「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #5

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Astal_jukebox @astral_jukebox

―18:30―新渡町、新渡駅前。某廃ビル地階。 1

2013-01-08 11:10:57
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この近辺は90年代後半~0年代前半にかけて、人口の低下の為シャッター街化していた地域である。人口が都会に流出し、商業施設が撤退。不便になった土地からは更に人口が流出…悪循環。地方部にはよく見られる現象だ。日館学園研究都市が作られた理由の一つでもある。 2

2013-01-08 11:11:17
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地方の人口低下と都市部の人口増加は基本的にセットの問題である。人口一極集中も、失業者の増加や治安の悪化などの諸問題を生む為、歓迎しがたい。この人を呼び戻し、かつ定着させる研究都市政策は国、県、市の3者共同による税制優遇のような制度面。施設や設備の建造…などの複合政策である。 3

2013-01-08 11:15:44
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そこでどんな施設を作るべきか?…例えば観光施設はあくまで観光客を呼ぶための物で、人口増加目的としては愚策とは言わないまでも下策であろう。そこで作られたのがこの学園研究都市である。大小数十の学校、及びそこを利用する学生や学校関係者、研究者が利用する施設を複合されて作られている。 4

2013-01-08 17:01:44
Astal_jukebox @astral_jukebox

短期的には学生達、長期的には教員や施設関係者の定住が狙いである。そして学生達の将来の定住をも狙った長期的視野に立って計画されている。計画に当たっては、先に建設された筑波研究学園都市の計画が大いに参考とされている。 5

2013-01-08 17:03:03
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こちらが1956年頃から始まり、60年代後半から着工、80年頃に一定の完成を見たのに対すると、日館の計画はまだ日が浅い。90年代半ば立案、00年前後から着工し、星咲学園を含む第一期建設計画が数年前に完了したばかりだ。まだ未完成とは言え、比較すると開発速度が速いのが分かる。 6

2013-01-08 17:03:19
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これは筑波の都市計画の不手際では断じてない。こちらは人口減少が深刻では無かった時期からの計画だったこともあり開発に反対する地元の声が強く、何度も開発地計画の見直しが行われているのだ。対する日館は、これらの諸問題で筑波を参考に出来る強みがあった。 7

2013-01-08 17:03:30
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更に言えば、この筑波の一定の成功という実績と、人口低下の深刻化という背景から地元住民の協力を得やすかったという点も大きい。そして今は商業・娯楽施設や一般居住者向け施設、東西の交通網の拡充を含む第二期計画の途中である。10年代半ばまでの完成を目標とされたものだ。 8

2013-01-08 17:03:45
Astal_jukebox @astral_jukebox

…このシャッター街も再開発区域の一部である。インフラなどを残すか再建するかの見極めと建築計画は既に終了、徐々に工事も始まっている。この3階建ての廃ビルは中規模スーパーが入っていたものだ。この部屋は資材運搬用の車を入れる荷分け用で、敷地面積の半分強のかなり広いものである。 9

2013-01-08 17:05:03
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地階だが搬入口側から見れば1階とも言える。客用1階正面入口とは逆方向、1階分低いところに地階搬入口があるのだ。この大部屋の中央に大きな魔方陣。同心円の内外に文様や呪文が描き込まれている。その複雑極まりない形式は、他の魔術師が見ても直ぐには用途を見出せない程だ。 10

2013-01-08 17:05:16
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その円周上の等間隔にワイドリバー達6人、彼等と円の中心の中間地点に儀式の為の『柱』が配置されていた。ここまでの1時間、彼らは香を焚き呪文を唱え杖を振り予備儀式を完了させていた。いよいよ最終段階が始まる。ワイドリバーが口を開いた。 11

2013-01-08 17:05:27
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「では『柱』を『赤き柱』へと昇華させる」相方に目配せする。それを受けてクライムストーンが言う。「では、まずロン…ロナルドお前からだ」「ぼ、僕からですか!?」指名を受けた小柄な少年が戸惑う。「今日の儀式の意味…分かっているな?」ワイドリバーが問いかける。「は、はい!」 12

2013-01-08 17:05:36
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「数百年がかりの大儀式の最終段階、その一回目ですっ!」灰ローブのストーンが頷いて更に問う。「そうだ。そしてそれは何のための儀式だ?」「『偉大なるC』の復活と世界の変革と救済の為です!」「それだけか?」「えっ…あっ…そう、その力でUARの、ぼ…先輩達の威光を示す為です!」 13

2013-01-08 17:05:46
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「そうだな…と言いたいところだが、少し違う」「え?」再度戸惑うロナルド。「『先輩達』じゃない。『私達』だ」「どういう…ことでしょうか」ハァ…と兄弟子のクインスが溜息を吐く。「つまり自覚が足りないってんだよお前には」「自覚…ですか?」「俺達の一員だって自覚がな」「……」 14

2013-01-08 17:07:53
Astal_jukebox @astral_jukebox

「今回はお前も分かっているように、その大儀式の最終段階の、重要な初回だ」再びストーン。「他の回も当然だが、始点と終点は特に失敗が許されない…分かるな」「は、はい!でででもだからこそ僕がその最初の…!」「その重要な初手を、任されるのは荷が重い…と?」「…はい」「それは逆だ」 15

2013-01-08 17:08:13
Astal_jukebox @astral_jukebox

「その大役を、一番若いお前に敢えて任せるんだ…新たな理想世界の創造には似つかわしいだろう?」「……」「要は期待してやってるってんだよ…!」クインスが言う。「僕に…ですか?」「いつまで待たせるつもりだ?ストーン」やや焦れた様子でワイドリバーが言う。 16

2013-01-08 17:09:33
Astal_jukebox @astral_jukebox

彼はロナルドを一人目の執行者に、と頼まれていた。だが、待ってやりたい気はあっても儀式の実行時間は限られている。一本目の処断はあと5分以内に行わねばならない。「分かっている…いいなロン?」「は!はいっ!!」半ば叫びに近い自分の声で気合を入れると少年は祭具を持ち上げた。 17

2013-01-08 17:12:05
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それを柱に向けて振り下ろ…さなかった。「…どうした?」「あ、あのぅ」「何だ?」「コレでやらないとダメですか?」「はぁ!?」呆れた様子のクインスが素っ頓狂な声を出す。弟弟子とは別の意味でこの場に相応しくない声だった。「今更どうしたんだよお前…」呆れ声で言う。 18

2013-01-08 17:13:41
Astal_jukebox @astral_jukebox

「練習の時は僕のウインド・エッジでしたからその…」「ダメだ」ワイドリバーが答え、相方を軽く睨む。「何故模擬祭具でやらせなかった?」「すまん、経験としては充分だと思ったんだが…」自分の判断ミスを後悔し、苦々しい表情のストーン、そしてクインス。焦るロナルド。 19

2013-01-08 17:14:25
Astal_jukebox @astral_jukebox

「ロンの坊や、怖気づいちゃったのかしら?」恋人のシモンにしな垂れかかりながら妖艶なキャロンがからかう。「なんなら俺が変わってやろうか?」肩を抱き返しながら大柄なシモンもその言葉に乗る。「やめろ二人とも…キャロン、戻れ」儀式の場に相応しくない振る舞いをワイドリバーが窘める。 20

2013-01-08 17:14:34
Astal_jukebox @astral_jukebox

「あ…あのじゃあお願」提案に乗りかけた少年を師と兄弟子の目が射すくめる。「これ以上、恥をかかせる気か?」「は、はいえでも勝手がその違ってというか」「反動が伝わるかどうかだろ?直接触る訳じゃねぇし」「うう…」「「―――」」「わ、分かりました!」無言の圧力に押され意を決した。 21

2013-01-08 17:14:38
Astal_jukebox @astral_jukebox

リバーは再催促するか一瞬だけ考え、相方の目配せで不要と判断した。軽く溜息を吐き、自分の作業に戻った。彼は今、内部からの音等を遮断しつつ、外部探査も行っている。万一の侵入者対策である。元から人が少ない地域の立入禁止ビルの上、常人を寄せ付けない結界もあるが、念の為だ。 22

2013-01-08 17:14:43
Astal_jukebox @astral_jukebox

更には予報通りの大雨も音漏対策になる。万全である。その雨音だけが響く逆説的静寂の中、少年が再度祭具を持ち上げる。ポン、と肩を叩かれて振り向くとクインスが応援の眼差しを送っていた。その後ろの師の顔は半ば灰ローブに隠れてはいたが、弟子を熱く見守っているのはそれでも分かった。 23

2013-01-08 17:14:52
Astal_jukebox @astral_jukebox

(二人の期待に応えよう…!!!)白マントの少年は向き直り、祭具を、柱に、振り下ろした!その時!「…え、あ、お…?おお?」その時、背後のクインスは見た。何故か自分の左肩深く刺さった祭具と、両腕の無い弟弟子の姿を。『――』全員が。負傷した二人すらも。驚愕より先に絶句していた。 24

2013-01-08 17:16:12
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