【twitter小説】死霊の末裔#2

死霊から自分の末裔の婚活を頼まれたレックウィル。なんとかしないと墓地は封鎖されたまま……ツイッター小説アカウント@decay_world で公開した短い小説です。お話はこれで完結です
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減衰世界 @decay_world

【あらすじ】死霊が大量発生した墓地に派遣されたのは霊障コンサルタントのレックウィル。化けて出たクリード公は自分の血が途絶えそうだと心配なのだ。その末裔が……いまだ独身であった

2013-05-24 17:40:20
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「あの娘は今年で31歳だ。だが嫁に行く気配は全くない……これでは私の血統が完全に途切れてしまう。ああ、悩ましい。それを思うと墓の下で安らかに眠れんわ」 「そんなこといっても……」  レックウィルは困ってしまう。まさか結婚相談所のまねごとをせねばいけないのか。 24

2013-05-24 17:43:53
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 とにかく、その女性の縁談を取りつければまた眠りにつくという。レックウィルはとりあえずその女性を訪ねるため墓地を後にした。縁談と言うのも難しい話である。クリード公の子孫と言えど、すでに没落し土地も財産も碌に持っていないのだ。これではなんの箔にもならない。 25

2013-05-24 17:47:59
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 クリード公の血統、レイラーグ家について調べれば調べるほど頭が痛い。所有していた城も遥か昔に手放し解体され街の建築資材になってしまっていた。いまは31歳の娘が一人しかいない。普通の縁談も難しい話である。彼女の家は街の外れの集合住宅にあった。 26

2013-05-24 17:54:44
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 集合住宅は表面のセラミックプレートも排ガスで汚れ、あちこちはげ落ちていた。錆びた階段を上り、409号室……いまレイラーグ家の末裔が住む部屋の前まで来た。表札には確かにレイラーグ家と書いてある。ドアは薄汚れ、安っぽい赤のペンキで塗られていた。ブザーを押す。 27

2013-05-24 17:59:44
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 ブブブとしばらく鳴った後、返事がした。大分年老いた女性の声だ。 「どなたですか?」  ドアを少し開け、初老の女性が訝しげに尋ねる。レックウィルは自分がここに来たいきさつを話した。どうやら納得してくれたようだ。 28

2013-05-24 18:04:41
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「ミレイリルー! お客さんだよ」  レイラーグ家の末裔、ミレイリル・レイラーグは奥の部屋にいるようだった。初老の女性は母親だという。しかしいくら母親が呼んでもミレイリルは姿を現さない。しびれを切らし母親が連れだしに行った。レックウィルはついていくことにする。 29

2013-05-24 18:10:06
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 家の中の家具や荷物などは名家の面影は無かったが、落ちついていて品のよさが感じられた。奥の部屋、ミレイリルの部屋を母親がドンドンと叩いている。 「いい加減にしなさいよミレイリル。何? 今起きた……?」  急にドアが開かれた。 30

2013-05-24 18:15:36
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 そこにいたのが、まさしくミレイリルだった。黒い髪はぼさぼさで、青白い肌をしている。くたびれた寝間着を着ていて、ぼんやりとしていた。 「えー、なに?」 「はじめまして、ミレイリルさん。わたしはレックウィル……」  背筋を伸ばし、レックウィルはお辞儀をする。 31

2013-05-24 18:20:08
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「あっ、あの、その……!」  ミレイリルはレックウィルの存在に気付くと、慌てふためいて部屋のドアを閉めてしまった。 「ごめんなさい、うちの娘は内気で……」  母親が言葉を濁す。なるほどこれは難題だ。しばらくミレイリルの準備があり、やっと話せるようになる。 32

2013-05-24 18:23:45
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 リビングのテーブルにレックウィルはミレイリルと座り、クリード公についての説明を行った。 「ご先祖様がそんなことに……」  ミレイリルにも悩ましい問題のようだ。彼女は悩みながら自分の紅茶にどんどん砂糖を投入していく。 33

2013-05-24 18:27:53
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「ですから、あなたに縁談を持ってくるのがいちばんの解決策なのですが……」 「そんなこと言われても……」 「ですよねぇ」  縁談と軽く言うものでもないし、言葉が続かない。しかしレックウィルも熟練のコンサルタントだ。このくらいの難問日常茶飯事である。 34

2013-05-24 18:34:45
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「ミレイリルさん」  レックウィルは真っ直ぐ彼女を見つめる。その視線にミレイリルは耐えきれず、思わず視線をそらしてしまう。 「な、なんでしょう……」  彼はふっと笑い表情を柔らかくした。 「砂糖、取ってくれませんか?」 35

2013-05-24 18:40:22
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「え、あ、はい」  砂糖を受け取ったレックウィルは自分の紅茶にスプーン一杯だけ砂糖を入れて話を続けた。 「物事は柔軟に。当たってダメならプランBです。あなたに……クリード公を説得して欲しいのです」 「え、ええっ!?」 36

2013-05-24 18:47:22
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 ミレイリルは驚いてしまった。死霊相手に交渉するなんて並の人間ではとてもできるものではない。だが、レックウィルはできるだけ安全を保証するという。生者と亡者の交渉の場を作るのも霊障コンサルタントの仕事の一つである。実際当事者の話し合いで解決させた事案も多いのだそうだ。 37

2013-05-24 18:53:15
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 ミレイリルはなんとかその案に了承してくれた。 「ご先祖様にはなんとか諦めてもらわないと……」 「そんなにお見合いは嫌かい?」 「……なんというか。いえ、何でもないです」  レックウィルが彼女を見つめると、また彼女は目をそらしたのだった。 38

2013-05-24 18:55:36
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「さっそく今から行きましょう」  戸惑うミレイリルを連れ出し表に出ると、レックウィルは機動スクーターのエンジンをかけた。 「さぁ、後ろに乗って」  レックウィルはシートの中の収納から予備のヘルメットを取り出し彼女に渡す。 39

2013-05-24 18:59:43
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「え、あ、はい」 「しっかりつかまって。安全運転で行くけどね」  ミレイリルはレックウィルの背中にしっかりと掴まった。パププププとエンジン音を響かせながら緑の機動スクーターは街を通り過ぎていった。ミレイリルはどこか嬉しそうにレックウィルの背中に掴まっていた――。 40

2013-05-24 19:02:38
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「よく来たな、我が末裔よ」  そして墓地である。白い靄のような浮遊霊は墓地の道に沿って直立で整列していた。クリード公は前と同じように朽ちた石碑に腰をかけている。頭には錆びた王冠。 「あの、ご先祖様、わたし……」 42

2013-05-24 19:12:01
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「よい。これでいいのだ。わたしは眠りに就こう」  レックウィルはたちは呆気に取られてしまった。どういう風の吹きまわしだろうか。整列していた浮遊霊が次々と霧散していく。クリード公はレックウィルを近くに招き寄せた。そして彼に耳打ちする。 43

2013-05-24 19:19:46
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”ミレイリルはお前が好きになったみたいだからな。後は頼むよ” 「え?」  振りかえると、ミレイリルがレックウィルを見つめていた。彼の視線に気付くと、慌てて視線を逸らす。 ”そんなこと急に言われても……” 44

2013-05-24 19:32:42
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 囁き返すが、クリード公はうんうんと頷くばかりだ。 ”わたしの末裔をよろしく頼む……もし何かあったら呪ってやるからな” 「そ、そんな……」  そしてクリード公は昼の風の中に消えていったのだった。 45

2013-05-24 19:37:19
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「凄いです! レックウィルさん……亡霊を一瞬で……」  事情を知らぬミレイリルはさらに目を輝かせている。さて、どうしたものか。 「是非弟子入りさせてください! お茶くみでも何でもやりますから!」  どうしたものか……どうしたものか。 46

2013-05-24 19:41:27