椹木野衣さんの新潟・角海浜訪問記
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2013/4/20
新潟県、角海浜。かつて、ここにも原発を作る計画があった。東北電力による、いわゆる「巻原発」計画だ。だが、条例制定後、初の住民投票で反対が多数を占めると、紆余曲折を経て推進派が敗北。電力会社は用地の取得には成功するも結局、計画は全面的に頓挫。現在はわずかにその痕跡を残すのみと聞く。
2013-04-20 12:10:13角海浜はまわりを山に囲まれた小海岸。アクセスも難しい。しかも、波欠け(マクリダシ)と呼ばれる正体不明の周期的な浸食現象で、わかっているだけでも、かつてと比べ600mも海岸線が後退しているらしい。事故を誘発し、事故後の対応も困難となる場所を選んで立地計画を立てているとしか思えない。
2013-04-20 12:11:15角海浜の周囲には、かつて二百を越す民家があり、いわゆる「毒消し売り」で栄えたようだ。しかし、家ごと海にさらっていくマクリダシの被害は容赦なく、次第に衰退。江戸末期から過疎の一途を辿り、1960年代末には戸数も一桁となってしまう(現在は廃村)。原発計画が伝えられたのはこの頃のこと。
2013-04-20 12:12:33また角海浜では、かつて「鳴き砂」が聞けたらしい。もしかすると、この珍しい現象と大規模な浸食現象とのあいだには、なにか関係があるのかもしれない。とにかく、このマクリダシと毒消し、鳴き砂と原発頓挫で塗られた不思議な由来を持つ海岸の地形と姿を、この眼で確かめてみたいと考え、思い立った。
2013-04-20 12:15:38昨年、新潟市で開かれた「水と土の芸術祭」では、この角海浜の近くにも会場が設置されていた。僕はそこまで足を運べなかったのだが、その由来に惹かれて文章を書いたのがきっかけで、現地の写真家で角海浜を撮り続けてきた斎藤文夫さんから声が掛かり、いま、こうして角海浜へと新幹線で向かっている。
2013-04-20 12:17:31この角海浜への小旅行は、話を進めるにつれ、佐渡出身の美術家モリトくん、新潟在住で岡本太郎の研究者の貝瀬さん、原発計画にも詳しい角海浜の郷土史家の斉藤さん、それに水と土の芸術祭のプロデューサー小川さんも同行してくれることになった。作品も残っているようなので、併せて観て来ようと思う。
2013-04-20 12:20:21「鳴き砂」という美しい浜の芸術と、「マクリダシ」という容赦ない海の脅威が葛藤し合う「角海浜」。もしかしたら、この地ほど「水と土の芸術」 の名にふさわしい地もないかもしれない。加えて幻の原発計画。角海浜という忘れられた「悪い場所」は、現在の僕の批評的関心を集約するような予感もする。
2013-04-20 12:21:40