柴田よしきさんの装丁のお話

作家・柴田よしきさんご本人による「聖なる黒夜」の装丁に関するお話です(^^
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柴田よしき @shibatay

(1)リクエストがあったので装幀の話。これまでオリジナルと文庫合わせて百数十冊の本を出してますが、装幀でぎりぎりの綱渡りをしたのが『聖なる黒夜』の単行本でした。その思い出話。初めに担当さんと話し合った時に、練のイメージを活かしてイラストを頼みます、ということだったので(続く

2012-12-20 00:49:32
柴田よしき @shibatay

(2)担当さんがとても優秀でベテランでもあったので、ほぼお任せで、ラフがあがったらそれをたたき台にしましょう、ということにしたのですが、できあがって来たラフが、それ自体イラストとしてはとても良いものだったけれど、どれもわたしが目指した方向とは違っていたんです(続く

2012-12-20 00:50:53
柴田よしき @shibatay

(3)イラストレーターさんはちゃんと本を読んでイメージしてくださったのですが、そのイメージがどうも少し作品の芯の部分とずれている気がして。なぜか練のイメージを妖艶なものと感じられたらしく、紫色の派手な蝶がメインもチーフだったんです。でも担当さんのイメージには近かったようで(続く

2012-12-20 00:53:44
柴田よしき @shibatay

(4)その後訂正をお願いしてあがって来たものも、基本的にそちらのイメージでした。またデザインをお願いしたところはとても有名な事務所で、装幀の傑作をたくさん出しているところだったのですが、わたしの別の作品では素晴らしい装幀デザインをしていただいたこともありましたが(続く

2012-12-20 00:55:12
柴田よしき @shibatay

(5)その時のデザインは、やはりわたしの作品に対する想いと離れたもので、でも派手で印象的で「売れそう」なものだったんですね。要するに、良い出来の装幀デザイン・イラストだったと思います。もしかするとそっちで出していたらもっと売れていたかもしれない(^^; で、当時のわたしは(続く

2012-12-20 00:56:57
柴田よしき @shibatay

(6)まだ今ほど、装幀に対する感覚が鍛えられていなかったこともあって、自分の感じている違和感が正しいのかどうなのか判断できず、流されるようにそのまま進めてしまいました。これは猛省点。でも作品が長大だったこともあって直しにつぐ直し、著者校だけで4回という長丁場で(続く

2012-12-20 00:58:41
柴田よしき @shibatay

(7)作品と格闘している間も、どうしてもその違和感が消えず、とうとう担当さんに「やはり違うような気がします」と訴えたのが、なんと刊行までの装幀デッドラインを超えた時期。普通なら「今からでは無理」と片付けられてしまうところ、担当さんはわたしの考えを理解してくださり(続く

2012-12-20 01:00:14
柴田よしき @shibatay

(8)すでに装幀としては仕事が完了している作品を使わず、デザイン事務所にはちゃんとお金はお支払いした上で別のものに差し替える決心をしてくれたんです。でも時間があまりにもない。で、社内装幀室に頼むことになり、当時角川の社員で装幀室にいた方が引き受けてくれたのですが(続き

2012-12-20 01:02:06
柴田よしき @shibatay

(9)その方が天才でした。作品を読み込む時間などなかったと思うのですが、一読で作品の芯をつかみとり、小田急線の参宮橋までわざわざ夜中に出かけて、自分で写真を撮り、それを加工し、自分で文字打ちもして突貫で仕上げてくださったのがあの単行本の装幀です。文庫もあれを下敷きにしています(続

2012-12-20 01:04:00
柴田よしき @shibatay

(10)結局装幀が出来上がったのは、もう一日も遅れたら本が出ないかも、というまさにぎりぎり、綱渡りでした。でもわたしは、あの装幀が、全作品の中でもっとも気に入っています。あれ以上的確に作品の芯を表現したものはなかったと思っています。それ以来わたしは、自分の勘を信じることに(続

2012-12-20 01:05:40
柴田よしき @shibatay

(11)しています。どんなにワガママに思えることであっても、本を作るという作業においては、言いたいことはいい、流されないでいたい。でも実際には、あの時のように担当さんその他に恵まれるということはそんなにないかもしれない。あの時、余計な費用がかかることも承知で装幀の差し替え(続く

2012-12-20 01:08:19
柴田よしき @shibatay

(12)を決行してくださった、角川書店の立木さんには、今でもとても感謝しています。結果的には「聖なる黒夜」は大ヒットしたわけでもなく賞なんかにもまるっきりおよびはかかりませんでしたが、文庫になったのちも今でも重版し続け、たくさんの方々に読んでいただけました。そんな装幀物語です。

2012-12-20 01:10:13
柴田よしき @shibatay

夜中に連続ツィート失礼いたしました。でもせっかくTwitterで生の作家が無料の文章を書いているわけですから(笑)、たまには生の本作りの現場話もいいよね(^^) リクエストにおこたえしてやってみました。

2012-12-20 01:14:42