レプリカ・ミッシング・リンク #8
古来より日本人は、マグロに対して特別な感情を抱いている。その稀少なトロ部位に、ニューロンを活性化させる特殊な……化学合成不能な……オーガニック成分が実際豊富に含まれていることと、恐らくは無関係ではないだろう。 1
2012-12-16 22:07:47サイオー・ホースと呼ぶべきか、あるいはインガオホーと呼ぶべきか……マグロから切り出された大トロが、モーターユンコのバイオニューロンチップを癒した。そして、眠りかけていた彼女の自我は再びボディの制御権を取り戻したのだ。彼女は立ち上がり、血塗れの手とマグロを見て、それを理解した。 2
2012-12-16 22:13:53さほど時間は経っていないが、知性マグロは既に、物言わぬ死体へと変わっていた。「ブッダ……ファック……死んじゃったの?」だが人間という存在の意味を問い直すためのモラトリアム時間は彼女にはない。あちこちのUNIX画面から火花!天井が揺れる!上の戦闘がさらに激しさを増しているのだ! 3
2012-12-16 22:22:25火花を散らすUNIX画面の中に、スシ・バーの暗視映像が次々映し出される!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」アマクダリ・ニンジャの連携攻撃に苦戦を強いられるニンジャスレイヤー!「ザッケンナコラー!」「ピガガガガーッ!」囲んで警棒で叩かれるオイランドロイド! 4
2012-12-16 22:27:57スパーク!怒り!激しい怒り!ユンコは胸の奥でモーター回転を感じた!だが……ブガー!ブガー!ブガー!ブガー!地下秘密ラボ内で非常ボンボリも回転し始める!「心停止完全確認重点な……自爆装置が作動いたしましたドスエ……30分以内の脱出が推奨されております」合成マイコ音声が響き渡る! 6
2012-12-16 22:40:54右腕の重機めいたパワーアームが圧縮空気を吐き出しながらピストン駆動し、唸りをあげる。ユンコは上階へと続くエレベーター・チャブと、火花を散らし始めたUNIXデッキと、物言わぬ知性マグロを交互に見た。LANケーブル頭をかきむしり、Fワードをいくつも吐き、半ばパニック状態で考えた。 7
2012-12-16 22:45:22「ここに来たのは……私が何者か……ファック!それはもういいんだ!今は…」ユンコは苛立たしげに足踏みした。「考えろ……!考えろ……!時間がない!あっちも!こっちも!」そして止まる。「……スズキ・マトリックス理論!」手近なUNIXデッキへまっしぐらに駆け、危険なLAN直結を行う! 8
2012-12-16 22:52:45ユンコはUNIXデッキの前で落ちつかないウサギのように片足を踏み鳴らす。モニタから火花が散り、ユンコは顔を大げさにしかめた。混乱ゆえ論理タイピングも覚束ない。戦闘が彼女を呼んでいる。焦燥感が募る。「ファック!あのマグロに!論文データの場所をインタビューするつもりだったのに!」 9
2012-12-16 22:59:13データの迷宮の中でユンコは、思いつく限りのUNIXコマンドを駆使した。だが現れるのは「DELETEDなファイル」の警句のみ。「ブッダ!どうしろっての!?」彼女はただのサイバーゴスであり、大学でもエンジニアリングの授業は休みがちで、ましてやスゴイ級ハッカーですらないのだ。 10
2012-12-16 23:08:03大トロ成分によってニューロンが加速する。だが技術も知識も追いつかない。目の前に立ち塞がる巨大なデータとネットワークの前に、無力感を味わう。衝動と焦燥感だけが歯がゆく空回りし、ユンコの思考に敗北感が垂れこめ始めた。 11
2012-12-16 23:26:27一方でボディは戦闘を求めていた。ニンジャを前にして、手も足も出なかったというのに。モーター回路は性懲りもなく、猛犬のように彼女のニューロンを引っぱり、上階の戦闘へ向かわせようとする。バチバチバチ……UNIXモニタが火花を散らして故障し、彼女の顔を黒いガラス面に鏡映しにした。 12
2012-12-16 23:31:51死の戦闘を覚悟したユンコは、自分の顔を見た。大好きな自分。父さんが遺してくれた体。眉もサイバネアイも髪も実際カワイイな。あの口下手で不器用な技術者。「父さん、ごめんね。サヨナラ」ユンコは暗いモニタの中の自分にキスをした。胸の素子ロケットがモニタにぶつかり乾いた金属音を立てた。13
2012-12-16 23:41:26廃墟スシ・バーではなおも死闘が続く!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはシャドウドラゴンの放つクナイ・ダートを連続側転で回避しながら、クローンヤクザ3人をスリケンで殺害!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」 15
2012-12-16 23:54:48スシ・カウンターの上に着地!だがそこを狙ってパンデモニウムとキングピンが左右から挟撃カラテキックを仕掛けてくる!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは中腰姿勢を取ってカラテを高め、左右に勢いよく腕を開いて2人の攻撃を同時を弾き飛ばす!「イヤーッ!」ワザマエ! 16
2012-12-16 23:58:55「イヤーッ!」反撃に転じるニンジャスレイヤー!だがマシンガンに抉られたふくらはぎの筋肉が、激痛とわずか数ミリの姿勢の乱れをもたらす!「イヤーッ!」これを捌きカラテを返すパンデモニウム!さらに背後からシズケサが音もなく出現し、ふくらはぎの負傷箇所へと卑劣な水面蹴りを見舞う! 17
2012-12-17 00:06:00「グワーッ!」連携攻撃を受けてよろめくニンジャスレイヤー!やはりシズケサの隠密能力を打破せぬ限り勝機無しか!機動戦法に活路を見出そうとしたが、このようにカラテ挟撃を受ければ、短時間とはいえ踏み止まって戦闘せざるを得なくなる。戦況はまさに、ジリー・プアー(訳注:徐々に不利)。 18
2012-12-17 00:18:21「ヌウーッ!」彼はなお闘志を翳らせる事なく、ジュー・ジツを構え直す。だが次の瞬間には、竜人めいた異形のニンジャ、シャドウゴラゴンがその大顎を開きながら眼前に迫っていた!「GRRRRR!」「グワーッ!」ダガーめいた牙で脇腹を噛まれ、高々とリフトアップされるニンジャスレイヤー! 19
2012-12-17 00:25:19バオオオオオオオン!暗く狭いイタマエ・エリアで転倒したアイアンオトメは、口惜しそうにエンジン音を轟かせている。転倒状態から車体を起こすためのエマージェンシー装置が無惨にも破壊されているのだ。「ピガガガガーッ!」オイランドロイドもついに頭部を弾き飛ばされて機能停止に陥った。 20
2012-12-17 00:33:15「ネオサイタマの死神もついに死ぬか。クローンヤクザどもを下階へ送り込めい!」パンデモニウムは陰気なフードの下で口角を歪めた「アマクダリの統率力の前に敵はないのだ。我々は容赦も慢心も知らぬ。マストドンを狩るかの如く、貴様をじわじわと疲弊させ、確実な死へと至らしめる……!」 21
2012-12-17 00:39:25「グワーッ!」苦痛にうめくニンジャスレイヤー!アマクダリ地下秘密基地へと送信されるそのブザマな姿を見ながら、ラオモト・チバは笑った!手に汗握り、UNIXモニタを食い入るように見つめる!「ムハハハハハ!殺せ!殺せ!ニンジャスレイヤーを殺すのだ!ラオモト・カンの仇を……討て!」 22
2012-12-17 00:50:59「ヨロコンデー……!」パンデモニウムは再び口を歪めた。総帥への成果アッピールは十分だ。ゆっくりと首をかっ切るようなサインをシャドウドラゴンに対して送る。「GRRRRRR!」「グワーッ!」「GRRRRRR!」「グワーッ!」壁に連続で叩き付けられるニンジャスレイヤー!ナムサン! 23
2012-12-17 00:58:35KBAM!KBAM!不意に、爆発音と破壊音が階段方面から響く。「グワーッ!」「アバーッ!」「グワーッ!」「アバーッ!」クローンヤクザマッポ軍団の断末魔の悲鳴が順番に上がる!「グワーッ!」「アバーッ!」「グワーッ!」「アバーッ!」果たして何が近づいて来ているというのか!? 24
2012-12-17 01:07:02パンデモニウムは階段に向かって不愉快そうに顎をしゃくった「キングピン=サン」「ハイヨロコンデー!」汚職マッポニンジャは尻に火がついたように走り出す。「GRRRRRR!」「グワーッ!」「GRRRRRR!」「グワーッ!」その間も壁に連続で叩き付けられるニンジャスレイヤー! 25
2012-12-17 01:13:26