茂木健一郎（@kenichiromogi）さんの連続ツイート第９０７回「ツイッターと、村上春樹」

茂木健一郎 @kenichiromogi

成田空港帰国なう。

茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート９０７回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、今日発売されるあの小説にちなんで。

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つむ（１）村上春樹さんの新作が発表された。深夜０時から書店が売り出し、朝日新聞がソッコーで書評するなど、一種の社会現象となっている。私自身も、おそらく近日中に読むのではないかと思う。どんな小説か、とても楽しみである。

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つむ（２）ところで、私が本を書き始めて、出版業界の内情を知るに到った２０年前には、村上春樹さんを巡る社会の雰囲気がだいぶ異なっていたことを覚えている。編集者、とりわけ文藝系の編集者、あるいは作家の方としゃべっていると、村上春樹さんの小説について、賛否両論の状況だった。

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つむ（３）そんな中で、村上春樹さんが、日本のメディアに対して基本的に沈黙している理由も、何とはなしに推定できるようになった。もちろん、これはご本人にしかわからないことだし、あくまでも推論であるが、要するに日本の文壇が村社会で、村上さんに対してひどい仕打ちをしたということだろう。

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つむ（４）村上春樹さんが社会現象になったのは、『ノルウエーの森』で、当時私は大学院生だった。村上さんの小説を好きだという人には、それ以前からの筋金入りがいて、あるいはその後でも純粋に小説が好きだという人も多い。その人たちに幸あれ。そのような読者は、外国にも多いように思う。

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つむ（５）一方、村上春樹さんが海外で評価され、ノーベル賞候補となった後に、手の平を返したようにイナゴの群れとなった日本の村社会の住人たちには、同情などしない。みっともないものだと思う。そのような粘着質の定見のなさが日本の社会の特色ではあるが、彼らの振る舞いはよく覚えて置く。

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つむ（６）ところで、村上春樹さんが（その起源が、日本文壇の仕打ちでどれくらい説明できるかわからないけれども）日本の中で、沈黙を守っていることは、村上さんに神に近いオーラを与えることになった。遠藤周作さんの名作のテーマになったように、神は沈黙するのである。

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つむ（７）基本的に村上春樹さんはお話にならないから、メディアは、ごくわずかな情報源に飛びつく。海外のスピーチや、時折寄稿されるエッセイが事件となる。その際に知る村上さんの哲学は好きだが、イナゴのように飛びつくメディアの方は、すでに述べたような理由であまり好きではない。

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つむ（８）つまり、村上春樹さんは、ツイッター的な現代の対極にある。ぼくは、ツイッター側にいて、村上さんのようなあり方を、まぶしく見ている。同時に思うのだ。ツイッター上に常駐しているような人たちの中にだって、本当は「神」の似姿はあるんじゃないかなって。

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つむ（９）意識は神の似姿であり、それは他者には絶対にアクセス不能である。ツイッターで散らされる情報は、本質から目をそらさせる花火に過ぎない。ソーシャル・メディアは、孤独を解消などしない。魂の孤独を書いているからこそ、村上さんの小説は、ネット全盛の現代に私たちを惹きつける。

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以上、連続ツイート９０７回「ツイッターと、村上春樹」でした。