「科学vs工学vs社会」という三項のせめぎ合い、その扱い方

関連してこちらのまとめも作りました。(2013/01/27) 『現在の規制委員会のミッションはあくまで政治的正統性の獲得にある 』 http://togetter.com/li/445717
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Hideyuki Hirakawa @hirakawah

見逃してたんだけど、去年10月末にこんな記事が日経に載っていた。(先日、ある授業で使った教室にコピーが残ってて知った。)「せめぎ合う理学と工学 原発が問う活断層の定義」 http://t.co/OiXXsDUB

2013-01-26 05:05:22
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)いま話題になっている原発の安全基準における活断層論争の本質を突いてる良記事。どの先生が使ったのかわからんけど、これは確かに格好の授業資料だと思う。

2013-01-26 05:05:36
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ただし留意しなければならないのは、活断層問題でせめぎ合ってるのは、実は理学(科学)と工学だけではないということ。もう一つ「社会」というファクターもせめぎ合っている。

2013-01-26 05:05:45
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)これについて記事は「規制委の科学的な判断を曲げることなく、エネルギー安定確保という国家的な課題の中で社会にどう着地させるのか。原発の耐震強化など文字通りの工学的な解決策もあり社会的、政策的な手法もあるだろう」と述べてるが、この着地の仕方の判断に社会が加わる余地がある。

2013-01-26 05:05:54
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)この記事のポイントは次のようなこと。まず、これまでの原発の安全基準(耐震設計審査指針)では、「活断層」とは過去12万~13万年前以降に動いたものだというのが定義だった。

2013-01-26 05:06:02
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)これに対して地震学では、過去40万年以降に動いたものを活断層とするのが、今の地震学や地質学など地球科学の共通見解だそうで、原子力規制委員の島崎邦彦委員長代理(地震学)は、新しい安全基準もこれに合わせる方針でいる。

2013-01-26 05:06:11
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ちなみに記事に説明されているが、もともと耐震指針では活断層を「5万年以降」としていたのだが、未知の断層が動いた鳥取県西部地震(2000年)などを契機に改定され06年に「12万~13万年前以降」に改訂された。

2013-01-26 05:06:22
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ただしこの改定では、当初委員だった石橋克彦・神戸大学教授(当時)――東海大地震説の提唱者にして、今回福島で起きたような「原発震災」の危険性を最初に指摘した地震学者――は「50万年以降」を主張していた。

2013-01-26 05:06:33
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ところが、恐らくは「既存原発が1基も不適格にならない指針を目指していた」ことからか、この提案は拒否され、石橋さんは、結論に同意できないという理由で最終的には委員を辞任する。

2013-01-26 05:06:43
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ここには、記事が指摘するように、人間側の事情とは無関係な自然のメッセージを厳密に読み取る理学(サイエンス=科学)と、科学に基づきつつも、技術的達成可能性、費用対効果など人間社会の現実との折り合いを工学(エンジニアリング)との違い、せめぎ合いを見ることができる。

2013-01-26 05:06:50
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ただ、ここにある「人間社会の現実との折り合いをつける」という点にもう少しこだわると、せめぎ合ってるのは「社会」もだということが見えてくる。通常、この折り合いは「専門家判断」「工学的判断」と呼ばれたりするのだが、実はそこにはもっと広い社会的価値判断が含まれている。

2013-01-26 05:07:03
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)つまり安全向上にどこまでコストをかけるか、どのリスクなら受け入れられるか、安全確保に代わって何を犠牲にしても良いと考えるかなど、工学的判断の根っこは、世の中の人々がリスクについてどう考えるかにあるからだ。そこには、価値判断を誰がどこまで行うか、工学vs社会のせめぎ合いがある。

2013-01-26 05:07:31
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)ところで、この「科学vs工学vs社会」という三項のせめぎ合いという観点から見ると、311前後でその様相は次のように変化したということができる。

2013-01-26 05:07:51
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)まず311前。せめぎ合いの構図は「反原発運動(科学+価値判断)vs 国・電力会社(工学)」だった。ただし反原発の科学は得てして専門的な土台は弱い。専門家の数もデータも少ない(石橋さんはその数少ない専門家の一人)。このため裁判の場でも証言が正当に扱われないことが実に多かった。

2013-01-26 05:08:00
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)他方、国・電力会社が拠って立つのは価値判断を含んだ工学なのだが、しばしばこれは、価値判断を含まない科学のような装いに覆われていたのではないか。

2013-01-26 05:08:09
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)たとえば「想定外」とは、人知を超えた本物の想定外ではなく、想定はされるけれど発生確率が非常に小さいため無視してよいとする「想定除外」だ。そのように考えることは「割り切らねば設計なんてできない」という斑目・前原子力安全委員長の言葉の通り、割り切りであり、工学的判断の典型である。

2013-01-26 05:08:22
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)けれども多くの場合、原発の安全性に関する判断は価値判断を含まない客観的・科学的判断であると言われる。行政や電力会社、工学者自身がそう装ってきたし、世間の多くもそんなもんだろうと思ってきたのではないか。(「想定外は割り切り」と言った斑目さんは正直な方だといえる。)

2013-01-26 05:08:33
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)それはともかく、とにかく311以前のせめぎ合いは、反原発の「科学+価値判断」と、科学であることを装い、価値判断の余地を隠した国・電力会社の「科学の装いをまとった工学」のせめぎ合いだったといえる。

2013-01-26 05:08:44
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)これに対して311以降は規制委が活断層の基準を科学寄りに厳しくする構えであるため、一体的だった国と電力会社の間に対立線が生まれた。そうなると、法廷でも真正面から科学vs科学または科学vs工学の専門的論争が行われることになる。これは日本では新しい事態(米国ではよくある)。

2013-01-26 05:08:55
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)今のところは国vs電力の論争は、活断層かどうかの「科学vs科学」になっている。島崎委員長代理は「予断を持たずにものを見ることが基本だ。自然の伝えることに耳を傾ければ一致する」というように、科学で決着できるとしているが、問題はそれだけでは片付かないのではないか。

2013-01-26 05:09:04
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)第一に、活断層かどうか十分な証拠をもって決定できないケース。この場合、「証拠不足」として活断層ではないものとして扱うか、予防原則的に考え、「活断層ではないという証拠も足りない」として活断層扱いするか(つまり挙証責任を規制委と電力どちらに負わすか)は政策的判断になる。

2013-01-26 05:09:11
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)第二に、仮に科学的に活断層だと確定できた場合でも、その断層が動くことによる事故リスクをめぐって、「廃炉過程含めても百年に満たない施設の存続期間やエネルギー安定供給の点から見て即廃炉は過大な対応ではないか」などの工学的議論が立ちあがってくるだろう。

2013-01-26 05:09:26
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)また、即廃炉以外に、記事が示唆するように、追加の耐震措置を施したり、住民の防災体制を十分なものにするなどの技術的・社会的・政策的措置で対応するという選択肢もある。いずれにせよ、問題は科学では決着しきれず、工学的・政策的判断になり、その意味で規制委の扱える範囲を超える。

2013-01-26 05:09:34
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)そしてここで留意したいポイントは二つ。一つは国と電力の争いが法廷に持ち込まれた場合、科学・工学の専門的論争を現在の日本の裁判所の体制で扱いきれるかどうかという問題。もう一つは政策的判断はもちろん工学的判断にも工学者・政策立案者・裁判官だけでは扱いきれない問題があるということ。

2013-01-26 05:09:43
Hideyuki Hirakawa @hirakawah

続)要するに耐震強化など技術的対応や防災など社会的対応とそのコスト負担をどうするか、それでもゼロにはならない過酷事故のリスクを受忍するかどうか、何を取り何を諦めるかは、最終的には国民/市民が判断すべきことであり、通常は専門家や政策立案者、裁判官などに委任しているだけだということ。

2013-01-26 05:09:53