三角形の2辺の長さの和=1辺の長さ?そんな馬鹿な!(私語付き)

数学の専門家@yon_ichiro さんが「三角形の2辺の長さの和と、1辺の長さが等しくなるように思える推論がある、でもそんなのありえないはずでは」という質問をうけての連続ツィート。このパラドックスから、「長さ」「近づく」そして「曲線」とはなにか、という問いへと向かいます。 「曲線」に関係する話だけあって、途中で受講生(?)のおしゃべりがまざって、話が曲がりますw
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四一郎 @yon_ichiro

(0)さて、久しぶりに数学の話を。昨年末に @kuromunori さんからいただきました質問について考えます。今日はまだ時刻も浅いので、ゆっくりめに連続ツイートいたします。途中でも何かわかりにくいことがありましたら、いつでもお尋ねくださいね。

2013-01-08 22:07:47
四一郎 @yon_ichiro

(1)まず、質問内容が具体的なので、それを説明します。「三角形の2辺の長さの和が、残りの1辺の長さの和に等しいように思える推論(?)」がある、というのですね。もちろんそんなことが正しいわけはないので、その推論のどこかにおかしいところがあるはずです。

2013-01-08 22:10:50
四一郎 @yon_ichiro

(2)簡単のため直角三角形で考えてみます。△ABCで、Aが直角だとします。斜辺BCの長さを、以下、Lと書きます。それから、辺ABの長さと辺ACの長さの和(足し算した結果)を、L1とします。当然、L<L1であるはずです。BからCへいくのにAに寄り道したらそりゃあ道のりは長くなる。

2013-01-08 22:15:03
四一郎 @yon_ichiro

(3)さて、辺AB、辺AC、辺BCの中点(ちょうど真ん中の点)をそれぞれB2C2M2とします。そして折れ線BB2M2C2C(3回直角に折れ曲がっています)の長さを、L2としましょう。…本当は図を描きたいところですが…この長さが、はじめの「2辺の和」L1と等しいです。

2013-01-08 22:18:54
四一郎 @yon_ichiro

(4)(少々くどいですが念のため)なぜL2=L1となるかというと、両者の違いB2A+AC2B2M2+M2C2 、これがどちらも長方形 B2AC2M2 の隣り合う2辺の長さの和なので、等しいのです。

2013-01-08 22:23:07
四一郎 @yon_ichiro

(5)(しまった、△ABCを直角二等辺三角形にしておけば記述が楽だった。まあしょうがない。)で、これと同じようなことを繰り返していきます。折れ線BB2M2C2Cは4つの線分からなりますが、そのそれぞれの中点を取る。一方、斜辺BCを4等分する点をとる。これらを、直角に折れ曲がる

2013-01-08 22:25:58
四一郎 @yon_ichiro

(6)階段状の折れ線になるように結びます。曲がり角が7つある、8つの線分からなる折れ線ができあがります。この長さをL3としますと、L3=L2=L1ですね。ただ、最初の「辺ABと辺AC」からすると、折れ線全体がかなり「斜辺BC」に近寄ってきました

2013-01-08 22:28:17
四一郎 @yon_ichiro

(感謝) @kuromunori が、今の話の図を作ってくださいました。 http://t.co/eyDXpbKX ありがとうございます! 皆様ごらんください。

2013-01-08 22:32:17
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四一郎 @yon_ichiro

(7) 以下同様に「線分の中点どうしを結んで新しい折れ線を作る」ことを続けていくと、どんどん、もとの斜辺BCに近い場所に折れ線がやって来ます。しかし、その長さはL1=L2=L3=L4=L5=L6=……、つまり、ずっと最初の折れ線BACから変わらないはずです。

2013-01-08 22:34:47
四一郎 @yon_ichiro

(8)折れ線自体はどんどん斜辺BCに近づいていくのだから、その長さはLに近づいていきそうなものです。つまり、L1、L2、L3、L4、…Ln、…と続く長さの列は、Lに近づきそう。しかし実際には、L1、L2、L3、L4、…Ln、…は全部最初のL1に等しく、そしてL<L1なのです。

2013-01-08 22:37:02
四一郎 @yon_ichiro

(9)一方ではL=L1と思えて、他方ではL<L1である、というのですから、何かがおかしい。こういうのを逆理(パラドックス)ということがありますが、酒場のネタならともかく、数学で「おかしいねーへんだねー」で済ませるわけにはいきません。L=L1っぽくみえる今の推論、どこが誤りか。

2013-01-08 22:40:45
四一郎 @yon_ichiro

(10)作図自体に怪しいところはなく、L1=L2=L3=…も確かです。そして、折れ線をどんどん作っていくと、その位置が、斜辺BCに近くなるのも確か。長さが一定値L1である折れ線の位置が、長さがLである斜辺BCの位置にどんどん近づいていくのだから、L1=Lだろう。おや?

2013-01-08 22:44:04
四一郎 @yon_ichiro

(11)いま、くどめに書いたので、気づかれた方もいらっしゃるでしょう。ポイントは、「折れ線の位置が近づく」ことと、「折れ線の長さが近づく」ことが、別物だ、ということです。…で、その理解には本当は「位置」「長さ」「近づく」という概念についての反省が必要なのですが、まずはライトに。

2013-01-08 22:47:43
四一郎 @yon_ichiro

(12)九十九里浜三陸海岸がいいかな。海岸線の測定(地図作り)って、現代の技術ではどうするのか私は知らないのですが、昔『まんが日本の歴史』で見た伊能忠敬さんは、長い海岸線を短くまっすぐな線(線分)で区切って測っていました。それを、冒頭の2つの海岸でやってみたとしましょう。

2013-01-08 22:51:47
四一郎 @yon_ichiro

(13)九十九里浜のっぺりした凹凸の少ない海岸です。短い距離の測定を繰り返せば、快調にどんどん先に進めるでしょう。一方、三陸海岸は(切り立っているから大変なのはおくにしても)なにしろ海岸線が細かく凸凹しています。測定は何回もくるくる方向を変えざるを得ず、時間がかかりそうです。

2013-01-08 22:54:18
四一郎 @yon_ichiro

(14)で、測定にかかる時間・手間は、そのまま「測定された海岸線の長さに関係するでしょう。要するに、九十九里浜の海岸線と三陸海岸の海岸線だと、後者の方が長い。大雑把な地図でだいたい同じ長さに見えても、実際には、なだらかな九十九里浜より入り組んだ三陸海岸の方が、海岸線は長い

2013-01-08 22:57:17
四一郎 @yon_ichiro

(14補)(この海岸線の譬えで、もうわかった!っていう人もいるかもしれません。実際、『逆理L=L1』の論破にはこれで十分だとは思います。ただ、私としては、そのあと「長さとは」「曲線とは」ともう少しひつこく話したいので……)

2013-01-08 23:00:06
四一郎 @yon_ichiro

(15)三角形の話に戻って、たとえば、長さL100の折れ線を考えてみましょう。これは、斜辺BC上を〈2の100乗〉等分した点を通る折れ線で、紙にペンで書いたらほとんど斜辺BCと区別がつかない。というか、インクや紙の分子の大きさでは折れ線と斜辺の違いを書くことはできません。

2013-01-08 23:04:25
四一郎 @yon_ichiro

(16)しかし、数学はイデアをみる学問ですので、折れ線はあくまで折れ線。ぱっと見にはなだらか(今の場合はまっすぐ)な斜辺BCと区別がつかないようなものであっても、実際には、ものすごく細かく、ジグザグしていて、その凸凹はどこまでいっても消えないのです。

2013-01-08 23:06:36
四一郎 @yon_ichiro

(17)折れ線を作る作業を進めるにつれて、ジグザグがどんどん小さくなっていくのは事実です、しかし(ここを見落とす人が多いのですが)、そのジグザグの数自体は増えていく。一つあたりの凸凹が小さくなっても、凸凹の総数が増えていくので、結局凸凹全体の長さが変わらないのです。

2013-01-08 23:08:23
Nowtucker_O'Stone @tree_frog_o

@yon_ichiro せんせい、こうですか。ぼくにはもうこれ以上かけません… http://t.co/YjkHfT2G

2013-01-08 23:09:41
四一郎 @yon_ichiro

@tree_frog_o まさにそういうことです。ありがとうございます! 物質物体を相手にすると4回の操作でもう結構大変なのですが、なにしろ数学はイデアだけでやっていけるもので、何回でも、折れ線を作る操作を続けていけるのですね(そういうことに対して哲学的な反論もありますが)。

2013-01-08 23:12:21
四一郎 @yon_ichiro

(18)折れ線をどんどん作っていっても、ジグザグが消えず、長さは短くならない。その一方で、折れ線の位置は、確実に斜辺BCに近づいていきます。しかも今の場合「折れ線のどの部分も、一斉に同程度に近づいていく」ので考えやすい。数学では〈一様に uniformly 収束する〉といいます。

2013-01-08 23:16:34
四一郎 @yon_ichiro

(19)もう少し正確に。うんと小さい正の数εがあったとして、斜辺BCの周りからの距離がε以内であるようなエリアを作ったとします。どんなにεを小さく設定されていたとしても、折れ線を作る作業をある程度の回数こなせば、そこから先の折れ線はすべて例外なく、そのエリア内に入りますね。

2013-01-08 23:20:10
四一郎 @yon_ichiro

(20)「折れ線がエリア内に入る」というのは、「折れ線のどの部分もまったく例外なく、一斉に、エリア内に入る」ということで、図形としてのまとまりを保持したまま、折れ線たちが斜辺BCに近づいていく様を表しています。図形としては、折れ線は申し分なしに斜辺BCに近づいているのです。

2013-01-08 23:24:27