「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」#7 (終)

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Astal_jukebox @astral_jukebox

―「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」#7

2013-01-10 17:44:08
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2013年4月11日(木)09:30。 新渡町星咲学園中等部1-A教室。 1

2013-01-10 17:44:18
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一時限目・現代文授業中。「…随筆や説明文などに限らず、現代文では何よりも要点の把握が大事な訳ですね。自分がいつも読んでいる本や、現文に限らず教科書なんかで練習してみるのも良いと思いますよ。それと進級を機に普段読まないジャンルの本も読んで視野を広げて見るのも力になります」 2

2013-01-10 17:44:35
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担当教諭は担任でもある愛川由理。初回なのでガイダンス的な内容である。「せんせー、普段の授業で手が一杯です~」ぼやく生徒。「そう難しく考えなくても大丈夫よ?例えば皆ライトノベルとか読まないかしら?」半数以上の生徒が直接無いし心中で頷く。 3

2013-01-10 17:47:45
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「低俗だなんて軽視されがちだけど、表現の多様性は『一般』と変わらないわ。有名文学にラノベ風のイラスト付きで新装されたりしてね。内容も『難しい』ライトノベルもたくさんありますし、「線引き」はここでは特に語りません。勿論難しいのが良いとも限らないけど」 4

2013-01-10 17:53:22
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「先生!じゃあ内容が難しいのと簡単で分かりやすいのはどちらが優れてるんでしょうか?」「んー」生徒の質問に考える素振りを見せる。「他と比べて『優れた』作品というのは確かにあるけど、私は難解さは評価の指標ではないと思うわ。最後は何を書きたいか、テーマの問題だと思ってます」 5

2013-01-10 17:58:35
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「テーマですか?」「筆者の伝えたいテーマが読者に受け入れられるか。そしてテーマを読者に正確に伝えられて、分かってもらえる力こそが作家の才能だと思います。そのテーマが多くの共感を呼ぶもので、それに才能を掛け合わせたものこそが評価の対象だと私は思いますね」 6

2013-01-10 18:06:11
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この話こそが正に難解ではあったが、アクセントや間に配慮した語り口と聞きやすい声により生徒達は聞き入っていた。「難しい話になっちゃいましたけど、みんな今は簡単で読みやすいので良いから色々読むと良いと思うわ。色んな作者の世界観や観点に触れるのはイイ刺激よ? 7

2013-01-10 18:13:13
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「どんな難しそうなジャンルにも親しみやすい簡単なのもあるわ。来週辺り参考になるのを持って来るわね。友達と面白いのを教え合うのも良いですね…浅空社長?」由理の言葉と視線に、全員の視線が重役出勤の勇矢に突き刺さる。音も無く前扉を開け、着席しようとしていたところだった。 8

2013-01-10 18:16:45
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勇矢の表情が凍りつく。「ゆ…浅空君…どうせならいっそ5分待ちなさい。ダメよ。この授業は欠席扱いです」「え欠席あつかいはしかたないけどそんないいかたヒドイですよ」棒読みで答える勇矢。「最後の5分だけでも「愛川先生」の授業に出たかったのに」「あら嬉し」「嘘だけど」「……」 9

2013-01-10 18:30:04
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3秒以内に訂正したのでセーフである。嘘であっても嘘ではない。「……くっ、二時限目の優祈に間に合わせたわね」「はい」「内申は覚悟しなさい」「え」「さもなくば今言ったプリント作りを手伝いなさい」「…ヨロコンデー…と言ったなあれは嘘だ」3秒ルールによりセーフ。 10

2013-01-10 18:39:48
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「嘘なの?じゃあ」「いや手伝いますよ」嫌そうな口調だが、表情は妙に爽やかだった。…終了間際の貴重な1分を奪われながらも由理はチャイムが鳴り終わる時と正に同時に予習範囲を伝え終えた。その間勇矢は苦い顔で廊下側を向いていた。 11

2013-01-10 18:42:31
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由理は教室を出る際に、余人ばかりか本人にすら分からぬ角度で勇矢の足を踏みつけて行った。勇矢の顔はまた幾分明るげになった。 そして休み時間。席の離れた起矢と裕岐が挨拶に来た。「おはよう、浅ット。今日は冷えるなええ?」「おはようユウ…どうした?」 12

2013-01-10 18:50:57
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「お早う。七橋と…龍矢(たつや)?」「!?」勇矢が起矢(たつや)の名を『呼んた』ことに裕岐は驚愕する。勇矢は続けた。昨日のアレのせいで今日に響いてね」勇矢は忌々しげな口調で溜息を吐く。口調に反して表情は明るい。「そのアレって結局何なん?」「気にするな!わかったか」 13

2013-01-10 18:52:09
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「アッハイ」起矢の問いを勇矢は封殺。「だからあれ程帰るってたのに全く参ったわ」「あの…ユウ?」「なんです?」「それ嘘じゃないよな?」「昨日嘘を吐けとか言ったのは誰だよ…」呆れ顔になる浅空勇矢。彼は自覚が無いらしい。「分かってないなら、取り敢えず良いんだ…」「?」 14

2013-01-10 18:52:37
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ここで横にいた湊が話に入った。「人のせいにしないでくれます?部員全員でミーティングするって事前に言った筈ですよね」「…まさか僕が含まれていようとは思ってなくて」「…うわ」湊のゴミを見る目線で、勇矢の表情は一層回復する。「いやとっくにアナタ部員ですから。自覚持ってください」 15

2013-01-10 18:57:49
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「自覚…?」意図を図りかねる勇矢。彼女は勇矢を道具として見ている。本人が以前そう告げていた。その扱いを納得した上でご褒美と捉えてはいた。(良いけど、それで部員の自覚持てと言われても…)「ユウ!」「?」裕岐が耳打ちする。その声は勇矢と湊にだけ届いた。 16

2013-01-10 18:58:33
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「頼りにされてるってことだろ?昨日も弱点突いた上でワザと引き分けにするとか、他の皆には出来ないだろ?」((この野郎気付いてやがった…))期せずして勇矢と湊の思考がシンクロした…裕岐も恐らくあの場では騙された筈だ。後から冷静に分析して智明…いや湊の計画を見抜いたのだろう。 17

2013-01-10 19:01:16
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智明は元々実力だけで主力機の座を勝ち取るつもりだった。彼は正攻法での優勝を狙っている。その為のプレゼンでもそのつもりだった。が、湊がそれだけでは足りないと演出を強く勧めたのだ。話し合いの末、最終的には智明が折れ隆光も従った。必死で抵抗する程には卑劣な策でも無かったからだ。 18

2013-01-10 19:14:41
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(やっぱり、この人は扱い辛い)湊は心中で嘆息する。「伊都谷」「!?…な、何です?」「ちょっとこっちへ」廊下へ連れ出される。勇矢達を残して。「何ですか?」「その…ユウのこと宜しくな」「…え?」「アイツ今凄い良い顔してるからさ…AB部のために働くのが楽しいんだと思う」「……」 19

2013-01-10 19:14:52
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「でもな…」元々教室には聞こえない程度だった声を更に潜めて続ける。「あまり変な真似をさせたら許さない。本人が乗り気だとしてもな」特に語気を強めるでも無く、真顔で裕岐は言う。その表情から読み取れる感情は、怒りや憎悪、憂慮などでは無く、ただ誠実、実直。 20

2013-01-10 19:29:01
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だから湊もこう返した。「信用して下さい…私はともかく智明さんは誠実な人です。私はそれに従うだけです」顔立ちは無論似ても似つかない二人だが、この瞬間の湊の表情は、目の前の裕岐と鏡映しの様だった。「分かった。信じる」軽い笑顔でそう裕岐は返した。 21

2013-01-10 19:31:26
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起矢と戯言を話している勇矢。「……俺だって元コマ…あ、そうだ七橋、ちょっと伝言が」何かを思い出したらしく、呼びかけてきた。ちょうど二時限目も近い。「待ってくれ、今行く!」二人は教室の中に戻る。『伝言』を聞き終えると丁度チャイムが鳴り始めたので、裕岐は席へ戻っていく。 22

2013-01-10 19:35:54
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着席の直前、横から声が掛かった。「七橋君」「観崎?」チャイムが半分ほどなったのに座る気配が無い。何か言いたげだった。下げかけた腰を上げて無言で続きを促した。「色々…彼を借りることになるだろうけど、済まないね」「ああ、いや。俺に言ってもらう事じゃあ…こっちこそユウが…」 23

2013-01-10 19:39:03
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「手短に言おう。彼に危険が迫っているかも知れない」「!?」「週明けには多分話せると思う…君の力も貸して貰うかも知れない」「分かった」間をおかず返事をした。二人は着席する。チャイムは鳴り終わったが、二時限目の教師は30秒ほど遅れてきたので咎められはしなかった。 24

2013-01-10 19:43:27