【twitter小説】火焔気球の街#3

ついに街は火に包まれた。火の巫女はある目的のため宮殿地下を駆けるが……ツイッター小説アカウント@decay_worldで連載している小説のまとめです。この話は#4まで続きます
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減衰世界 @decay_world

 街は混乱状態に陥った。逃げまどう民衆にも容赦なく火の手が回り込む。ギルド員たちは建物を破壊し延焼を防ぎ避難民を誘導する。だが、爆発物は巧妙にガス管の密集地点を狙っており、それに次々と引火していくのだった。 59

2013-06-10 16:43:11
減衰世界 @decay_world

 赤い塗料で塗られた街並みは、いまや炎の赤に彩られていた。そして……その混乱に乗じて彼らは動きだした。色あせた紺のローブを身に纏った男たちが火の巫女の宮殿へ向かう。宮殿はいまだ火の手は上がってはいなかったが、街の被害を食い止めるため警備が手薄になっていたのだ。 60

2013-06-10 16:55:51
減衰世界 @decay_world

「伝承では街が火に包まれるとき、その火を受けて気球が膨らむという。いまがその時だ!」  ひときわ濃い紺のローブを着た男が彼らを先導する。残っていたギルド員の警備隊が侵入者に気付き警笛を鳴らそうとしたが、彼らは音もなく紺のローブの男たちに葬られた。 61

2013-06-10 17:00:30
減衰世界 @decay_world

 死体は物陰に隠され、男たちは静かに宮殿の中に侵入していく。街の中心で大きな爆発があり火柱がたった。その光が宮殿を照らしたが、もうそこには誰もいなかった。 62

2013-06-10 17:07:56
減衰世界 @decay_world

「いいですか? 余計なことはしないでくださいね。デリケートな装置なんですから」  宮殿の地下深く、不思議な配電盤のような装置が壁いっぱい並ぶ部屋にフィルとレッド、そして火の巫女ルシリミアがいた。彼女は次々と配電盤を解体していく。 64

2013-06-10 17:16:42
減衰世界 @decay_world

 ルシリミアの魔力で、地下の暗黒は明瞭な視界へと変わっていた。この暗視の術は彼女の一族の得意とする魔法だ。普段は街中で火が焚かれているため使う必要はないが、この明かりもない機関室で作業するには彼女の力なくしては不可能だろう。 65

2013-06-10 17:25:21
減衰世界 @decay_world

「そこのバルブを開いてください。いえ、その右のです」  ルシリミアの指示で次々と作業は進んでいた。重いバルブや荷物の運搬などの力仕事はフィルとレッドが担当した。これがまた本当に重いのだ。 66

2013-06-10 17:31:46
減衰世界 @decay_world

「このバルブ固いな……何年使ってなかったんだ?」 「ずっと昔からですよ。有事の際にしか使用しませんから」  レッドは力を込めてバルブを開く。するとさらさらと何かが流れていく音が聞こえた。唸るような何かの音が次第に大きくなっていく。 67

2013-06-10 17:36:59
減衰世界 @decay_world

「よし……と。最後の作業です。別の部屋へ移動します」  ルシリミアは二人を別な部屋へ案内した。そこは倉庫のような場所で薄暗く、がらくたがたくさん積み上がっていた。狭い部屋だ。二人はペンライトで照らしながら中へ入る。特に変わった装置などはなかった。 68

2013-06-10 17:51:29
減衰世界 @decay_world

「次は何をすれば……おや?」  ズシンと音を立てて扉が閉まった。扉を閉めたのは……ルシリミアだ。彼女は手早く鍵をかけ扉をロックした。 「騙して悪いけれど……ここから先は禁則事項なのです」 69

2013-06-10 17:55:20
減衰世界 @decay_world

 ルシリミアは地下施設の中を駆ける。唸るような音は次第に大きくなっていく。この施設を破壊するためには一度この施設を目覚めさせなければならない。だが、それはいちばん危険な行為なのだ。暴走の危険を恐れ、歴代の火の巫女でこの施設を起動した者はいない。 70

2013-06-10 18:00:59
減衰世界 @decay_world

 だが、危険の手が迫っている。一刻も早くこの施設を葬らねば……。ここから先は施設の中枢だ。工場のような施設の内部は中枢に入ると一変した。淡く発光する滑らかなセラミックプレートの外壁の通路だ。ルシリミアは息を切らし急いだ。唸るような音はだんだんと大きくなっていく。 71

2013-06-10 18:09:41
減衰世界 @decay_world

 ルシリミアは角を曲がってぎょっとた。中央制御室の扉が開いている! 侵入者がいるのか。閉め忘れたということは無い。開けたものは誰もいないはずなのだから。彼女は立ち止って様子を見ようとした。生臭い匂いがする。何かが起こっている。しかしここからは見えない。 72

2013-06-10 18:16:38
減衰世界 @decay_world

「火の巫女か? 入ってきたまえよ」  大人の男性の声が響いた。恐る恐る中央制御室に入る。ルシリミアにも魔法の心得がある。逃げてこの場所を明け渡すよりは戦って死んだ方がましなのだ。そこには幾人もの死体と、濃い紺のローブを着た男が一人立っていた。 73

2013-06-10 18:21:59
減衰世界 @decay_world

「気球教団の者ですか?」  ルシリミアはじりじりと間合いを詰める。敵の強さが分からない。魔法使いなのか、魔法の武具を操る暗殺者なのか。さっきの二人がいてくれたらいいのに……彼女は少し後悔した。 74

2013-06-10 18:27:12
減衰世界 @decay_world

「そうでもあり、そうでもない。俺は気球のことなんか信じちゃいない。こいつらのようにね」  そう言って男は足元の死体を蹴った。この男が殺したのだろうか? 死体と男の装備は似通っており、仲間割れしたように見える。 75

2013-06-10 18:33:13
減衰世界 @decay_world

「どういうことです? その者たちはあなたの仲間ではないのですか?」  男はハハっと笑って剣を抜いた。刀身が魔法の光で淡く黄緑に光る。恐らくアレで斬られたら命は無いだろう。ルシリミアの装備はとても戦闘用と言えるものではなかった。 76

2013-06-10 18:41:14
減衰世界 @decay_world

「利用しただけさ。俺は気球なんかよりもっと面白いものに興味がある。そのために教団に潜入して……この時を待っていたのだよ」 「知っているのですか……この装置の力を」  男はにやりと笑った。そしてルシリミアには目もくれず、巨大な壁に向かって歩き出した。 77

2013-06-10 18:47:17
減衰世界 @decay_world

 中央制御室の壁には、白く淡く光る真っ平らな壁面がひとつあった。時折光の脈のようなものがすっと光っては消えている。まるで生きている心臓の表面のように壁面は揺らいでいた。男は左手を伸ばしその壁面に触れようとする。 78

2013-06-10 18:50:52
減衰世界 @decay_world

「やめなさい! それは……とても危険なものなのですよ!?」  ルシリミアは警告するが、それ以上近づくことは出来なかった。ここから先は彼の間合いなのだ。不用意に飛び込めば一瞬で殺される……その気配を感じ取ってしまった。 79

2013-06-10 18:54:35
減衰世界 @decay_world

「知ってるさ! とても危険だ……一撃で帝都を焦土にできるほどね」 「申し遅れた、俺は考古学者のレベルン。俺はお前たち一族が幾千年も隠し通してきたこの機械の痕跡を見つけ、それを手にするため今まで隠れ忍んでいたのだよ」 80

2013-06-10 18:59:33
減衰世界 @decay_world

 レベルンと名乗ったその男は壁面に触れた。するとその指先は壁面に少しずつめり込んでいく。しかし、ある程度まで沈みこんだところでその動きは止まった。 「火の巫女め、何か細工をしたな……。フフ、死にたくなければ俺に権限を寄こせ」  81

2013-06-10 19:04:36