PSYCHO-PASS×伊藤計劃「ハーモニー」2次創作「常守朱と霧慧トァン監視官」

PSYCHO-PASS×伊藤計劃「ハーモニー」の合体事故。ベテラン監視官・霧慧トァンと、新米監視官・常守朱の心の交錯の1シーン。
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現場猫教授 @Dr_crowfake

監視官常守朱と執行官御冷ミァハというコンビについて色々書いてきたが、ベテラン監視官霧慧トァンと新米執行官常守朱という歳の差百合もいいんじゃないかって思えてきた。あきらかにシビュラシステムの執行対象でありながらその監視をくぐり抜けて監視官を続けてるトァンに興味と反発を覚える常守。

2013-01-07 02:56:10
現場猫教授 @Dr_crowfake

「霧慧さんは、どうしてあたしの前ではそんなに無防備なんですか?」監視官が行うべきでない乱行、飲酒、喫煙、その他もろもろを、この人は捜査の過程で私に魅せつけた。「無防備じゃないよ。DummyMeは入れてる。不適切な行為はシビュラの目の前ではしないことにしてる。抜け道はあるんだ」

2013-01-07 02:58:41
現場猫教授 @Dr_crowfake

「でも、私の目には写ってます」「そうだね。だけどあなたの主観なんて、シビュラの目の「客観」の前には些細な誤差でしかないんだよ」霧慧監視官は疲れたように云った。いや、実際疲れているのだろう。彼女の健康状態は消して良くないことが、私からも見て取れる。

2013-01-07 03:00:18
現場猫教授 @Dr_crowfake

「常守監視官。きみは、自身の主観的正義と「シビュラの目」どっちを信じる?」「わたしは……」返答に詰まった私を見て、霧慧監視官は嗤った。「そういうこと。自身の正義は、必ずしも公共に共有されない。君が私を悪だと思っても、そう「みんな」が思わなければ告発できない」

2013-01-07 03:02:20
現場猫教授 @Dr_crowfake

「だから、公共の監視を逃れて、プライベートな悪徳に身を委ねているんですか……」「ううん。あたしにとって、これは「悪」じゃないの。あたしたちが狩ろうとしてる連中が、自分の行為を「悪」だと思ってないのと同様にね。でもあたしはうまくやってる。あいつらはヘマこいた。そんだけの差だよ」

2013-01-07 03:04:07
現場猫教授 @Dr_crowfake

「そんなのおかしいです!」あたしは霧慧監視官に食って掛かった。でも彼女は、それを軽くいなした。「その「おかしさ」を決めるのは、君じゃない。君が信じるシビュラシステム、そしてその倫理を内面化したもうひとりの「君」だ。われわれは、脳内に自分を監視する他人を常に飼ってるんだよ」

2013-01-07 03:05:58
現場猫教授 @Dr_crowfake

「じゃあ、霧慧監視官は、どんな正義に従ってるんですか……シビュラシステムの正義じゃない、それでいてこの世界で生きていける、どんな正義を……」「うーん」霧慧監視官は眉をひそめた。「「ニッチ戦略」ってあるだろ。支配的戦略の裏をかいて一定の成果を上げるそれ。あたしはそれに従ってる」

2013-01-07 03:07:46
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしの自由、あたしの正義ってのは、あたしの手が届く範囲の狭いところでしかないんだ。だけど、その中では比較的自由にやってる。あんたたちみたいに、始終誰かに監視されてるような気分なんか味合わずね。それはそれで、互いにとっていいことじゃないのかな」「いいこと……」

2013-01-07 03:09:52
現場猫教授 @Dr_crowfake

霧慧監察官は遠い目をした。「もしあたしが、あの子みたいに、もっと真っ直ぐで純真で、世界を憎みきれたなら、あたしはこんな中途半端な場所に立ってなかった。だけど、あたしはそんな中途半端な人間だから、世界を傷つけず、自分も滅ぼさず、折り合いを付けられた。Win-Winだろ?」

2013-01-07 03:11:28
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あの子――」あたしは霧慧監視官の履歴を拡現でサーチした。そして見えた。御冷ミァハ。かつて霧慧監視官とともに自殺を企てた少女のデータを。「あなたは、そんなに世界を憎んでいたのに、結局世界にしがみついてるんですね」「履歴検索? 趣味悪いね。そうだよ。あたしは生き延びてしまった」

2013-01-07 03:13:32
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしはあの子を「こっち側」に引き戻そうともせず、かといってあの子みたいに「あっち側」に行き切ることもできなかった、半端な人間なんだよ。あの子の死は、あたしの原罪で、そして切り捨ててしまった何かなんだよ――今となっては、それが何だったか、よくわからないけどね」

2013-01-07 03:15:24
現場猫教授 @Dr_crowfake

「そんな……」「それが「大人になる」ってことだったんだよ。少なくとも、このあたしには」そう、霧慧監視官は吐き捨てるように云って、タバコを捨て、踏みにじった。「あたしはあの子との情緒的な死と再生をくぐり抜けて大人になった。だけど、こんな大人にならなきゃよかったって思ってる」

2013-01-07 03:17:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あの時ミァハと死んでいれば、あるいは執行対象になるような事件を起こしていれば、あたしの生き様は一貫できたんだ。だけど無理だよ。生きてることの楽しさを、辛さとともに知ってしまったあたしには、それに溺れるしか選択肢がないんだ」霧慧監視官は悲しげに云った。

2013-01-07 03:19:29
現場猫教授 @Dr_crowfake

「常守、あんたはあたしみたいになるな。誰かから押し付けられた正義に従うのでもいい、自分で見出した正義を追求するのでもいい、あたしみたいな半端な人間になるな。正義と地獄を見つめろ。そして手でつかめ」霧慧監視官はあたしを見つめた。その冷たい目は、地獄をのぞき込んでいるようだった。

2013-01-07 03:21:30