「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」#3後編・再放送Ver(実況なし)
レオパルドにはもう1年以上も前の事のようにも思えるが、実際には今から約1ヶ月前の出来事だ。ハッカー2人、スラッシャー1人、スモトリ1人の構成で、ここと良く似たマルノウチ界隈の高層マンションをアタックしていた。ニンジャになる前の彼の職業は、スラッシャー。武器はカタナだった。 1
2013-06-03 21:06:15ペケロッパ・カルト出身の優秀なハッカー2人が、奇怪なジャーゴンを唱えながらドアの電子錠をハックした。直後、四人は部屋の中へと殺到したのだ。室内には、黒い革張りのソファー、クリスタル製のテーブル、壁にはぎらぎらとした鋭い輝きを放つカタナ、大型金庫、その上にはタヌキの置き物が…。 2
2013-06-03 21:10:15すわ、ヤクザ事務所か? 4人の直感を裏付けるように、豪奢なヒノキ材テーブルの後ろには、『キング・オブ・ゴリラ』と威圧的なカタカナで書かれたショドーが、悪趣味な金縁の額に入って飾られていた。キング・オブ・ゴリラといえば、ネオサイタマでも有数の暴力的ヤクザ・クランだ。 3
2013-06-03 21:13:26だが不思議なことに、敵の気配は無い。何らかの理由で、ヤクザたちが全員出払っているのか?それとも休業日なのか?どちらにせよ、僥倖である。営業日のヤクザ事務所にアタックをかけていれば、返り討ちにあっていただろう。さらに今、自分たちはヤクザ事務所の金庫を開けるチャンスすら得たのだ。 4
2013-06-03 21:17:15事を急ごう。ヤクザたちが不意に帰ってくる前に、金目のものを全て盗み出すのだ。ハッカーの1人は金庫の物理カギ解除を試み、もう1人のハッカーは直結するためのLANポートを探した。スモトリとスラッシャーもドアや窓の外を警戒しながら、机の引き出しを開けにかかった。その時である! 5
2013-06-03 21:20:03「金庫物理カギ、解…じょ…? アバ…アババババババーッ!」金庫の前にいたハッカーが、絶叫とともに卒倒した!三人が驚き振り向くと、タヌキの置き物の頭が左右に割れ、ガスが噴出していたのだ!すぐにガスは部屋中に満ち、四人は電流プールに放り込まれたマグロのように横たわり痙攣していた。 6
2013-06-03 21:23:16明らかなトラップだった。暴徒鎮圧用のガスであろう。意識ははっきりしているが、体が全く動かない。冷や汗だけが流れる。十分後、事務所のドアが開き、10人程の人影がどかどかと入り込んできた。ヤクザかと思ったが、違った。片腕がダイヤモンドチタン製義手のデッカーと、数名のマッポだった。 7
2013-06-03 21:27:16マッポたちからノリベ=サンと呼ばれるそのデッカーは、近くにいたスモトリの頭を踏みつけながら、スプレーをかけられた瀕死のコックローチに説教をたれるような口調で、こう言った。「ヤクザクランの事務所だと思ったか?残念だったな、ここはネオサイタマ市警第49課が作ったトラップルームだ」 8
2013-06-03 21:31:15「やれ、無力化しろ、虫どもはまだ動いているぞ」と、デッカーは嘲笑うように言い放った。過剰夜勤で死んだマグロの目をしたマッポたちが自動人形のように動いて四人を囲み、腰に吊った警棒やジッテやマッポブーツの爪先で徹底的な暴力を加えた。(((アイエエエ!)))四人は声も出せなかった。 9
2013-06-03 21:35:23「ハァーッ!ハァーッ!ノリベ=サン、こいつスモトリです! 蹴っても痛みを感じません!」マッポの一人がそう報告すると、ノリベは冷たく言い放った。「お前の銃をこいつの手に握らせろ」「ヨロコンデー!」マッポが倒れたスモトリの手に銃をあてがうとノリベはデッカーガンのトリガを引いた。 10
2013-06-03 21:39:17「やめてください、許して…逮捕してください…」飛び散ったスモトリの脳漿を浴びて顔面蒼白におちいったペケロッパの1人が、声帯ではなく掌にインプラントしたスピーカーから電子音声で訴えた。「残念だったな」ノリベはペケロッパの腹を蹴りつけながら言う「スガモ重犯罪刑務所は満員だぜ!」 11
2013-06-03 21:42:17「アイエエエエ!」ペケロッパ・ハッカーの掌から、平淡な電子音声の悲鳴が漏れる! それを合図に、他のマッポたちも暴行を再開した。この当時はまだレオパルドではなくヨモダと呼ばれていたスラッシャーも、自分の肋骨がへし折れ、内臓が破裂し、頭がトーフのようになっていくのを感じていた。 12
2013-06-03 21:46:17次第に視界が真っ白になり、何も聞こえなくなり、意識が遠のく。その時だ。不意に、ヨモダの全身が強烈な電気ショックを浴びたかのように、仰向けの姿勢のまま数十センチ跳ねた。驚いたマッポたちが、蹴りを入れる強さを増す。だが、ヨモダは不思議と恐怖を感じなかった。激痛も消え去っていた。 13
2013-06-03 21:49:17次第に感覚が戻る。まずは視覚。何もかもが鮮明に見えた。目に精密ズームカメラをインプラントされたかのように、自分を見下ろし蹴り続けるデッカーの網膜に映る自分の顔、さらにその自分の顔の網膜までもがズームアップされた。次に聴覚が戻った。室内の全心音と、ペケロッパの心停止が聞こえた。14
2013-06-03 21:53:17残りの感覚が全て戻る。より強く、より鋭敏になって。心臓が燃えるように熱くなり始めた。自分の胸の中に、姿見えぬ同居人が宿ったかのように感じられた。全身に力が満ち始めた。目の前にいる全ての敵を殺せるという自信が湧いた。ガスにやられたはずの指先に力を入れる。すると、動いた。 15
2013-06-03 21:56:14他の3人を始末し終えたデッカーが、アビスのような銃口を突きつけながら、頭の横に近づいてきた。マッポたちが一斉に蹴りをやめ、手を後ろに組んで休めの姿勢を取る。「犯罪者どもに明日は無い」49課のおそるべきフォールン・デッカーは、ナルシスティックな決め台詞とともにトリガを引いた。 16
2013-06-03 21:59:15ヨモダの目には、トリガを引こうとする指の筋肉の動きが見えた。「イヤーッ!」胸の奥底から、カラテめいた掛け声が突然沸きあがってきた。と同時に、神経ガスにやられたはずのヨモダの体は素早く右に側転して銃弾を回避し、ブレイクダンスめいた動きで周囲のマッポを蹴散らしたのだ!タツジン! 17
2013-06-03 22:03:16ヨモダは確信した。理由は全くもって不明だが、自分は伝説の半神的存在、ニンジャになったのだと!そして彼が得たのは、数々のニンジャ的基礎能力に加えて、常人の3倍を超える脚力!ネックスプリングから素早く身を起こし、デッカーガンの再射撃を回避する!それから窓へと駆け、ダイブした! 18
2013-06-03 22:07:05そのまま隣のビルの屋上に飛び渡ったヨモダは、重金属酸性雨が降りしきる夜のネオサイタマをレーザービームめいて駆けた。それから不意に、顔を隠したい衝動に駆られ、サイバーブルゾンの中に着ていたTシャツを脱ぎ、覆面のように顔を覆った。襟の部分から目を出し、袖を縛った。ニンジャだった 19
2013-06-03 22:10:15彼は体中に打撲痕を作り、顔中から血を流しながらも、笑っていた。「ニンジャだ!俺はニンジャになったのだ!」と。全身に無限の力がみなぎっていた。彼の胸は、何人でも人を殺し、万札をいくらでも奪えるという自信に満ち溢れた。それどころか、この世界の王になれるのではないかとすら思えた。 20
2013-06-03 22:14:15……それから四日間、ヨモダは思うがままに殺し、奪い、スシを喰った。無敵の存在に生まれ変わった事を、彼は確信した。だが五日後、彼の自信は打ち砕かれた。奪ったばかりの大トロ粉末アタッシュケースを抱えてビル街の屋上を走っていた彼の前に、三人のソウカイ・ニンジャが姿を現したからだ。 21
2013-06-03 22:17:18彼らはソウカイヤの野良ニンジャ抹殺チームを名乗り、ヨモダにソウカイヤへの忠誠か、さもなくば死を迫ったのである。「忠誠を誓うならばソウカイ・シンジケートのバックアップを得られるぞ。トレーニング施設やイントラネットも使い放題だ」と。 22
2013-06-03 22:20:06