モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring X~
- IngaSakimori
- 1397
- 0
- 0
- 1
(千歳……ちゃん、だと?) 三鳥栖志智(みとす しち)の眉がぴくりと跳ね上がり、肩に力が入る。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:52:46日原院ティックと名乗った金髪の美少年。なるほど、志智の妹である千歳(ちとせ)とおなじクラスなのだから、多少親しげな呼び方をしても、おかしくはないだろう。 ━━彼が今日転入したばかりの生徒でなければ。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:53:19「よろしくね、日原院(にっぱらいん)くん」 「そっ、そんなっ、あの……名字じゃなくてっ。 ぼ、僕のことは……その、ティックで……いいです……から。ち、千歳ちゃん」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:48:05「あはは、そうだね。亞璃須さんの弟だもんね。 わたしもおにいちゃんの妹だし、なんだか一緒だね」 「う、うん……」 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:53:55「………………」 テーブルを挟んで対面二席ずつ。隣り合うのは一年生と三年生。すなわち志智と亞璃須(ありす)。そして千歳とティック。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:54:41「志智? 何を難しそうな顔をしていますの?」 「……おい、亞璃須」 南田磨校の購買に面する開けた一角は、簡素な椅子とテーブルを並べた生徒用の多目的レスト・スペースとなっている。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:55:07もちろんこうして昼食のために使うこともできるし、授業のコマに空きが生まれる三年生は自習用に使うこともできる。 もっとも見るものが見れば、そのスペースは明らかな学校施設内の『無駄』であった。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:55:29これはさかのぼれば女子高等学校、つづいて全日・定時制併設の共学高校、そして現在の男女共学・中高一貫校という変遷の歴史を持つ南田磨校が、かつて生徒用の食堂を備えていた名残である。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:55:51言うなれば、この国に子供が多かった時代に必要だったスペースが、現在ではことさら冗長に見えてしまうというわけだ。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:56:00「一つ聞くぞ。いいか、千歳とあいつには聞こえないように応えろよ」 「よくわかりませんけれど、わたくしは恋人同士のようにあなたの耳元で囁きかければよいわけですのね?」 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:56:13「……まあ、今は別にそれでいい」 渋々といった表情で、志智はうなずく。 そして、ほんの刹那。その鋭い視線を対面にすわった金髪の美少年へと向ける。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:56:26「お前の弟━━ティックと千歳だが、この学校以外で顔を合わせていたりしたか?」 「と言いますと?」 「たとえば、個人的にもともと知り合いだったとか、お前が引き合わせていて、その、なんだ。前から知り合いだったとか」 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:56:51「まあ、世の中そういうことがあってもおかしくないとは思いますけれど。 もし、そうだったとしたら千歳さんがあなたに何も言わないと思います? わたくしの弟にしても、こんなところではじめましてを改めて言うでしょうか?」 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:57:32「くっ……そ、そうだな。くそっ……となると、やっぱりそういうことか……」 納得いかない。おかしい。こんなことがあっていいはずはない。 そんなことを主張するように顔をしかめる志智を、隣に座った日原院亞璃須はまったくもって愉快そうに眺めている。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:57:44「で、でも、偶然だなあ。千歳、ちゃん……と同じクラスだなんて。 あは……姉さんのこともあるし、な、なんだか運命的なものを、か、感じる……ね」 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:58:20ときおり慌てたように語尾を震えさせながら、彼の妹へ話しかける亞璃須の弟。 彼はなぜか頬を赤く染め、額には気温に不釣り合いな汗が浮かんでいる。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:58:28「そうだよね。偶然だね~」 対する千歳はというと、社交的な笑顔という表現で済ませるには、誰から見ても魅力的すぎるのではないかという微笑みで。 別の言い方をするならば、相手が好意と勘違いするのではないかという愛らしすぎる笑いで、ティックの言葉に応えている。#mor_cy_dar
2013-06-17 06:58:52「ぼ、僕、まだこの学校慣れてなくて……い、いろいろ教えてもらってもいい……かな?」 「うんっ、もちろんだよ~。何だって聞いてね。あとで学校の中、ひととおり案内してあげるね」 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:59:10「あ、ありがとう! すごく……う、うん、すごく……嬉しいです……」 「クラスメイトなんだから、お安い御用だよ~」#mor_cy_dar
2013-06-17 06:59:27「………………」 「うふふふふふ」 ぎこちないながらも会話が進むたび、志智の瞳にはねずみ色の感情が宿る。 亞璃須はこれぞ至上の愉悦といわんばかりの表情で、瞳を笑わせる。 #mor_cy_dar
2013-06-17 06:59:49「ぼっ、僕、日本には戻ってきたばかりで、八王子の街もよくわからないんだ。ち、千歳ちゃんさえよかったら、そっ、その、放課後一緒に━━」 「なあ……お前、ティックとか言ったよな……」 「は、はいっ!! なんでしょうかっ!」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:00:16そのとき、唐突に兄は言葉を切り出した。途端にしゃきりと背筋を伸ばしつつ、ティックは志智の方へと向き直る。 面接官に相対する求職者のように。あるいは、はじめてパートナーの父親と会食する男のように。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:00:39「あ……そ、その、えっと。すいません、大声出しちゃって」 「いや、別にいいんじゃねーの」 「ね、姉さんからいつも聞いてます。運命の人だって」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:01:27「運命の人、ね……またくだらないこと言ってんだな……」 志智がうんざりした声で肩をすくめても、亞璃須は何も言わなかった。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:01:40