- hosidukuyo
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―18:36。新渡町~永山町間バス車内。前方の二人用の座席右窓側に湊、左の通路側に智明、すぐ前の1人用に隆光が座っている。間隔を調整して他の部員達は先に行かせた。ブレイビートは置いたままデータと改良案のみを回収してきた。「お疲れ様でした」「君もね。ヒロも」「ああ」 1
2013-01-09 05:01:00「それで隆光さん?あの人はどうでした?」「…強敵だ。あれ程武器が欲しくなったのは久しぶりだった」本来ブレイビートは短刀と鞭を使う。オプションとして短針銃や構想段階のコイルガンもあるが基本的にはその二つだ。試合だから、という名目で今日は素手にしたのだ。 2
2013-01-09 05:11:13今日の為に作ったというジョーカーはあれでフル装備だ。全ての武器を出し切ったかは怪しいが、こちらに武器があれば圧勝出来てしまっただろう。もっとも勇矢もビートが素手という前提だったので、武器有ならばそれなりの対応をして来ただろうが。「それに的確にこちらの弱点を突いてきた」 3
2013-01-09 05:20:44「まあ僕等の弱点を突くようにお願いしたからだけどね」智明は湊に頼み、自分達を含むメンバーとその機体のデータを1月のうちに渡しておいたのだ。彼に、彼のチームメイトを除く全員との試合を依頼したのもその為だ。自分達を含む部員への弱点克服プログラムの様なものだ。 4
2013-01-09 05:31:01ブレイビートの弱点は主に二つ。一つは稼働時間と排熱性だが今日の試合時間では左程問題にならない。これは散々自覚があるので充分だった。そしてもう一つの弱点は、人体の動きを再現するがゆえにその動きに捉われることだ。これを人型ながら変幻自在なジョーカーで突いて貰った。 5
2013-01-09 05:40:20非人間型が自在に動くのは当然だが、人間型かつ「人間の様にも動ける」のに非人間的な動きも出来るジョーカーとの戦いは有益な経験だった。実際の試合で相手に合わせられるのは、戦術や登録機体からの出場機体の組み合わせだけ。「ビートの」弱点を突く為に設計された機体などそう出てこない。 6
2013-01-09 05:50:26無論試合で有れば出てこないに越したことはないが、練習相手としては是非欲しい対象ではある。その点では浅空勇矢程うってつけの人材はいない。機体制作速度と操縦技術を併せ持ち…何より他人の弱点を分析して攻めることを非常に得意としている。「そこに性格の悪さが出てますよねぇ」 7
2013-01-09 06:00:41「お前が言うのか…?」隆光が前を向いたまま呆れた声で言う。首元に伸びてきた手は軽く打ち払った。さして痛くも無い右手を摩りながら左の智明に擦り寄る。「隆光さんてば!…失礼しちゃいますよねぇ?」「君のことは好きだけど…正直腹黒さは大差ないでしょ…」「……」 8
2013-01-09 06:09:22ザ――。雨音。この天気に加え一本見送ったがゆえに他の乗客は数名。元々小声で話していたが、他の乗客も殆ど喋らないので、沈黙が重い。「結局なんなんだろうね…」「あの、話ですよね」金曜に聞かされるという勇矢の話。今年中に彼が死傷するかも知れないという話だ。 9
2013-01-09 06:19:12元々彼の事情が事情だ。彼を失うことへの多少の覚悟は前からあったが、それは自分や家族が偶然事故や犯罪で死ぬかも知れない、というのと同程度の覚悟だった。今の智明の気分は「家族に末期癌の疑いがあり、精密検査している」くらいの深刻さだった。未確定ゆえに逆に覚悟など出来はしない。 10
2013-01-09 06:27:17再びの沈黙。破ったのは隆光だ。「何か…良くない気配が…するような気はする」「良くない気配?」隆光の直感は鋭い。その彼にしては自信が無さげな言い回しだ。「直接俺が対している訳ではないからか詳しくは断定出来ないが…多分…」「多分?」智明が聞いた。 11
2013-01-09 06:36:57「あの『空』に関わることかも知れない」彼が見上げる空は隙間無く濃い雨雲。雨が降り続ける。だが彼が見つめているのはその、ずっと先の虚空であった。 12
2013-01-09 06:46:07特攻の覚悟を決めたワイドリバーと、もたもた歩くホワイト。二人の距離は約5m…ワイドリバーが走る!『怖いねぇ』安物の銀刃が6本!次々に刺さるが構わず突き進む!『怖いからこうしよう』ホワイトが左肩のナイフを抜き、スイッチを入れ投擲!だが構わずに突っ込んでくる!その時! 14
2013-01-09 07:01:03ドォオオン!と言う轟音と共にリバーの視界範囲に何かが落下してきた。それはホワイトの背後、ストーン達よりはこちら側…柱の辺りに、天上から何かが落下してきた。 潰された?「!?」覚悟を決めた彼も一瞬動揺した!これでは儀式が出来ない!?その動揺が僅かな硬直を生み、刃が左肩に直撃! 15
2013-01-09 07:07:52「ッ!」キュオーン…タカタカタッタ!刃からクイズ番組のシンキングタイム風の謎SE!だが引き抜く間はない!どうせこの攻撃で自分も死ぬ!確実に差し違える!儀式は…想定外の形で柱が潰れたことで、残念ながら不完全な形にはなったが、アレでも一応の実行は完成した筈だ。 16
2013-01-09 07:16:08(柱を潰すことで儀式の妨害をしようとしたのだろうが、潰しただけでは不完全ながら一応の発動はする…悔しいがこの場は俺の命を持ってUARに償う!だから今は仲間を救う!)あとは彼等がやってくれる筈だ!自分の名は大儀式の礎としてUAR、引いては世界の歴史に未来永劫残る!大栄誉! 17
2013-01-09 07:21:40「うおおおおあ!!」キュオーン…タカタカタッタ!キュオーン…タカタカタッタ!続くSE!『ビフォア・エンドレスヘル!』「死ねえっ!!」ワイドリバーの生涯の全てを込めた重い一撃!ホワイトの顔面に迫る!濁流の如き血流ジェットが彼を狙う!同時に奴の血液をも濁流と化してしまえ!! 18
2013-01-09 07:28:34そしてその重い一撃が、左手で軽く受け止められ重心を下げたホワイトに体ごと持ち上げられ肩の刃を引き抜く反動をも利用されて、ダーツ投げじみた軽さで投げ飛ばされた。バーン!シャッターの真逆側の壁に叩きつけられる。自動車事故並の轟音だったが、外の豪雨でどこまでかき消されただろうか。 19
2013-01-09 07:35:20ワイドリバーの口から血が流れ出した。今のダメージが半分、残りは直前まで沸騰していた血液だった。だがそんなダメージなどどうでも良かった。自分の『生涯』は何故通用しなかった?いや何故急に『魔術が使えなくなった』のか。考えるまでもない。あの刃だ。 20
2013-01-09 07:42:50『いや~無意味な人生でしたね~二十…何歳?これまでのお前の努力も積み重ねも友情も愛も無駄に終わっちゃうね~…まあだからどうしたって話なんだけれど…ああ、そうそうそう、気に入った訳じゃないがお前を殺すのは最後にしてやる。OK?』「 」 21
2013-01-09 07:49:49ホワイトの放言にワイドリバーはしかし、返す言葉もない。呆然自失としていた。本当に、自分の今までの研鑽は何だったのか?何が足りなかった?何が甘かった?何がいけなかった?『さぁて』先に他を片付けるべく振り向こうとしたホワイトは、背後に突如として膨大な魔力を感じた。『あらやだ』 22
2013-01-09 07:56:06命懸けのストーンの治癒で腕を繋がれ回復したロナルド・エイクリーだ。「うう…う…良くもマスター・ワイドリバーを…」『ププゥッ!マスターww!あれで?』「みんなを…」『あそこで転がってる空気二袋ww?』「クインスさんを!」『そこの盾の成りそこない?』「マスターを!」 23
2013-01-09 08:03:22『ああ、あっちのどぶ川と同格の癖にお前の治療すら満足にこなせない、汚物の出来損ないを更に濾過した残』「許さない!」ロナルドは師達を庇うように立ち上がる。その全身からは師の数倍の魔力。『…わーすごーい』ホワイトはパチパチパチと乾いた拍手で少年の覚醒劇を迎えた。 24
2013-01-09 08:10:23