笠井氏 正しい正しくないは依然として存在する

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笠井潔 @kiyoshikasai

@YumeBaku3 一昨日で64歳になりました。あと一年たつと、法律上の「高齢者=老人」です。肉体は老化していくのに、頭の中身はあまり変わりません。よくいえば一貫している、悪くいえば進歩がない人間のようです。

2012-11-20 07:59:25
笠井潔 @kiyoshikasai

『テロルの現象学』序文、最終的に40×40で70枚になった。機械的に計算すると原稿用紙で280枚。『魔の山の殺人』第7回を書いてから、また書き直していたのだが、これで完成稿とすることに。

2012-11-22 14:53:16
笠井潔 @kiyoshikasai

連載中の小説以外、今年は社会思想関係の評論ばかり書いていた気がする。『8・15と3・11』、「情況」特別号のデモ論、それに『テロルの現象学』序文。主なところでも合計で600枚は超える。まあ、頑張ったといえるだろう。

2012-11-22 14:57:24
笠井潔 @kiyoshikasai

今の読者に30年前の『テロルの現象学』を繋げるために書いた序文だが、やはり30年(連合赤軍事件からは40年)の時間は長かった。ちゃんと書けば充分に本一冊分になる枚数が必要だった。いや、新書なら軽く本一冊分だが。

2012-11-22 15:07:16
笠井潔 @kiyoshikasai

40代以上では、読むべき人はほとんど『テロルの現象学』を読んでいると思う。20代と30代の新しい読者に向けて序文を書いたのだが、期せずして笠井の68年論になっている。もちろん、68年経験が通過した40年で世界と日本がどう変わったかの分析でもある。

2012-11-22 15:10:23
笠井潔 @kiyoshikasai

既読の人には申し訳ないが、『テロルの現象学』と『例外社会』のあいだに笠井が何を考えていたか興味のある読者には、新版のほうも読んでいただければと思う。なにしろ長いので、本屋で序文だけ立ち読みというわけにはいかないだろう。その根性がある人には、そうしていただいてかまわないが。

2012-11-22 15:12:55
笠井潔 @kiyoshikasai

68年ラディカリズムには5つ「夢」があった。「社会主義の夢」、「消尽の夢」、「霊的身体的解放の夢」、「マイノリティ解放の夢」、「自由の夢」。しかしこれらは、それぞれ「収容所の悪夢」、「消費社会の悪夢」、「血債主義の悪夢」、「新自由主義の悪夢」に反転していく。

2012-11-22 15:25:31
笠井潔 @kiyoshikasai

夢が悪夢に反転する陥穽に落ちた68年世代は少なくない。第5点では村上龍が典型だろう。68年の自由の夢を愚直に、非転向的に貫いていたら、知らないうちに新自由主義の罠に落ちていた。

2012-11-22 15:28:48
笠井潔 @kiyoshikasai

このままでは小熊英二の『1986』的な68年清算論がスタンダードになりそうだ。それに異を唱えようとして序文を書きはじめたのだが、なにしろ落とし穴は五つもあった。ほとんどの体験世代が、そのどれかに落ちたとしても不思議ではない。

2012-11-22 15:31:47
笠井潔 @kiyoshikasai

まだ新左翼党派をやっている同世代も少数ながら存在する。この連中は自分こそ非転向で68年の精神を貫いてきたと自賛しているのだろう。とんでもない話で、それと比較すれば新自由主義というスポットに落ちた村上龍のほうがはるかにマシだ。

2012-11-22 15:33:39
笠井潔 @kiyoshikasai

収容所群島も消費社会もオウムも血債主義も、そしてネオリベも、すべては68年の敗北の形態である。おのれの敗北を直視することなく、ようするに5つの穴から遠く離れた場所を無難に、安全に転がり続けたボールになど思想的な意味はない。

2012-11-22 15:36:17
笠井潔 @kiyoshikasai

というか思想的退廃のきわみである。だからといって第2の穴に落ちた糸井重里や坂本龍一や第5の穴の村上龍がいいともいえない。時代的なリアリティそのものである穴の縁ぎりぎりまで接近しながら、落ちることを回避して前に進むことができた68年の思想だけが評価に値する。

2012-11-22 15:40:08
笠井潔 @kiyoshikasai

数として多いとはいえないが、5つの穴の縁をぎりぎりで通過し、21世紀の今日まで68年の思想を持続しえた闘争者は存在する。それらの人々の存在を、反貧困運動や脱原発運動をはじめた新世代に伝えたかった。

2012-11-22 15:43:37
笠井潔 @kiyoshikasai

闘争を持続するために選んだ場所が違うので、社会的闘争のことはよくわからない。〈反差別〉大連合にすりよることなく、初志を持続した人もなかにはいるはずだ。しかし文化的闘争の場面を見ると、なんというか屍者累々である。本人はまだ生きているつもりのようだから、ゾンビの山とでもいうべきか。

2012-11-22 15:49:44
笠井潔 @kiyoshikasai

無内容な革命観念に固執するだけのミイラ化した党派活動家は別として、68年の大衆蜂起の精神をいまも持続している同世代の表現者などほとんど見かけない。SFの山田正紀、アニメの押井守くらいではないか。ビートルズまで含んだ文化的闘争の継承という点で、探偵小説の島田荘司を加えてもいいが。

2012-11-22 15:55:30
笠井潔 @kiyoshikasai

文学批評や社会思想となると、ほとんど全滅で、自覚的無自覚的な転向の山である。転向してもかまわないが、だったら68年の自分は間違っていたと公に自己批判すべきだろう。いいかげんな書き手が多すぎる。

2012-11-22 15:59:33
笠井潔 @kiyoshikasai

こういう連中ばかりだから、小熊のような一面的な68年総括が市民権を得てしまうのだと、笠井はいささか怒っているのである。このようなことを、序文では書いた。

2012-11-22 16:15:26
笠井潔 @kiyoshikasai

新版『テロルの現象学』の宣伝をするつもりで、これでは同世代の読者を減らしてしまいそうな気がする(笑)。この話題はそろそろやめにしよう。

2012-11-22 16:17:52
笠井潔 @kiyoshikasai

とか書いていたら、「脱原発を目指す政治家は協力してください。日本の未来である子供たちを守ってください」とかいう坂本龍一のメッセージがリツイートされていた。せっかく矛を収めようと思っていたのに、挑発されては黙っているわけにはいかない。

2012-11-22 16:28:40
笠井潔 @kiyoshikasai

1970年ころ、どうせおれたちジェルジンスキーみたいになるんだろうなとか、高校生活動家どうしで暗い、しかし切迫し、しかもどこかしら高揚しながら語りあっていた龍一が、いまでは「日本の未来である子供たちを守ってください」である。

2012-11-22 16:32:06
笠井潔 @kiyoshikasai

坂本龍一の口からでなくドストエフスキイの主人公の口から出たなら、この言葉には重みがある。放射能汚染に怯えながら福島で子供を育てている親の場合でも。しかし、表現者が肯定的なヒューマニズムの言葉を安易に語ることはできない。ニヒリズムの時代を通過した以上、それは禁じ手である。

2012-11-22 16:36:31
笠井潔 @kiyoshikasai

「神が存在しないならすべては許される」とうそぶいて質屋の老婆を斧で撲殺したラスコーリニコフなら、同じ理由で原爆を投下し原発を爆発させるだろう。残念ながらわれわれ人類は、いまだニヒリズムの時代を超えていない。

2012-11-22 16:41:38
笠井潔 @kiyoshikasai

ラスコーリニコフのニヒリズムに匹敵する重量で語られるのでなければ、ヒューマニズムの言葉は無力だ。たんなる無力性を超えて、ニヒリズムであることさえ忘れた権力のニヒリズムの補完物にさえなりかねない。ガザ地区を空爆しているイスラエル政府や軍のようなニヒリズムである。

2012-11-22 16:44:03
笠井潔 @kiyoshikasai

少なくとも20世紀では、このようなことは思想的常識だった。「解放」のために「虐殺」を進んで引き受けたKGB創設者のジェルジンスキーに自身を擬した40年前の坂本龍一も、この常識は共有していたはずだ。それがいまでは「日本の未来である子供たちを守ってください」である。

2012-11-22 16:47:55
笠井潔 @kiyoshikasai

「情況」特別号に寄せた論考で長崎浩は、「政治の言葉」が消えて久しいと嘆いていた。これに「思想の言葉」を加えるべきだろう。繰り返すが脱原発デモに参加する被災者や市民が「子供を守れ」と叫ぶのは正当である。しかし「思想の言葉」は、それとは違う次元にある。

2012-11-22 16:53:01