バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #1

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイオイオイオイ」両の二の腕に錨のタトゥーを入れた髭面の巨漢が進み出、血みどろのナックルダスターをパフォーマンシブに舐めながら、目の前に立つ片腕の男と、彼自身のクライアントとを交互に見やった。「オイオイオイオイオイオイオイオイ?」 1

2012-12-25 17:12:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイオイオイオイオイオイ、オイオイオイオイ、俺様と?この……ぷッ!このボンズを?オイオイオイオイ……殺しちまっても俺様が面倒被るのはゴメンだぜ?」ぶつかり合う両拳のナックルダスター。だがクライアントの老人はニコリともせず、アウトローじみた睨みを巨漢と片腕のボンズに向けている。2

2012-12-25 17:17:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やって見せンかい」オヤブンじみた老人はドスの利いた声で命じた。巨漢に比べれば半分の背丈も無さそうな小柄な老人であるが、アトモスフィアは老いてなお残忍な獅子のごとし。「身の程知らずなら身の程知らずで、わからせたらんかい」「ヘッ!」巨漢が笑った。「お望みとありゃ、ヨロコンデー!」3

2012-12-25 17:22:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ミャオーウー!ミャオー!」海上を旋回するウミネコは死神の遣いじみた不気味な鳴き声を降らせ、老人の脇に並ぶ護衛の者達は一斉に懐へ手を差し入れた。戦いの中で不測の事態が起これば即座にチャカを抜き撃ちしてこの老人を守るためだ。巨漢はドスドスと地面を踏みしめ、片腕のボンズに接近する。4

2012-12-25 17:27:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((顔面にテンラピッドヒットしてやるぜ!)))巨漢は酷薄な笑みを浮かべた。一方、ボンズは腰を落とし、静かにカラテを構えた。肩から下の無い左腕の袖はダラリと垂れ、右腕を前に。巨漢を見据える瞳には一点の曇りも無し。口の横から右耳にかけて、引き裂かれ塞がったような痛々しい傷痕あり。5

2012-12-25 17:36:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

傷痕は大きかったが、不思議と、このボンズの容姿の本質的美しさを損ねてはいなかった。巨漢はその不思議さをも不愉快に思った。「そのお澄まし顔をとことん叩き潰してオタッシャ重点!イヤーッ!」殴りかかる!「セイヤッサーボンジャン!」ボンズが叫び、一瞬で間合いを詰める!「イヤーッ!」 6

2012-12-25 17:42:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「え」巨漢は影のように懐へ滑り込んだ片腕ボンズを目で追おうとした。そうだった。ボンズといえどもこの相手はニンジャ。自分と同じニンジャだった。見た目に騙された。ウカツ過ぎた。ニンジャなのに。反省しよう。天空にキリモミ回転で跳ね上げられながら、巨漢は後悔した。「……グワーッ!」 7

2012-12-25 17:45:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

吹き飛ばされた巨漢ニンジャ……その名をシーホーク……は隣接する港湾倉庫の屋根に頭から落下し、突き破って、港の彼らの視界からは見えなくなった。ボンズは老人に向き直り、ボンジャン・オジギをした。老人が凄惨な笑みで応えた。「よォし……契約成立だ。アコライト=サン」 8

2012-12-25 17:51:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト」#1 ( 9

2012-12-25 17:56:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……キョート!ハンセイボウ・マウンテン! 10

2012-12-25 17:58:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドゥーン、ドゥクトゥーン……フップドゥーン……」切り立った岩壁に電子ドラム音が反響する。音は次第に大きくなる。やがて黒人ボンズが姿を現した。電子ドラム音ではなく、彼の鼻歌めいたボイスパーカッションであった。「ドゥクドゥーン……」その目は緊張に血走り、見開かれている。 11

2012-12-25 18:02:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ホウ……ボーシッ……トーリーボーシ……」黒人ボンズは岩壁に背中をつけ、片手で椀を持ちながら、もう一方の手で額の汗を拭った。気温のせいでは無い。恐怖からくる緊張だ。彼は頭上、小さく切り取られた空を見上げる。彼がいるのは、岩壁の裂け目めいたごくごく狭い天然の通路だ。 12

2012-12-25 18:06:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ホウ……」椀のオーガニック粥を見下ろした。まだ暖かい。彼は再びボイスパーカッションを開始した。「ドゥクドゥーン!ドゥクトゥクトゥパーン!」ガチャリ。鎖が鳴った。「アイエッ!」彼は失禁を堪えた。彼は耳を澄ませた。(ゥ……ゥッ……ウッ……)……聴こえてくるのは嗚咽だった。 13

2012-12-25 18:12:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」岩壁に背中を擦りながら、ボンズは嗚咽の方向に進んだ。「ゥ……ウッ……ウッ」細い道が開けた。やや余裕のある断崖空間……壁には「反省房」のカンジ。「ウッ……う……」「……」ボンズは息を殺した。(ブッダ)彼は祈った。そして、そこに鎖で繋がれた者を見た。アグラし、俯く男を。14

2012-12-25 18:17:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「飯……飯だぜ」ボンズはカラカラの声を押し出した。「ドーモ、デスドレイン=サン……」「……」嗚咽が止まった。繋がれた男が顔を上げ、見返した。「……スミス=サン……」その者は震え声で呟き、鼻を啜った。「……アリガト……」 15

2012-12-25 18:21:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハーッ……ハーッ」粥を差し出すスミスの瞳孔は、極限の緊張に収縮しきっている。震える手が伸び、椀を掴んだ。それからスミスはスプーンを差し出した。デスドレインは受け取り、食べ始めた。「泣い……」スミスは彼を見た。「泣いてたか?」「ウッ……ウフッ」デスドレインは泣きながら食べる。16

2012-12-25 18:25:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スミスは全身に鳥肌を立たせ、思わず身を引いた。(((慣れねえ)))彼は額の汗をまた拭った。(((慣れられるワケがねえ)))「フーッ」デスドレインは椀を置いた。まだ震えていた。短く刈ったボンズヘアー、顔には縦横の黒い亀裂めいた傷痕、凶悪そのもの……「アリガト」彼は繰り返した。17

2012-12-25 18:29:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何で泣いてた?」「スミス=サン……俺よォ」デスドレインが鼻を啜り上げた。「つれェんだよ……今まで殺してきた……奴らの事……」「……!」スミスは口を半開きにして、見守った。デスドレインは続けた。「声が、毎晩毎晩……聴こえてた、あの頃……ウッ……辛くて……罪の重さをよォ……」18

2012-12-25 18:39:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「俺はよォ……好き放題やってきたぜ……好き放題……大好きだったんだ……そういうのが……ヤッちまうのが……殺すのが……息の根を止めるのが……バラすのが……」「……!」「それが今になってよォ……」憔悴しきった目がスミスを見た。深い哀しみと苦悩が瞳の奥に刻まれていた。 19

2012-12-25 18:46:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブチのめされて……鎖に繋がれた……なァ、あれからどれだけ経った?」「……」「段々、声が……遠くなッていってよォ……聴こえなくなって……俺、俺、は、俺のやった事を……やった事を……」その目に涙が溜まり、流れ出した。墨汁めいた涙が。「俺はバケモノだ……俺は……何であンな……」20

2012-12-25 18:50:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワッ……ザファッ……?」スミスはこの男の心を推し量ろうとした。初めてだった。この男の、こんな言葉は。この男が繋がれ、それ以来、こんな言葉が出た事は無かった。「お前……」「グスッ」デスドレインは腕で涙を拭った。「アコライト=サンは?」「あ、ああ、ちと留守にしてるぜ」「そうか」21

2012-12-25 18:56:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「離れてくれ、もうちょッと」デスドレインが言った。「俺、自分で自分が……抑えられねえ時がまだある……こうしていてもよォ……アイツにも悪い事したよ……悪い事を……こんな俺のせいで」デスドレインが震えた。「オ、オウ……俺だってそりゃア」スミスは後ずさった。「ホウ……ボーシッ……」22

2012-12-25 19:00:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……いや!足りない!スミスは後ずさるばかりか、後ろへ転がった。ドプッ!一瞬後、デスドレインの影が鎌首をもたげ、スミスがいた空間に襲いかかった!「アイエエエ!」「ヘヘヘヘハハハハハ!惜しい!おッしいなァー!ハハハハハ!」岩壁に響き渡る凶笑!「ハハハハハハーッ!」「アイエエエ!」23

2012-12-25 19:04:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デスドレインは起き上がった。ガシャアン!鎖が音を立てた。「ッたくよォー!」坊主頭をボリボリと掻きむしった。黒い血が噴き出し、地面に散った。「しょうもねェ鎖だなァー?」「アイエエエエ!」スミスは尻餅をついたまま後ずさった。彼は失禁していた。腰が抜け、立ち上がれない! 24

2012-12-25 19:10:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「BAAAA!」デスドレインは長い舌をベロベロと振った。「きったねェーな!そのションベンの横で寝るんだぜ?俺はァー!どうにかしろよ!」「アイエエエエ!」スミスの頭上を、デスドレインの投げつけた椀が舞った。「ごちそうさン!」「アイエエエエ!」「ッたく学ばねえな!ヘヘヘヘ!」 25

2012-12-25 19:13:49