セシウムを含む家畜の糞尿は、ノルウェーではどう処理したか?
- yoshisatose
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チェルノブイリの事故後、ノルウェーの畜産業では試行錯誤の結果、家畜のセシウム汚染対策としてペルシアンブルーが使われるようになりました。下のまとめは、その大きな効果を示したものです。
また、年数の経過とともにセシウム汚染がどのように減衰しているかも分かります。
素朴な疑問:家畜のセシウム濃度が減るということは、糞尿として排出されているからか?そしてその処理をどうするのか? http://t.co/3EVsYDsP
2012-10-31 19:48:10少し前に、「ノルウェーのラム・羊・牛乳・ヤギ乳のセシウム濃度の変化」というまとめ http://t.co/Oi8tsbW9 を作ったときに、@neologcutter さんから、セシウムを含んだ家畜の糞尿はノルウェーではどう処理しているのか?という質問を頂きました。
2012-11-19 08:55:14おそらく、肥料として牧草地にそのまま撒布していると私は思っていましたが、念のため、ノルウェー放射線防護庁の技官であるラヴランスさんに質問してみたところ、答えが返ってきました。以下、連投します。
2012-11-19 08:56:50私の質問①:「プルシアンブルー(以下PB)を投与した家畜の糞尿はノルウェーではどのように処理したのか? 一ヶ所に集めて、自然界に拡散しないようにしたのか? それとも通常通り堆肥として牧草地で利用したのか?」
2012-11-19 08:59:00ラヴランス氏:「ノルウェーではそのような糞尿を特別に扱うことはせず、堆肥として牧草地でそれまで通り使用した。セシウム(以下Cs)は牧草地-牧草-家畜-糞尿-牧草地を循環することになる。ただ、植物・牧草が土壌から吸い上げるセシウムの量は土壌中の総量のごく一部でしかない」
2012-11-19 09:01:13私の質問②:「家畜の消化管内でPBに吸着したCsは糞として排泄されるわけだが、その糞尿が堆肥として使われた場合、CsはPBと結合したままで、植物・牧草に吸い上げられにくいと考えてよいか? 言い換えれば、糞尿中でPBと結合しているCsの生物学的利用能はどれくらいか?」
2012-11-19 09:02:33ラヴランス氏:「糞尿中のCsとPBの結合は強い。その結合は、自然界に出てからも少なくともしばらくの間、維持されると考えられる。だから、植物に吸い上げられにくい」
2012-11-19 09:05:06(数日後再び)ラヴランス氏:「面白い論文がある。 AFCF(←PBの一種)を投与された家畜と投与されなかった家畜の糞尿を使って、植物のセシウム吸収にどのような差が出るかを調べたものだが、その差は私の予想よりも大きかった。」
2012-11-19 09:06:27続き)「PB(AFCF)を含む糞尿を堆肥として農地に撒布した場合、PBを含まない糞尿を堆肥として使用した場合に比べ、Csの吸い上げは4分の1から5分の1になった。これは、堆肥中のCsの吸収が抑えられたと共に、土壌中に含まれていたCsの吸収も抑えられた結果のようだ。」
2012-11-19 09:07:58続き)「つまり、PBを投与した家畜の糞尿を堆肥として利用するのは二重の意味で好都合なわけだ。まず、糞尿中のCsを植物が取り込むのが抑制される。それに加え、土壌に含まれるCsを植物が取り込むのも抑制される。そして、この効果は少なくとも1年は持続する」
2012-11-19 09:09:04ラヴランス氏が教えてくれたのは、Vandecasteele, Van Hees, De Brouwer & Vandenhove (1996) ”Side-effects of Application of Manure from AFCF Treated Animals” と
2012-11-19 09:09:36同著者(1997) ”Effects of AFCF and Faeces Addition on Yield and Soil-Plant Transfer of Radiocaesium to Rye-grass”, J. Environ. Radioactivity
2012-11-19 09:11:02AFCF とは、Ammonium-ferric(III)-hexacyano-ferrate(II) のこと
2012-11-19 09:11:212つとも研究者は同じで、扱っている実験も同じ。ただし、実験の詳細を記述しているのは後者で、前者はそのサマリー的なproceedingsタイプの論文。ラヴランスさん曰く、「優秀な研究者による実験なので信頼に値する」とのこと。
2012-11-19 09:12:02私の質問③:「Csを含んだ家畜の糞尿をそもそも堆肥として使わず、廃棄物として処分すれば、牧草地-牧草-家畜-糞尿-牧草地というサイクルの中に存在するCsの総量を確実に減らせると思うが、それをしなかった理由は何か?」
2012-11-19 09:12:28ラヴランス氏の答え:「チェルノブイリ事故後に家畜の糞尿を堆肥として使うことの是非を評価した研究は、ノルウェーでは見た覚えがない。当時の農家は自分の牧場で出る糞尿を堆肥として使うことに、今以上に依存していた。私自身も、堆肥としての利用に問題があるとは思えない。」
2012-11-19 09:13:39(↑ 私の訳が悪かったかもしれませんが、「ノルウェーの牧場では牧草地に撒布する肥料を外部から買ってくることは一般的ではないため、自分の牧場で出た糞尿を堆肥として使わざるを得ず、また、それは今よりも当時のほうが顕著だった」、ということです。)
続き)「耕起や施肥などによって牧草地の汚染対策はできるのだから。被災地域の人々に必要以上の負担を強いることは避けなければならない。糞尿を廃棄物として処分することを要求するのも、必要のない負担を強いることだと私は思う」
2012-11-19 09:14:22(私の補足: チェルノブイリ後のノルウェーの畜産業における大きな課題は、広大な自然に広がる放牧地における汚染対策だった。耕すこともできなければ、カリウム肥料を撒くこともできなかったから。それに比べ、牧場周辺の牧草地における汚染対策は比較的容易だと認識されていたようだ)
2012-11-19 09:16:20ラヴランス氏の追加:「関連して言えば、ノルウェーで事故後に話題になったのは、放牧中の家畜が放牧地でCsを含む牧草を食べ、糞尿の一部を牧場に戻ってきてからするから、牧場周辺の土壌のCs総量が増えてしまうのではないか、という懸念だった。」
2012-11-19 09:17:24続き)「ただ、そうやって自然の放牧地から牧場周辺の牧草地に持ち込まれるCsの量は、すでに牧草地に存在するCsに比べて僅かなものだという結論に至ったのだと認識している。皆さんと最後に訪れた牧場(車で長時間かけて行った所)で牧場主と話になったのは、」
2012-11-19 09:18:09続き)「自然の放牧地から持ち込まれるCsは一年で見ると僅かな量でも、25年通してみると大きな量になるのではないか、ということだった。しかし、その量を推計するのはそんなに難しいことじゃない。」
2012-11-19 09:19:03