「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #2

 「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #2 「装甲機、GO!RUN!」(リファイン版) http://seimunoyakata.blog81.fc2.com/blog-entry-202.html #1 http://togetter.com/li/434003 #3 http://togetter.com/li/434907
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Astal_jukebox @astral_jukebox

―13:05。茨城県笠間市・来栖見地区、浅空家自宅。午後は部活動も無くロボットの製作も終えていたので、勇矢は12時の昼休みになると即座に帰宅した。結果的にだが同級生の追求から逃げた形になる。実際『愛川由理』の指摘は全て真実な為、『嘘がつけない』勇矢にとっては性質が悪すぎた。 1

2013-01-05 06:31:01
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先に帰宅していた小学生の妹が昼食を作ってくれていた。家族4人で昼食を取り、半頃に再度出かけた。『明日』の準備のためだ。20:08。一通り終えて帰ってくる。「ゆーや、おかえり~」脳を蕩かすような少女の声。由理の言うところの「親戚のお姉さん」染川絢女(そめかわ あやめ)である。 2

2013-01-05 06:35:41
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4年ほど前から同居している彼女は勇矢よりもやや背が高い。勇矢の時点で165cm、中一にしては高身長なので、日本人女性の平均より大分高い。腰までかかる特徴的な黒髪に、豊かな胸。春めいた色の着物を着ている。同級生男子に見られた日には、次の朝日はおろか夕日すら拝めないだろう。 3

2013-01-05 06:41:02
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「あーや…なんかめでたいことあったっけ?」食べ終えた皿を端に避けながら、素直にその疑問をぶつけた。「え、ゆーやの進学祝いと結希ちゃんの進級祝いよ?」きょとん、とした顔で絢女が答えた。「去年までこんなんじゃなかっただろ?」「『進学』祝いするのは私初めてだけど?」 8

2013-01-05 06:41:03
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「そん」…『なめでたいことでもないだろう?』という言葉を辛うじて飲み込んだ。それは失礼極まりない。「…ありがと」「へへへ~お礼は食べてからでいいよ」笑顔で言うと皿を出し盛り付けを始める。勇矢は敢えて手伝わない。こう言う時の彼女は最後まで自分だけでやりたがるからだ。 9

2013-01-05 06:45:34
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「ご飯もうちょっとで出来るから、待っててね~」「え…まだかかるの…?」「あと20分くらいかな?そこのパン食べて待っててね」鍋をかき混ぜながら絢女が言う。勇矢の帰宅に合わせて、軽く焼いたパンの上にチーズを塗りオリーブオイルと塩を掛けたもの、が一切れだけ用意してあった。 4

2013-01-05 06:45:43
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勇矢はパンを齧った。昼は常人の3倍ほど食べたとはいえ、7時間近く缶飲料程度しか口にしていなかったため、有り難かった。「味は期待してるけどさ…」「うん!」「まさかまだ作ってたとはな…」半ば呆れた口調で勇矢が言うのも無理はない。昼に彼が出たときも彼女は材料を炒めていたのだ。 5

2013-01-05 06:50:40
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もっと言えば一昨日の夜から仕込みは始まっていた。しかもその間2つのガスコンロがほぼずっと塞がっていた。睡眠すらも寝袋を使って台所で取っており、勇矢も巻き添えを食った。味は保証付きなので不平こそ出なかったが、おかげでこの2日間、勇矢や妹達は調理に大層不自由した。 6

2013-01-05 06:55:53
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絢女が料理に時間をかけるのは良くあることなのだが、普段なら半日を超えることは少ない。一週間かけてクリスマスと年越し、お節の用意をした年末年始以来のことだった。彼女が『やらかす』のは大体がそういう催事の時だ。しかし…と勇矢は思った。何故こんな何もない時期に? 7

2013-01-05 07:00:10
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20:30。家族の4人が揃い、夕食が始まった。メインはカレーでシーザーサラダや冷製スープ、卵料理などがついてきた。カレーは具材が柔らかくなるまで良く煮込まれながらも、口に入れるまではしっかりとして崩れない絶妙な加減で、辛口のルーやスパイスが良く浸みこんでいた。 10

2013-01-05 07:06:08
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サラダは対照的にシャキシャキと歯応えがあり、スープはカレーで温まった口をさっぱりさせるには最適で、食感や温度に飽きが来ない構成になっている。食器も良く考えて選ばれており、音楽も邪魔にならず、かつ食器の音が薄れる程度の音量でFMラジオから楽しげな洋楽が流されていた。 11

2013-01-05 07:10:48
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30分程してメインの食事が終わる頃には、大鍋のカレーと8合炊かれた白米も空になっていた。食材を無駄にするような者は元からいなかったが、それにしても6~7人分相当の量で余りすら出なかった。絢女の采配と、彼女と勇矢が2人分程ずつ食べたことによるものだ。 12

2013-01-05 07:15:33
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デザートにはハーブティーと、バニラアイスを乗せた温かいタフィーが出た。熱でアイスが溶けて浸みこみ、ただでさえ恐ろしく甘いタフィーが更に甘くなる。そのままでは胃もたれしそうなそれを、それぞれ茶で口を落ち着かせながら口に収めていく。「ごちそうさん…最高だった」「ありがとっ!」 13

2013-01-05 07:20:12
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そうして食事を終えると、絢女は後片付けを始めた。長い調理時間の合間に片付けも並行していたとはいえ、かなりの量なので20分はかかるだろう。風呂のスイッチを入れ、沸いたら先に入るよう残る二人に勧めると、勇矢は8時間ほどぶりに自室へと戻った。 14

2013-01-05 07:25:37
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ミストルティン編 3話 「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #2

2013-01-05 07:28:02
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―昨日、勇矢が入手した『M文書』。昨夜のうちに直近に必要な情報だけは頭に入れてはあったが、それを再度読み直していた。自分や引いては絢女達の命にも関わると言えば関わる話だった。大半の情報は即座に理解できたが、分からない言葉が一つだけ残っていた。 15

2013-01-05 07:30:09
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全ての元凶である『クロスロードUUK』の『UMR』。この中のクロスロード、という語には聞き覚えがあったのでそれを頼りに略語辞典を引きつつネット検索で調べる。30分ほどで『UUK』の謎は割とあっさり解け、『UMR』についても更に10分ほどで解けた。 16

2013-01-05 07:33:28
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……実にしょうもない真相。それが勇矢の感想だった。続いて文書と共に受け取った報酬のうち、ウェブ上で取得可能なものだけを手早く確保し、同時に証券会社に株取引の注文を数件出した。そして天気予報を再確認してから、新渡町周辺の地理・地勢・人口分布を含む地図情報などを得た。 17

2013-01-05 07:36:36
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22:45。「こんなもんかね」独り言で作業に区切りをつける勇矢。当面必要な情報のうち家で得られるものは、これでほぼ得た。少なくとも『明日』の件は問題あるまい。後は週末にでも図書館辺りに行けばいい。絢女を呼んで風呂に入り、就寝の準備をする。 18

2013-01-05 07:39:53
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23:20。普段は1~3時間しか眠らない勇矢だが、今日は久々に6時間ほど眠るつもりだった。「大変ね~、ゆーや。そっちも手伝おーか?」湯たんぽめいてよく温められた体の絢女が言う。「いやフォームドのほうだけで良いよ……馬鹿馬鹿しくてやってられんし…」ハァ…と溜息をつく。 19

2013-01-05 07:42:03
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「バカバカしいってなによ~」頬を膨らませる絢女。「いや、あーやのことじゃないよ…UMRのクズ共のことだよ。相手にするのも馬鹿馬鹿しくて…『ここは絢女の姐さんが出るまでもありやせんや、あっしにお任せ下せぇゲッゲッゲッ』って感じ」「私、姐さんなんだ…」 20

2013-01-05 07:45:27
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「まあ、いいや。とにかく今日はもう寝よう」布団を自分と絢女に被せる。「え~少しは遊んでよ~…えい」「おぅっ!」自分の胸に勇矢の顔を挟み込むと、片手で抱き寄せる。「む、む…!」「ほら、ぱふぱふぱふ…」片手だけで器用に、両胸を勇矢の顔に何度も押し当てていく。 21

2013-01-05 07:48:31
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23:35。ようやく解放される。「ハァッハァッ…ハァッ」二重の意味で呼吸が荒い。途中で振り払える訳が無いのでやむを得ない。「どぉ?これでも遊ぶ気ににならない?」「そうしたいのは山々だけど…明日死闘だからさ…万全にさせてくれよ」「だからそんな奴私がパッてやったげるって」 22

2013-01-05 07:53:09
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「だから奴等はどうでも良いんだよ…大変なのは試合のほうだよ」「じゃあそっちもわた」「あーや」「むー」再度頬を膨らませる。「それは僕がやらなきゃしょうがないだろ」嫌そうな口調の勇矢だが、その表情が今日一番の笑顔だったことに絢女達は気付いていた。「…じゃあそっちはいいけど」 23

2013-01-05 07:55:17
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