ぼくがかんがえた超電磁砲×虐殺器官
- Dr_crowfake
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僕はムンバイの雑踏の中で立ち止まった。目前には広場があり、そこに装甲車が停車している。その周囲に、アサルトライフルで武装した数人の少女たちが警戒態勢で展開している。「学園都市の「妹達(シスターズ)か」」ウィリアムズはアサルトレーションをかじりながらこともなげに云う。
2013-06-18 16:19:29「学園都市の連中は悪趣味だよ。なんだってあんな子ども兵を使うのかね」「コストが安いからさ」そう、ぼくはウィリアムズに応える。「彼女たちのイニシャルコストは2万ドルに満たない。そして訓練と経験は彼女たちの脳内に張り巡らされたネットワークで共有化され、生まれたてでも一人前の戦士だ」
2013-06-18 16:21:35「しかしヒンドゥー・インディアの連中相手に学園都市が関心を持つとはな」そう怪訝そうな顔をするウィリアムズに、僕は解説する。「彼女たち――ミサカシスターズは、学園都市だけじゃなく、世界中のPMCに採用されてる。安くて有能だから。ほら、あの装甲車、識別記号はEの字だ」
2013-06-18 16:24:10「ユージーン&クルップスみたいな大手まで、学園都市製の得体のしれない小娘共を戦場に送り出しているのか」「大手だからこそさ。ミサカシスターズの戦術価値は共有ネットワークの大きさにに比例するんだ。小さなユニットでは共有演算リソースが足りないから役に立たない。まとめて雇うのがいいんだ」
2013-06-18 16:28:05「なるほど合理的だ、しかし気に食わねえ」ウィリアムズはファースト・ストライクスをひと齧りしぼやく。「クローンならではのクラウドリソースを利用した情報共有と戦術判断能力の飛躍的増大、それに伴うキルレシオの増大。そりゃ魅力的さ。だけど、あいつらのいる戦場に、俺らの居場所はあるか?」
2013-06-18 16:31:33「あるさ」ぼくはウィリアムズの持っていたファースト・ストライクスを横取りして、ひとかじりしながら云う。「ミサカシスターズのクラウドリソースは少人数じゃあまり効果を発揮しないんだ。共有できる情報が限られてるから。そうなると、個体の判断力と戦闘力が重要になる」
2013-06-18 16:33:10「なるほど。大規模戦では有効でも、小部隊行動じゃ役に立たないのか。なら、俺たちみたいな、少数精鋭のユニットが必要とされる作戦なら、出番はまだあるってわけだ」得心するウィリアムズにぼくは告げた。「だけど、情報軍内部にもぼく達みたいなスネークイーターを排除したがる奴がいてね」「何?」
2013-06-18 16:36:20「情報軍のお偉方――少なくともその一部は、小部隊規模でもクラウドリソースが有効になると考えてるし、イニシャルコストの安さは魅力的だ。いずれぼくたちも、ミサカシスターズと一緒に戦うことになるかもしれないな」「おいおい冗談じゃないぜ」ウィリアムズはぼやく。
2013-06-18 16:38:25「冗談なものか。軍事役務のアウトソーシングは前世紀以来ずっと続いてきた流れだ。プロの兵隊、生粋の軍人が必要な場所は本当に限られてきてる。僕達はいわばダイナソアなのさ。滅びゆこうとする種族、職業軍人ってわけだ」「おいおい、じゃあ俺達はあの子娘どもに厄介払いされるのか?」
2013-06-18 16:40:53「今の流れで行けば、いずれは。だけど、プロ中のプロにしかできないこと、小規模で長期間長距離偵察をやるとか、そういう作戦には、現状ミサカシスターズは対応できてない。だからまあ、ぼくらが現場から離れるまでは、身分は安泰じゃないのかな」「だといいがな」ウィリアムズは云って。
2013-06-18 16:45:17「ふと思ったんだがな、軍事の外注化はやりすぎだ。情報軍さえミサカシスターズの導入を考えてるような状況で、もしあいつらが反乱を起こしたらどうするんだ?」そう問うてきた。「ロボットの反乱は古典的なテーマだけど、少なくとも、学園都市に不利益にならない限りはその心配は無いんじゃないかな」
2013-06-18 16:47:23そう応えるぼくにウィリアムズは「利害なんてコロコロ変わるもんだ。もし合衆国と学園都市の利害が対立したら、とんでもない爆弾になるぞ」とぼやく。「そこまで深刻な利害対立が起こるかどうかはわからないな。むしろ、ミサカシスターズの導入によって、合衆国が学園都市に擦り寄ってると云えるし」
2013-06-18 16:49:55僕はそう答えるが、確かにウィリアムズの指摘はもっともだ。合衆国は全盛期からの数十年間、軍事役務を様々な企業に外注化してきた。そして、それをコントロールできているとは云いがたい。人間相手の外注化でも事故は起こる。ましてや、国外勢力の尖兵に軍事力を外注するのは危険と思えた。
2013-06-18 16:52:30だけどそれはペンタゴンのお偉いさんが考えることであって、ぼくたちが考えても始まらないことだった。ぼくたちは彼らの鋭い矛先となって、機会目標をクリアするのが役目だから。それが自身の良心を外注化しているという欺瞞であると知りつつも、ぼくとしてはその立ち位置が好ましかった。
2013-06-18 16:54:45ふと、周囲を警戒しているミサカシスターズのひとりと目が合った。彼女の視線は全く無機質で、虚無すらたたえていた。ぼくはそれに、なぜか安らぎを覚えた。
2013-06-18 17:01:21そしてぼくは思う。ぼくたちのようなダイナソアがお役御免になった世界で、少女たちが互いに殺し合う姿を。それはどこか、ぼくの見る「死者の国」のイメージに近かった。
2013-06-18 17:01:32おそらく彼女たちは命令のままに闘い、そして死んでいくのだろう。だけど彼女たちにとって、死はひとつの個体の消失にすぎない。全滅しない限り、そのミームはネットワークで生き続け、生き残った者たち、やがて生まれ来る者たちへと受け継がれる
2013-06-18 17:04:55闘い。闘い。果てしない闘いの中で、彼女たちは永遠に生き、そして死に続けるのだ。それはとても素敵なことに、ぼくは思えた。ぼくたちが望んでも得られない永遠性を、彼女たちは保有しているのだと思うと。ぼくたちが望んでも得られない、永劫の生と死を繰り返すのだと思うと。
2013-06-18 17:07:28そんなことを思い始めてから、ぼくの「死者の国」の情景には、彼女たちが現れるようになった。はらわたを引きずり、頭を吹き飛ばされ、それでもなおどこかに歩き続ける彼女たちの姿が見えるようになった。
2013-06-18 17:11:45ぼくはそれに憧れすら感じた。置いて行かないでくれと思った。ひたすらに静かな死者の国の中で、安息を得ず、得ることも欲せず、永遠の煉獄を生きる彼女たち。ぼくはそれに懸想していたのかもしれない。あるいは、憎悪していたのかもしれない。
2013-06-18 17:13:39「ぼくらを置いて、死者の国を行軍するなんてひどいじゃないか」ぼくはそう云いたかったのかもしれない。死者の国は死者の静謐な世界で、そこで「生きても死んでもいないもの」たちが歩きまわることは冒涜にすら思えたけど、それでもぼくは彼女たちの行軍を夢に見続けた。
2013-06-18 17:17:20