ギルティ・オブ・ビーイング・ニンジャ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サヨ、ナラ!」ニンジャキラーは爆発四散した。紅蓮の炎が装束と共に一瞬で分解し、吹きすさんで消えた。ニンジャスレイヤーはザンシンしたまま、しばし動かなかった。目の前には鈍い銀色のオベリスクがあった。ニンジャスレイヤーのメンポが軋みながら形状を戻した。瞳の炎が消えた。 1

2013-02-24 20:47:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて遠い背後でエレベーター到着のマイコ音声が微かに漏れ聴こえた。エーリアス、ガンドー、そしてウミノだ。ニンジャスレイヤーは振り返る。巨大トリイをくぐり、彼らと合流した。 2

2013-02-24 20:51:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーはニンジャスレイヤーを見た。そして言った。「やったのか」「終わった」ニンジャスレイヤーは頷いた。「戻るのか」とガンドー。「戻る……いや」彼は首を振った。「かつてとは、違った景色も見えよう」「ポエット」ガンドーは破顔した。「覚えてるか、お前。いつかの話をよ」「……」 3

2013-02-24 20:58:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「セキバハラ」ガンドーは言った。「あの時よ……俺はお前に、本当に全ニンジャを殺すのか?ザイバツを滅ぼす、そこまではよし。じゃあ、その後どうする?俺はそう訊いたんだよな」「アイエエ……」憔悴したウミノが会話の内容に反応し、震えながらエーリアスの腕にしがみついた。 4

2013-02-24 21:08:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「覚えている」ニンジャスレイヤーは頷いた。ガンドーは……自分で切り出したにも関わらず……呆気に取られた。「覚えてるのか。本当に?」「オヌシは私に探偵を勧めた。ニンジャの探偵だ」「へッ」ガンドーは苦笑した。「あン時は俺、まだニンジャじゃなかったな……今となっちゃァ、笑えねえが」 5

2013-02-24 21:08:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あの時、私は回答を保留したが」ニンジャスレイヤーは言った。「検討する時が来たな」「へ!へ!へへッ」ガンドーは口の端を歪めた。「まさかお前のほうからこの話が出てくるとはよ」「探偵!」エーリアスが表情を輝かせる。「実際、ドージョーのセンセイより冴えてるアイデアじゃねえかな……!」6

2013-02-24 21:24:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてニンジャスレイヤーは、今一度、銀のオベリスクを見やる。誰にともなく呟く。「……ようやく時が巡ってきたのやも知れん」踏み込むべき時が来たか。死闘のさなか、ほとんど顧みる事のなかった己の秘密を。ナラクの。ニンジャスレイヤーの。ニンジャの秘密を……。7

2013-02-24 21:33:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ギルティ・オブ・ビーイング・ニンジャ」#1

2013-02-24 21:50:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それから数日後、カッパドキアめいた険しさを湛える、神秘的な岡山県の山間……。 1

2013-02-24 21:56:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

平安時代の哲学剣士ミヤモトマサシは、かつてこの地に庵を築いてザゼンしたという。その空は厳粛で陰鬱だ。キョートリパブリックから流れてくる汚染大気が墨絵のように重く垂れ込めている。だがネオサイタマに比べれば遥かに空気は澄み渡り、セイシンテキなアトモスフィアに溢れているといえよう。 2

2013-02-24 22:03:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

切り立った岩肌。まばらに立つバイオ紅葉の中に、「ン」「ド」「ラ」と書かれた錆だらけの大型カンバンが立ち、谷底から登る白煙によって幽玄さという名のレイヤを重ねられている。俗世間の喧噪とIRCから隔絶された神秘的な世界……ここにはセイシンテキを求める隠遁者たちが集うのだ。 3

2013-02-24 22:12:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その中腹にある、由緒正しい十二階建ての大型オンセンハウス「マサシの悟り」。重金属酸性雨によって朽ちかけたこの灰色コンクリート建造物には、無数のボンボリが吊るされ、霧の中で柔らかに揺れる。長く険しい山道を登ってきたピルグリムたちは、その灯りを見ると思わず安堵の息を漏らすという。 4

2013-02-24 22:27:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この山岳部には非人工的オンセンが点在するが、それらはいずれも、ブディズムやドルイド信仰と結びついた、荘厳で峻厳なものである。ここにはマイコ遊びも女体盛りも存在しない。加えて近年は、高まるテクノピューリタン運動の影響を受け、インターネットや無線LANすらも完全に排斥されている。 5

2013-02-24 22:36:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マサシの悟り」の大駐車場では、二週間に一度、耐酸性雨PVCテントが張られ、大きな市が立つ。ここではテクノピューリタンの入植者たちがふもとで育てた農作物や家畜、あるいはハンドメイドのコケシなどが売られている。時には、巡礼者が持ち込んだデジタル機器や薬と物々交換される事もある。 6

2013-02-24 22:44:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

霧けぶるその市場の中に、フジキド・ケンジとドラゴン・ユカノもいた。周囲のピルグリムたちに溶けこむように、ジュー・ウェアを着ている。「いいラマね」ユカノがバイオラマの口を優しく開き、舌や歯を確かめながら言った。「山道に強いです」生体LAN端子を埋めたテクノピューリタンが答える。 7

2013-02-24 22:57:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ラマは本当に必要なのか」フジキドが問う。「文明はここまでです。この先はあなたの足で登れる場所じゃありません」テクノピューリタンは分厚いフードの下で穏やかな笑みを作った。埋められた右のサイバネ義眼の周囲が痛々しく変色していた。サイバネ義手も錆び果て、切除される日は近いだろう。 8

2013-02-24 23:08:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フジキド、私はおそらくあなたより何倍もラマに詳しいでしょう。荷物を運ぶのに役立ちます。それに……ラマにしか見つけられない道も、時には存在する」ユカノが言う。彼女はドラゴン・ゲンドーソーの孫娘であり、愛弟子であり、ニンジャスレイヤーの兄弟子であった。そして今は探索者でもある。 9

2013-02-24 23:19:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まさか、伝説のミヤモトマサシの庵を求めてあの禁断の高地へ?」テクノピューリタンが問う。「そのつもりだ。ガイドは要らぬ」フジキドが答える。テクノピューリタンは何も答えなかった。マッポーの世だ。時折このような世捨人がネオサイタマから来る。彼は二人の魂の安らかなることを祈った。 10

2013-02-24 23:32:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バイオラマを連れた二人は、市場で買った道中での食料を鞍に括り付け、「マサシの悟り」へ戻る。「早速役に立ったでしょう」ユカノがラマを撫でながら言う。フジキドは大型動物の扱いには慣れていない。「すぐに発つか」「霧はあと……二時間ほどで収まる。それまではオンセンで鋭気を養います」 11

2013-02-24 23:44:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはユカノの神秘的知識に従った。二人の関係は複雑だ。ユカノの正体は数千年を生きるドラゴン・ニンジャ……しかし彼女の記憶は謎めいた理由により断片化され、カラテも伝説的ワザマエからは程遠い。ゲンドーソーの死により、彼女がどれほどの苦悩を経験したか、フジキドは思いをいたす。 12

2013-02-24 23:57:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョート城からの生還後、ユカノは己のカラテとニンジャ神話知識を取り戻すため、世界中をシュッギョした。エジプト、アステカ、チベット、ローマ……そうした古代ニンジャ文明ゆかりの地を訪れ、幾つかのオーパーツを携えてネオサイタマへと戻ってきたのだ。フジキドを探索行へと誘うために。 13

2013-02-25 00:05:55