茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第966回「何を欲しているのか、自分との対話で知る」
- toshihiro36
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なじ(1)ボストンから帰ってきて、ずっと忙しくて、なんだか消耗していた。それで、昨日、新潮社の池田雅延さんから、小林秀雄先生は落語の『火焔太鼓』が大好きで、特に亭主が大金をもらってきて、ほら、と見せるときのおかみさんの反応をおもしろがっていた、と聞いた時に、はっとなった。
2013-06-10 07:34:54なじ(2)『火焔太鼓』のこの場面はおもしろくて、古道具やの亭主がまたおんぼろの太鼓を買ってきた、と不機嫌だったおかみさんが、思わぬ大金で売れたので、「あらおまえさん、さすがだねえ」みたいにころっと変わってよろこぶところが、なんともぽかぽかして、ほほえましい。
2013-06-10 07:36:36なじ(3)それで、消耗して歩きながら、なんとはなしに、『火焔太鼓』のあの最後のクオリアが今のぼくには必要なんだなあ、と思った。それで、眠る前に、イギリスのコメディYes MinisterのA Question of Loyaltyの回を見た。最後にぽかぽかする場面がある。
2013-06-10 07:37:45なじ(4)Jim Hackerが、官僚たちの抵抗を押し切って改革をすると宣言する。官僚たちは、もうこれでダメだ、辞任必至だ、などと脅かすが、首相から来た手紙は、今度の日曜Checkers(郊外にある首相専用の別荘)でランチをとろう、という意外なもの。Hackerほくほく。
2013-06-10 07:39:09なじ(5)『火焔太鼓』の最後のおかみさんの反応と、A Question of Loyaltyの最後の場面は、緊張していたのが思わずうまくいって、ほくほくする、というクオリアが似ていて、ああ、ぼくは消耗する中で、そのような「心の栄養素」を欲していたんだなあ、と思った。
2013-06-10 07:41:59なじ(6)Specific appetite, ないしはspecific hungerというのがあって、恒常性を保つために、ある特定の栄養素の入った食物を欲する。人間の場合実験的に確立しているのは塩分など一部だけのようだが、体感的には、もっと広い範囲に、成立しているように思う。
2013-06-10 07:43:41なじ(7)例えば、何とはなしにカレーが食べたいと思う。あるいは、サラダが食べたいと思う。このような時には、(そのメカニズムはまだ明らかにされていないが)、その食物に含まれる栄養素に対するspecific hungerが成立しているように思われる。
2013-06-10 07:47:12なじ(8)そして、食物だけでなく、精神の栄養についても、specific hungerはあるように思う。なんとはなしにベートーベンが聴きたくなる。漱石が読みたくなる。それは、心の恒常性を保とうという脳の働きであるように思う。そんな時の対象物は干天の慈雨となる。
2013-06-10 07:48:38なじ(9)何を欲しているのか、自分との対話で知る。恒常性を維持するために、不可欠な心の働き。パーティーの喧噪から出て外の空気を吸いたいとか、もう飲み会はいいからホテルまで歩いて帰っちゃおうとか、そういうことを含めて、何を欲しているのか、自分との対話で知ることことが大切だ。
2013-06-10 07:50:20