ゼア・イズ・ア・ライト #1
「スゥーッ……ハァーッ……」チャドー。チャドーせよ。フジキドは再びジュー・ジツを構える。眼前の巨身を見据える。輪郭が陽炎めいてぼやける。まだ。まだだ。チャドーせよ。セイシンテキ。「スゥーッ……ハァーッ……」「終わりだな」インターセプターは恍惚じみて告げた。「既に勝負ありだ」 1
2013-05-04 17:31:19ナラク・ニンジャの存在アトモスフィアは既に無い。フージ・クゥーチの言葉はブラフではなかった。ナラクは今やサップーケイに囚われ、恐らくはデソレイションらを相手に、無限の闘争を強いられている。 2
2013-05-04 17:36:18そしてフジキドもまた……ナラク同様、目の前のインターセプターとは別の敵を、同時に相手にせねばならない状況に置かれている。呪詛を。ニューロンの同居者を。泣き腫らした目で上目遣いに睨むディグニティのおぼろな姿を。 3
2013-05-04 17:40:50修道女じみたニンジャ装束は血にまみれ、不気味な砂嵐ノイズで継ぎ接ぎの輪郭、その顔は憤怒に歪み、フジキドを苛む言葉が小刻みに動く唇から無限に吐き出され続けている。ザリザリ……記憶の残滓めいたその姿を補う存在がある。ディグニティの皮を被るオバケが。 4
2013-05-04 17:46:40(((私は誰だ……私は誰だ……)))呪詛の奥底に流れる問いに、フジキドは答えられそうに思う。だが……まるで水を浴びせられたショドーのように、記憶はおぼろにぼやけ、歪められている。ディグニティの憤怒の形相が数秒に一度、僅かコンマ01秒、その者のサディスティックな笑みに切り替わる。5
2013-05-04 17:50:58「スゥーッ!ハァーッ!」チャドー!フーリンカザン!そしてチャドー!フジキドは呪詛のフィルタがかけられた視界で、インターセプターの巨躯を睨む。「ニンジャスレイヤー恐るるにたらず……もはや非ニンジャの屑と大差なし」インターセプターは絶対防御カラダチの体勢を解かぬ。彼に慢心無し。 6
2013-05-04 17:56:48ニンジャスレイヤーは必殺の一撃を見舞うべく、機をうかがう。ナラクを封じ、以てニンジャスレイヤーを無力化したと考えているのならば、全くの安易!カラテでそれをわからせてくれよう。「スゥーッ……ハァーッ……」 7
2013-05-04 18:00:33(((あなたは理由が欲しいだけ)))ディグニティが責める。(((あなたは安心したい……殺す理由をどうにかして見つけたい……既に妻子のカタキは討ったのに……あなたの戦いは無益……一生懸命生きているニンジャを理由もなく殺める……彼らは生きたかった……それをあなたは……))) 8
2013-05-04 18:05:33「黙れ……」(((ウフフ……あなた、嬉しかったんでしょう、慰霊碑が撤去された時。戦う理由を……灰をかき混ぜ、消えかけた炭をふうふう吹いて……アマクダリ・セクト……敵を憎む理由を……殺戮の正当化……セクトの陰謀?あなたには関係の無い事なのに!必死に生きるニンジャ達を!))) 9
2013-05-04 18:16:00「黙れ……」(((探偵……ウフフ……社会の中に身を置き、周囲と折り合って生きるニンジャを、あなたは難癖をつけて殺してまわる……その正当化のためにあなたが身に纏う欺瞞……彼らには何の罪も無い……人間と変わらない……あなたに何の権利があって?復讐?復讐は終わったのに!))) 10
2013-05-04 18:22:14「アハーアハー!ハーッ!ハーッ!」ディグニティは嬉しそうに笑い、血まみれの修道衣をゆるゆると脱ぎ始める。白い肩がむきだしになり、透き通る指が乳房をなぞった。「アハハハハ!」「去れ!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。「去れ!亡霊め!」「アハハハ!」おぼろな姿が爆発し消える!だが! 11
2013-05-04 18:32:29「俺は亡霊ではないぞニンジャスレイヤー=サン」そこには……ナムサン。絶妙の間合いに踏み込んだインターセプター。その拳の握りは中指の関節だけが他の指よりも飛び出すような特殊な形である。ニンジャスレイヤーは防御姿勢を取る。だが遅い。コンマ数秒遅い。それは葛藤による遅れだ。 12
2013-05-04 18:38:46「フンハー!」「グワーッ!」脇腹にこの極小打点打撃を受けたニンジャスレイヤーを、ロケットカタパルトめいた衝撃が襲う!ゴウランガ!これぞ暗黒カラテ奥義!ツヨイ・タタミ・ケン!インパクトから一瞬遅れ、ニンジャスレイヤーの体は斜めに吹き飛ばされた! 13
2013-05-04 18:42:35「ヤ!ラ!レ!ターッ!」全身からおびただしい血を噴き、ニンジャスレイヤーは頭から噴水ファウンテンに落下!ナムアミダブツ!「敗れたり!ニンジャスレイヤー敗れたり!」 14
2013-05-04 18:46:13「オゲエエエーッ!」そのはるか上空!広告マグロツェッペリンのバルーン上でアグラし、絶望的イクサを見下ろす第三者あり!ごま塩の短い髪、なめし革めいて日焼けした痩せた肌、ズタズタの装束姿の老人は、心底ヘドが出るというように吐き真似をし、耳に小指を突っ込んで、ボリボリと掻いた。 15
2013-05-04 18:50:19老人は小指を立て、耳糞を眺めた。それを吹いて飛ばし、首をボキボキと鳴らした。「くだらねえ!全く以て、議論のくだらなさ、ここに極まれり!」 老人はツェッペリン上で真っ直ぐに立った。彼は去ろうとした……その目が訝しげに細まった。「あン?」手をひさし代りに、彼は再度注目した。16
2013-05-04 18:58:22カラテにおいてニンジャスレイヤーを圧倒したインターセプターは、今まさに慈悲深きカイシャクをくわえるべく、のしのしと噴水に近づく。ファウンテンの水にニンジャスレイヤーの血が混じり、サツバツ色に染まっていく……。 17
2013-05-04 19:03:48「ドーモ。コヨイ・シノノメです」「ドーモ。シバタ・ソウジロウです」カコーン。二人のオジギにあわせるように、奥ゆかしいシシオドシが遠くで鳴った。顔を上げた時、コヨイは完璧な笑顔を貼付け終えていた。彼女は黒檀チャブを挟んだ対面の男を見た。対面の男もコヨイと同様の完璧な笑顔だった。 1
2013-05-04 23:01:49シバタはギリシア彫像じみて完璧に均整の取れた目鼻立ちの、非の打ち所の無い美男といってよかった。肌はなめらかな褐色であり、キモノを着ていても、その恵まれた体格は明らかだ。だが、コヨイは首筋にぞくりとした戦慄を覚えた。「……これは驚いた」シバタは本当に驚いた顔を作った。 2
2013-05-04 23:10:45カコーン。シシオドシが再び鳴った。シバタはややおどけた笑みを浮かべ、人差し指を口の前に持って来た。彼は目だけ動かして外の気配に注意を払い、それからコヨイに囁いた。「君もニンジャなのか」その目の奥で稲妻のパルスが走った。 3
2013-05-04 23:15:33