エネルギーを喪った国で

夢乃 @iamdreamers

「ちっ、またか」停止した工作機を前に、零児は悪態をついた。今日、二度目の停電だ。毎日、数回は停電がある。今日は雲が出ているので、まだ一～二回は覚悟しておいたほうがいいかも知れない。そんなことを考えながら、通電後の再開に備えた準備を始めた。 #twnovel

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室内は薄暗い。もとより、照明など点けていない。窓は採光を配慮してあるが、日照の弱い曇天の日は照明が欲しくなる。しかし、こんな日には電力供給が落ちるため、欲しい日ほど使えない、というジレンマに陥っている。 #twnovel

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かつて、湯水のごとく自由に電力を使える時代があったなど、零児にはとても想像できない（もっとも、水はともかく、今では湯を沸かすことも少ないが）。祖父から聞いた話では、かつての発電事業の主力は火力と原子力で、ふんだんに電力が供給されていたという。 #twnovel

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ところが、原子力発電所で大きな事故があり、その被害から国民の間に嫌原子力ムードが広がって政府は原子力発電から手を引かざるを得ず、必然的に火力発電だけで約90%の電力を賄うようになったという。 #twnovels

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そうなると、火力燃料を海外に頼っている国家が破綻するだろうことは、零児にも容易に想像できる。実際、そうなった。大量に原油を消費する日本による原油の寡占を警戒したのかどうか、産油国は日本に対する原油価格を値上げした。 #twnovel

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徐々に日本の電力事情は悪化した。日本政府も当然これを予期してはいて、風力発電や太陽光発電を増強していたが、所詮これらは風まかせ、天候まかせの発電であり、安定した電力の供給を約束できるようなものではなかった。けれど、当時の日本はこれに頼るしかなかった。 #twnovel

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今の発電の主役は太陽光と風力だ。水力・地熱・火力がこれを補助する。けれど、原油や天然ガスは航空機や自動車などの輸送手段に優先的に回されるため、火力は電力全体の10%程度に過ぎない。水力・地熱も、以前より増強されたというが、それでもそれぞれ10%足らずの供給量だ。 #twnovel

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風の強い、晴れた日であれば困ることはないが、そのような恵まれた日は、一年を通じてもそう多くない。結果、日に数度の停電が発生する。 #twnovel

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おまけに、今では深夜0時から朝5時までの間、電力の使用が制限される。制限といっても、病院や警察、消防などでの使用が許可されているだけで、一般家庭や企業では事実上 禁止されている。 #twnovel

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太陽光発電パネルは、今ではほぼすべての家屋に設置されている。けれど、個人で「所有」しているものは一つとしてない。各戸は設置スペースを電力配分会社に貸しているだけであり、発電した電力は一旦電力配分会社から供給されている。 #twnovel

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この状況を打開するために、官民共同で核融合発電の開発は進められているものの、実用化の目処はまだ立たない。 #twnovel

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このような状況下、原子力発電を復活すべきという意見も出ている。けれど、使用済み核燃料は最終処分場の場所も決まらないまま、原子力発電所内に残っている。その上使用しないまま老朽化した発電所自体、そのまま使えるかは怪しいものだ。 #twnovel

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実のところ、このような状況下にある国は、世界で日本ぐらいしかない。欧州のある国は太陽光と風力ですべての電力を賄っている。しかし、その国土は日本の倍以上あるにも関わらず、人口は半分程度にすぎない。 #twnovel

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また別の国、いや世界のほとんどの国では原子力発電が主流になっている。それらの国々で電力が不足したという話は聞かない。先進国と呼ばれる国でこれほど電力事情の悪いくにはないだろう。 #twnovel

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・・・やることもなくなり、そんなことを考えるともなく考えていた零児の目の端に、何かが映った。機械のインジケータランプだ。電力が復帰したらしい。今日の停電はもうないことを祈りつつ、零児は残りの作業を開始した。 #twnovel