アイドルたちのWORLD WAR Z(天海春香編)

アイドルマスター+「WORLD WAR Z」の合体事故その3。
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現場猫教授 @Dr_crowfake

(天海春香は日本国籍の歌手である。早期に崩壊した日本において、混乱状態をくぐり抜けながら、各地で歌声を響かせ、人々に希望をもたらした。アメリカにおいて資源戦略省がプロデュースした如月千早と対照的でありながら、同じような役割を果たした。人は彼女をこう呼ぶ。「アイドルマスター」と)

2012-12-27 02:14:01
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ええっと、ゾンビ大戦時代の活動ですか? あの頃は大変でした。プロデューサーさんは千早さんたちと一緒にアメリカ巡業に行ってて、あたしはお留守番。日本でやる活動もあったんですが、それほど忙しくはなかったですね。でも「アフリカ狂犬病」が流行り始めてから、765プロも大変だったんです」

2012-12-27 02:15:49
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ある日社長が、血相を変えて飛び込んできたんです。「お前たち。ここはもう危ない。避難するぞ」って。正直、意味がわかりませんでした。あの当時、アフリカ狂犬病は日本じゃ大して流行ってなくて、ゾンビになった人も少なかったですから、事態を把握できてなかっんですね」

2012-12-27 02:17:21
現場猫教授 @Dr_crowfake

「でも社長は、多分警察関係の知り合いからだと思うんですけど、ゾンビ災害の実態をかなり詳しく掴んでいたらしいんです。だから、そんな風に危機を早く察知できたんだと思います。社長はいいました。「もうアイドルなんてやってる場合じゃない。自分の命を守らにゃならん」」

2012-12-27 02:19:04
現場猫教授 @Dr_crowfake

「私は抗議しました。「プロデューサーさんも千早さんも雪歩さんも、まだアメリカにいるんですよ? みんなを見捨てるんですか?」社長は私を怒鳴りつけました。「向こうにはプロデューサーがいる。あいつらは自分で面倒を見れるだろう。それより自分の身を考えろ」って」

2012-12-27 02:21:02
現場猫教授 @Dr_crowfake

「私は「そんなの無責任です」って抗議しました。だけど社長は構わず「いいからよく訊け。この国はもうすぐ無政府状態になる。アイドルなんて稼業はおしまいだ。俺達は自分が生き残る道を自分で探さなきゃならん。ティンときたんだ」」

2012-12-27 02:22:30
現場猫教授 @Dr_crowfake

「私はそれで事態の幾ばくかを理解しました。社長が「ティンときた」時は、大体すごく重要なことを思いついた時なんです。そしてそれを理解すると、私は怖くなって動けなくなりました。ああ、この日常はもうおしまいなんだ、千早ちゃんや雪歩ちゃんとももう逢えないんだって」

2012-12-27 02:24:14
現場猫教授 @Dr_crowfake

「私たちは社長に引きずられるようにして、社用のバンに乗り込み、ありったけの食料と必要なサバイバル物資と一緒に、北に向かいました。「北ならゾンビは行動が鈍る」それが社長の口癖でした。「北で一冬越せば、なんとかなる」わたしは社長が狂ったかと思ってましたが、正しいのは社長でした」

2012-12-27 02:27:11
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あの冬のことは……思い出したくもありません。たくさんの避難民が、北海道に集まってました。その大半は、私達みたいに十分な準備をしてなくて、飢えと寒さでバタバタと倒れて行きました。そして、生きるために互いに奪い合いました。社長もそこで……(言葉に詰まる)」

2012-12-27 02:28:53
現場猫教授 @Dr_crowfake

「話したくなければ、そこは省いて結構です」「ありがとうございます。ともあれ、私たちは一冬を越しました。北海道の冬は寒いんです。ゾンビは凍りついて動けなくなる。だけど私達も凍りついて死ぬ寸前でした。だけど、そこに温かみをもたらしてくれるものがあったんです」

2012-12-27 02:30:30
現場猫教授 @Dr_crowfake

「それはなんですか?」「ヴォイス・オブ・アメリカってあるでしょう? アメリカが世界中に広げてる宣伝ラジオ。私たちは凍えながら、せめてもの心の安らぎを求め、世界がどうなってるか知るためにそれを聞いてたんです。そして、そこで聞こえてきたのがあの歌でした」

2012-12-27 02:31:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

「歌?」「はい。歌です。千早ちゃん……如月千早は知ってますよね。千早ちゃんが、VOAで歌ってたんです。あたしたちが千早ちゃんのために作った歌。「約束」。千早ちゃんは本当に心をこめてそれを歌ってました。その気持が伝わってきたんです」

2012-12-27 02:35:17
現場猫教授 @Dr_crowfake

「千早ちゃんは一生懸命に訴えかけてました。私たちはひとりじゃない、遠く離れていても一緒なんだって。前を向いて希望に向かって歩めるんだって。思いを叶えるには前に進むしかないんだって。それを聞いた時、あたしの目から涙がこぼれました。そして、頑張らなくちゃって思えました」

2012-12-27 02:36:26
現場猫教授 @Dr_crowfake

「そして貴方は、如月千早のような支援も受けず、独力で戦場を慰問し始めた」「そうです。社長もプロデューサーさんもいなくなって、他の子たちともはぐれて、でもあたしができる一番大きなことは、多分、千早ちゃんみたいに「歌」でみんなを勇気づけることだって、そう思えたから」

2012-12-27 02:38:51
現場猫教授 @Dr_crowfake

「日本ではレデカー・プランのような統制が取れず、早期に社会秩序が崩壊していた。そんな中で、活動するのは大変でしたでしょう」「はい。歌で食べていくなんて無理でした。何度も危ない目に会いました。歌を歌っても、誰も聞いてくれなかったことなんて、いくらでもありました」

2012-12-27 02:40:44
現場猫教授 @Dr_crowfake

「それでも貴方は活動を続けた」「はい。ただ生き延び、食べるだけなら、歌う必要なんてなかった。だけど、千早ちゃんのあの歌声を聞いた時、あたしは思ったんです。あたしたちアイドルは、歌わなければいけないんだ。この残酷な世界でも、歌い続けられることを証明しなければならないんだって」

2012-12-27 02:42:19
現場猫教授 @Dr_crowfake

「そしてあなたは混乱期の日本を生き抜き、日本人に希望を与える偶像の頂点――「アイドルマスター」になった」「そう云われると、少し恥ずかしいです。ですけど、みんなが私をそう呼んでくれることは、少し嬉しいです。それはあたしが、みんなに支えられ、辿りつけられた場所だから」

2012-12-27 02:43:55
現場猫教授 @Dr_crowfake

「社長、プロデューサー、765プロのみんな、そして何よりも千早ちゃん……その助けと励ましがあったから、あたしは今こうやって、みんなに夢と希望を振りまく夢を叶えることができたんです。あたしは、その期待に応えられたかな……みんなの夢を受け継げたかな……(涙ぐむ)」

2012-12-27 02:45:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

「貴方は素晴らしい存在です。おそらく貴方に希望を託した人々は、貴方の今の境遇に満足しているでしょう」「ありがとうございます。でも、まだ頑張らなくちゃって思うんです。ゾンビ大戦は終わったけど、まだ戦いは続いてる。苦しんでる人や悲しんでる人がいっぱいいる。そこに歌声を届けたいんです」

2012-12-27 02:48:26
現場猫教授 @Dr_crowfake

「貴方たちはひとりじゃない、一緒に歩く人たちがいる。一緒に戦える仲間がいる。そして、一緒に前に進めばかならず夢は掴める。この地獄みたいな世界を抜けて、必ず幸せになれるんだって」

2012-12-27 02:49:52
現場猫教授 @Dr_crowfake

(天海春香はそう云って目尻を拭った。彼女の中には多くの感情が渦巻いているように見えた。しかし、そこには確かに「アイドルマスター」として、人々の希望を一身に背負い、それを体現する大きな器が存在しているように、私には見えた)

2012-12-27 02:51:33