても所詮、外国の旧式兵器のイミテーションで、しかも材質が悪く加工が悪い、ということだけであったろう。

2012-11-11 15:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

14】だがこれは両者を厳密に比較し…操作してみて初めて判る事で、両者を全然知らない者が…一方的な断定を下し、その断定を「事実」にしてしまって、その「虚構の事実」に基づく判断で人々の判断を規制すれば、その人々はもう「本当の事実」を目前につきつけられてもその対象が見えなくなってしまう

2012-11-11 16:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

15】いわば「裸の王様」が裸に見えなくなる。そのため、今ですら「日本軍とは欠陥兵器集団ではなかったのか」という疑念すら誰も持っていない――従って「強大な武器をもった日本」という言葉を、人々は全く抵抗を感じず、何らその前提を問うこともなしに、受け入れてしまうのである。

2012-11-11 16:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

16】すると次にその上に「強力な武器対民衆のエネルギー」といったような様々な理論やら主張やら解説やらが積みあげられ、その表現を益々エスカレートしていく――そしてそれが世の常識になる。 するともうどうにもならない。動かすことも、ゆるがすこともできなくなる。

2012-11-11 17:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

17】すると人びとはその不動の常識によりかかっていた方が楽だから、そこで思考を停止し、他に規定された判断をそのまま自分の判断とし、そしてその常識なるものに反するものは自分の方から排除してしまう。ひどい時には村八分にしてしまう。従って事実を知っている者はみな沈黙する。

2012-11-11 17:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

18】いったんそうなると、もういいも悪いもない。その常識という虚構の上に順次に虚構が積み重ねられていき、しまいにはどんな誇大妄想狂も口にしないようなことを言っても、人びとは何の抵抗もなく受け入れてしまう。そしてこの状態がいわば「神がかり」かも知れぬ。

2012-11-11 18:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

19】前に引用した「十挺の機関銃で十万人の中国人を虐殺した」という言葉だが…こういうことがいえる人は、私から見れば誇大妄想狂だが、この言葉が何の抵抗もなく受け入れられているのなら、それは、皆の判断がもう規制されて、相当「神がかり」になっている証拠である。

2012-11-11 18:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

20】銃弾には「致死命中率」というものがある。たとえば「テルアヴィヴの乱射事件」のような、戦場では考えられぬような至近距離で、全く無抵抗、無防備、しかも全然予期しない人々に向って一方的に発射しても、その致死命中率は私の計算では6%である。たしかにこれは異常に高い。

2012-11-11 19:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

21】しかしこの率で逆算しても、十万人を虐殺したというなら、その発射弾数は約170万発。輜重車約二百台分、一挺あたり17万発ということになる。機関銃は銃身加熱してくるので、モリブデン鋼という特殊鋼を使うそうだが、日本製はこの材質も悪くすぐ過熱したらしい。

2012-11-11 19:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

22】いずれにしても銃身が過熱するから、長時間連続発射はできない。従って平均一秒一発などは到底不可能だが、それができたと仮定し、朝から晩まで約十時間撃ちつづけ得たとして――これも不可能だが、それでも3万6千発であり、17万発の五分の一である。

2012-11-11 20:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

23】だがこの3万6千発すら、実際はたとえチェコのシュコダ製を用いても、不可能である。…おそらくこの人は、銃器というものがどういう構造に基づいて発射できるものなのか全然知らないのだろう。何も知らないのに一方的に断定する。そしてこういう全くありえない事が堂々と活字になる。

2012-11-11 20:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

24】すると人々は何の抵抗もなくそれを受け入れてしまう。こういうものが平然と横行しているなら、米英撃滅を呼号した戦争中の人間を嘲笑う資格は誰にもない筈である。 なぜそうなるのか。その原因は「判断の規制」とそれに基づく「軍人的断言法」の問題であると思う。

2012-11-11 21:28:03