友野詳氏の「シャハルサーガ 第1部」 ストーリー版

友野詳(@gmtomono)氏によるルナル世界を舞台にした新作Twitterノベル「シャハルサーガ」のまとめです。 こちらは「採用された物語」だけを纏めて、ストーリーを追いやすくする事を目的としたリストです。 「採用されなかった選択肢」なども含めて全てを読まれたい方は、 http://togetter.com/li/435051 をご覧下さい。 第2部 全部入り:http://togetter.com/li/460078 続きを読む
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友野詳 @gmtomono

というわけで、先日、ちょっとつぶやいたお遊び企画をはじめてみます。とりあえずつけてみたタイトルは「シャハルサーガ」。舞台は七つの月しろしめす地。その第三の地、黄昏の大陸マーディールです。ハッシュタグは #シャハルサーガ とします。

2013-01-04 22:06:43

第1夜

友野詳 @gmtomono

――地峡沙漠の砂は、青い。海の色と変わらぬと言うものもいる。大陸の南と北は、この青く細い地峡でつながっているのだが、海でへだてられているのと変わらぬ。まるで二つの異なる大陸のようだ。この地峡砂漠を往復するのは、異端の民〈沙覇留〉族のみである。 #シャハルサーガ (1)

2013-01-04 22:09:17
友野詳 @gmtomono

風で渦巻く青い砂丘は波のようだが、砂を蹴立てて走るマガナックは、とうてい魚には見えない。ほかの大陸の住人が見れば、馬ほどもあるカマキリと表現するであろうし、魔獣とみなして警戒するだろう。それほどに恐ろしげな姿だが、〈沙覇留〉族にとっては生涯の友だ。 #シャハルサーガ (2)

2013-01-04 22:09:35
友野詳 @gmtomono

いま、ひとりの少年が、マガナックにまたがり、沙漠を駆け……そして伏せた。青い砂のうねりが、少年を隠す。彼のマガナックは、巨体を半ばまで砂に潜らせている。一人と一匹は、行く手に動く数個の影を、いちはやく見つけ、隠れたのだ。追う者、そして追われる者がいる。 #シャハルサーガ (3)

2013-01-04 22:10:47
友野詳 @gmtomono

アリクという名の、その少年が見つけたのは逃げる女性と、追う兵士であった。兵士は、三日月の剣と太陽を刻んだ盾を身につけている。地峡沙漠の向こう、ザーナの都に住む、正統を称する双月教徒だ。そして追われている娘は……(分岐)  #シャハルサーガ (4)

2013-01-04 22:11:31
友野詳 @gmtomono

女性というより、少女だ。少なくとも見かけはアリクより幼く見えた。まだ十三か四か。よそものの争いからは遠ざかるのが、〈沙覇留〉族の生きる知恵というものだ。しかし、これは見過ごしておけない。アリクが首をなでると、マガナックはしぶしぶ戦いの姿勢をとった。 #シャハルサーガ (5-B)

2013-01-04 22:12:35

第2夜

友野詳 @gmtomono

アリクが「リワブ! シカウ!」と声をあげた。その意味は『飛べ』と『巻き起こせ』だ。身を起こしたマガナックが、羽を広げる。半透明の大きな羽は、魔力を帯びている。それを猛烈な勢いでふるわせ、マガナックが、宙に舞い上がった。アリクが指さした方角へ一直線に飛ぶ。 #シャハルサーガ (6)

2013-01-06 21:24:38
友野詳 @gmtomono

飛翔魔力をもたらした羽ばたきは、さらに砂を高く舞い上げた。噴きあがる砂が、男たちと少女を遮る。マガナックが敵の目を潰し、あるじが隙をつく。〈沙覇留〉族伝統の戦術だ。もちろん、砂の壁はすぐしずまってしまう。アリクは、マガナックの飛翔と同時に走りだしていた。 #シャハルサーガ (7)

2013-01-06 21:24:51
友野詳 @gmtomono

追っ手はラクダ騎兵が五人あまり。アリクも短弓と鞭は得意だが、勝てる気はしない。逃げの一手だ。マガナックが戻ったら、飛び乗って空へ逃げる。逃げ道はわかる。砂漠を〈沙覇留〉族以上に知る者はない。「こっちへ!」というアリクの叫びに、少女が怯えた顔でふりむいた。 #シャハルサーガ (8)

2013-01-06 21:25:04
友野詳 @gmtomono

少女の美しい顔だちが、アリクを凍りつかせた。黄金色の瞳が、驚く少年の顔を映す。そんな色の瞳を持つ人種を彼は知らない。だが恐れはなかった。美への感嘆。我に返ったアリクが動きだそうとした刹那。「賊めが!」怒声とともに、一本の矢が、少年の心臓を射抜いた。 #シャハルサーガ (9-A)

2013-01-06 21:25:16

第3夜

友野詳 @gmtomono

気がつくと、アリクは、顎すれすれまで砂に埋められていた。砂の色はオレンジ。癒しの砂浴場だ。〈沙覇留〉族は、ここで病いを癒す。しかし、心臓を貫く矢傷に効果があるはずはない。だが、生きている。そして、いったい誰がここへ? アリクは、唯一自由な首を動かした。 #シャハルサーガ (10)

2013-01-09 20:29:45
友野詳 @gmtomono

右を見たら、マガナックの複眼が、アリクの顔を無数に映していた。魔獣が飼い主を砂からひきずり出す。アリクは自分の胸にふれた。あるのは、かすかな傷跡だけだ。訝しく思いつつ「そうだ、あの娘は!」。左を見た。全裸のアリクを、あの少女が、無表情に見つめていた。 #シャハルサーガ (11)

2013-01-09 20:30:03
友野詳 @gmtomono

アリクが大慌てをしている頃。紺碧の砂漠で、双月教徒騎兵の指揮官が「バカな……」と呻きをあげていた。先行して標的を追っていた騎兵たちが、屍となって砂に半身を埋めていたからだ。「……追うぞ!」。無残な姿をさらす仲間に簡素な葬儀をほどこし、彼らは動きだした。 #シャハルサーガ (12)

2013-01-09 20:30:17
友野詳 @gmtomono

アリクは、マガナックの荷物から急いで替えの服を取り出した。それをまとう少年から目をそらさず、少女が、抑揚のない声でぽつぽつと言う。「巻きこんでしまった……あなたを」「でも……ここで、さよなら……できない」黄金の瞳に見つめられ、アリクの心臓が高鳴った。 #シャハルサーガ (13)

2013-01-09 20:30:40
友野詳 @gmtomono

その高鳴りが、矢で射られた自分がなぜ生きているか、という疑問を忘れさせた。貫かれたのは錯覚、忠実なマガナックが逃がしてくれた……無意識にそう思いこんだ。アリクは、魔獣のどこか怯えたようすには気がつかないでいる。少女に恭しい態度をとっていることにも。 #シャハルサーガ (14)

2013-01-09 20:30:59
友野詳 @gmtomono

「ラザの港へ……わたしを……迎えに来る人がいる……の」青銅色の髪にまじった、一房の銀髪をいじりながら、少女は訥々と語った。「でも……あなたが……ほかに行くべきところがあるなら……したがう」。 #シャハルサーガ (15)

2013-01-09 20:31:19
友野詳 @gmtomono

少女が美しいことも、さよならできないという言葉の真意も関係ない。一度守った、だから最後までゆるぎなく守り通す。静寂の神ジェスタの信徒であるアリクの信条だ。無言でうなずき、そして、一度立ち寄って支度を整えようという意味で、一族の村の方角を指差した。 #シャハルサーガ (16-B)

2013-01-09 20:31:45

第4夜

友野詳 @gmtomono

ラザの港まで、まっすぐに砂漠を渡れば三日。最短の道を進む準備のため、里に立ち寄ることにした。少女を乗蟲マガナックの背に乗せ、アリクは横を歩く。話しかけない限り、少女は口を開かない。しかし、頑なさは感じられなかった。アリクを信じ、全て委ねているようすだ。 #シャハルサーガ (17)

2013-01-12 21:03:50
友野詳 @gmtomono

里の皆には、彼女のことをどう説明したものだろう。青と赤、双子の月の神々を双面一身として信仰する双月教徒は、アリクたち〈沙覇留〉族を異端とみなす。祖先を砂漠に追いこんだのは、やつら双月教徒だ。その迫害の尖兵に追われていたのだが、理由もまだ聞いていない。 #シャハルサーガ (18)

2013-01-12 21:04:11
友野詳 @gmtomono

だが、静寂を尊ぶジェスタの信徒であるアリクは、少女への話しかけ方が、まずわからない。里で、大人たちに事情を尋ねてもらおうと足を速める。妹や幼い子たちは、異邦人を歓迎し、はしゃぐだろう。その想像が浮かばせたアリクの微笑は、青い砂丘を越えた時にかき消えた。 #シャハルサーガ (19)

2013-01-12 21:04:34
友野詳 @gmtomono

砂漠を放浪する〈沙覇留〉族は、いくつかのオアシスを拠点とする。里とは、いま滞在中のオアシスのことだ。その里に、異質な武装集団が押し寄せていた。紫の頭布を帯びた双月教徒の騎兵どもだ。武器をちらつかせ、一族を怯えさせている。無論、少女と無関係ではあるまい。 #シャハルサーガ (20)

2013-01-12 21:05:13
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