フー・キルド・ニンジャスレイヤー? #3
「スマッシュ!ハント、ブツン」……テレビモニタ映像が一瞬のノイズと共に消えた。フジキドはリモコンに手を伸ばした。反応が無い。彼は立ち上がり、ボンボリライトのスイッチを操作してみた。点灯しない。彼は冷蔵庫を開けた。真っ暗だ。1
2012-12-08 23:00:57ブラインドの外は真昼。薄暗い室内であるが、彼のニンジャ視力には十分な光量だ。配電盤のカバーを外した。「……」焼き切れている。彼はソファーに座り直した。そして目を閉じた。 2
2012-12-08 23:02:54……だが彼は目を開いた。コートを着、ハンチング帽を被り、扉を押し開けた。彼は目を細めた。曇天ではあるが、外の、真昼の明かりだ。カギをかけ、ポストの裏に差し込んで、彼はアパートの階段を降りて行った。 3
2012-12-08 23:08:01……「サーチ力。サーチ力を鍛え、あなたの作業効率が十倍になります」「ハッピー!ハッピー!困る!」「ヤルネー」……街路は常に広告音声で満たされる。さながら周波数域に余すところなく広告枠が設定されているがごとく。冷たい風が吹きつける。フジキドは帽子を目深に被り、横道に入る。 4
2012-12-08 23:13:50「チン!チン!チンチンチンチンチン!」「カッポッ!カッポッ!カッポッ!」歯をむきだしたブリキのシンバルモンキー人形とウサギのマーチング人形が、棚の中で激しく旋回している。屋台めいた電子部品ショップの一角、頭に複数のサイバネソケット処理をした老人がフジキドを睨んだ。「買うの?」 5
2012-12-08 23:20:11「ハイ」フジキドは細かく仕切られた陳列テーブルを指差した。老人はそのヒューズを手にした。「規格これでいいの」「……一通りください」「一通りってねえ」「一通り」「困りますよ」「いや、いいんです」「勘弁してくださいよ」「さあ」フジキドは素子を出した。「わかりましたよ」と老人。 6
2012-12-08 23:24:28「ザッケンナコラー!」「アイエエエエ!」路地の奥から悲鳴が聞こえてきた。「……」フジキドは帽子を直した。老人はしかめ面をした。「嫌ンなっちまうなァ」紙袋にヒューズを詰め、フジキドに手渡した。「スッゾオラー!」「アイエエエ!ヤメテ!」「スッゾー!」「アイエエエエ!アバーッ!」 7
2012-12-08 23:51:02「チン!チンチンチンチンチン!」「カッポッ!カッポッ!カッポッ!」「ピッピッピッピッピッピッ!」ケースの中ではブリキ人形がけたたましく騒ぎ続けている。「アバーッ!アバーッ!」路地の奥から聴こえる悲鳴はそれを割ってこちらまで届いて来る。「死んじまうんじゃないかァ」と老人。 8
2012-12-08 23:53:12「……そうですね」「ハイ、ドーモ」「ドーモ」老人は興味も失せ、背中を向けてアンティークな小型テレビを再び眺め始めた。フジキドはその場を離れた。 9
2012-12-08 23:59:15「アバーッ!アバーッ!」「スッゾー!騒げばいいってもんじゃねえぞ?ア?」「アバーッ!アバーッ!」エクストリームチョンマゲ・パンクスが痙攣しながらのたうち回る様は、壊れた玩具もかくやという惨さだ。ダストボックスの横に並んで正座させられ、それを痛々しく眺める二人もパンクス! 10
2012-12-09 00:01:16「これが教育だ!ワカル?」両手にナックルダスターを装備したスモトリ崩れの男は意気消沈した二人の顔を覗き込んだ。「……ワカル?」「アッハイ」「ハイ」「アバーッ!アバーッ!」Eチョンマゲ・パンクスは声をからして叫んでいる。「あの……死んじゃうんじゃ」とクロスモヒカンパンクス。11
2012-12-09 00:05:00「スッゾオラー!」「グワーッ!」クロスモヒカンパンクスが顔面をいきなり殴られた。歯が数本吹き飛び、クロスモヒカンパンクスは地面を舐めた。「アバーッ!」「これが教育!ワカル?」スモトリ崩れの男は繰り返した。「若者はね?軟弱な格好しちゃダメなの。ワカル?あとカネだ。授業料を出せ」12
2012-12-09 00:11:52「スッゾー!」スモトリ崩れはクロスモヒカンパンクスを蹴った。「アバーッ!」「アバーッ!アバーッ!」今や地面には二人のパンクス、悲鳴を上げてのたうち回る!なんたる理不尽暴力行使の現場か!「あ、あ」コーンパンクスが泣き顔になった。「アワアーッ!」跳ね起きるように立ち、飛びかかる!13
2012-12-09 00:17:26ナムサン、悲壮かつ無謀な突撃に対し、おそらく三倍以上の総体積を持つであろうスモトリ崩れがナックルダスターの拳を振り上げた。「スッゾオラー!……ア?」拳が振り下ろされる事は無い!「ア?」「アーッ!」そこへコーンパンクス!スモトリ崩れの肥満した顎にパンチが命中!「グワーッ!」14
2012-12-09 00:23:01顎を殴られたスモトリ崩れは脳震盪を起こし、ぐるりと白目を剥いた。コーンパンクスは意外そうに己の拳を、そして相手を見た。「ナンデ?」攻撃の成功が自分でも信じられないという様子だ。15
2012-12-09 00:33:00スモトリ崩れは泡を噴き、膝から崩れた。後ろに立つ者があきらかになった。「ア……」コーンパンクスはスモトリ崩れが拳を振り下ろせなかった理由を知った。後ろに立つ者……つまりフジキドが、スモトリ崩れが振り上げた腕を後ろから掴んで止めていたのだ。「……」フジキドは怪訝な顔をしていた。16
2012-12-09 00:35:01フジキドが手を離すと、スモトリ崩れは倒れ伏した。「ドーモ」コーンパンクスは手を合わせ、数度、頭を下げた。「ホントドーモ」「ああ、いや」フジキドは生返事をした「友達は?大丈夫ですか」「アッハイ。オイ、平気?」「アバーッ!?……アーいてえ!」クロスモヒカンが素早く起き上がった。17
2012-12-09 00:43:45「アバーッ……え?マジかよ!」生と死の境をさまよっていたかとおぼしきEチョンマゲすらも起き上がった。「スッゲエな!ノシちまったの?」「いや、助けてもらったんだよ!この人!」コーンパンクスが指差した。「アリガトゴザイマス!」「マジかよ!」「スッゲエな!いてえ!」 18
2012-12-09 00:56:24「この辺でパンクスやるの、命がけなンすよ!」コーンパンクスが言った。「髪を立ててるだけで、ああいう連中にイチャモンつけられるンすよ!」「説教と暴力ッスよ!」「ヤバかったな、え?サイコ説教強盗野郎だったぜ。痛がれば許してもらえるかと思ったけど、ミスったな。殺されるとこだった」19
2012-12-09 01:11:14「ヤバかったよな!」「な!」パンクスは口々に言い合った。そしてフジキドに再び礼を言った。「アリガトゴザイマス!」フジキドはこらえきれず、笑った。パンクス達も目を見交わし笑った。「オッサンも逃げた方がいいッスよ!仲間が来るよ、コイツのさ!」コーンパンクスがスモトリ崩れを蹴った。20
2012-12-09 01:16:29「コイツは授業料だぜ!」クロスモヒカンがスモトリ崩れのポケットをさぐり、財布を盗み取った。別の路地から複数の足音が近づいて来る。「ヤバイ!」「オッサン!早く!」Eチョンマゲがフジキドに促した。三人はビルの間を通り抜け、坂を駆け下りた。フジキドも後に続いた。 21
2012-12-09 01:20:56「チェラッコラー!?」「タカイヤマ=サン?ダメだ気絶してるぞ畜生!」「あっちだ!逃げた!」野太い怒声が追って来る!「ヤバイぜ!」「ヤバイ!」パンクスは口々に言い合い、ドタドタと走る。フジキドも続いた。なりゆきだ。角を曲がり、また曲がる。やがて路地が開けた。 22
2012-12-09 01:23:42目の前を、悪臭放つ水路が横切っている。水路の向こうには、また同様の雑居ビル群。「オイオイオイ、オイオイオイ」コーンパンクスが元来た路地と水路を交互に見た。「橋あるぜ!橋」Eチョンマゲが指差した。確かにそこには、幅1メートルほどの覚束ない橋が、二つ並んでかかっている。23
2012-12-09 01:30:09奇妙な双子の橋の脇には錆びた看板が立ち、「この橋わたるべからず」「底が抜ける。最悪死ぬ」と書かれている。「ウェー?」クロスモヒカンが、ピアスまみれの舌を出した。「渡れねえ橋なんか、かけんなよ!」「ヤバイぜ!早くしねえとよ!」コーンパンクスが不安げに元来た路地を見た。 24
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