「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第六章 沖田総司~慶応四年四月~ガンバレ、ピンさん」
お待たせいたしました。 「独白~新選組隊士たちのつぶやき」第29回 第六章「沖田総司~慶応四年四月~ガンバレ、ピンさん」第1回 ゆるゆると始めていきたいと思います。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:05:16六章前文 元治元年六月の池田屋襲撃の時、沖田総司は初めて喀血した。 労咳。現在で言う、肺結核。当時、特効薬も無く不治の病とされていた。 だが、沖田自身にそんな認識があったかどうか・・・。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:06:16その後も、病は沖田の身体を人知れず徐々に蝕んでいった。 しかし、若い沖田に実感は無い。 普通ではないと感じていた。病らしいと頭ではわかっていた。でも、それほど深刻には考えていなかった。仕事にも何ら支障はなかった。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:07:10むしろ、自分のことより、斎藤一の無頼な暮らしに荒んだ心を、藤堂平助の伊東甲子太郎と近藤勇両派に対する微妙な立場を、心配していた。 だが、やがて、病は表面に現れる。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:07:52慶応三年春、斎藤と藤堂の二人が御陵衛士として、新選組を出て行ってからまもなく、沖田は、大量の血を吐いた。そのとき初めて、沖田は、自分の病を意識し、死を意識した。全てがけだるく空しかった。 密偵だった斎藤が新選組に戻って、油小路で藤堂が死んだ。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:08:36そのすぐ後、沖田はまた大量の血を吐いた。そしてそれからは、ほとんど寝たきりの状態になってしまった。 鳥羽伏見の戦にも参加できず、江戸へ帰ってからも、仲間と一緒には居られず、近藤の知り合いの植木屋の離れに預けられた。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:09:23慶応四年四月のある日。 今、斎藤が沖田の病床を訪れ、帰っていった。 沖田が斎藤と会うのは、正月に京から同じ船で帰ってきて以来、三月ぶりだった。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:10:03この病での死を意識して一年あまり、けだるさ、空しさ、怒り、悲しみ、つらさ、悔しさ、沖田は、それらを一通り味わった。今も完全に克服したわけではない。自分と同い年で剣の腕を競い合った斎藤の元気な姿を目の当たりにすると「なんで私だけ・・・」と、新たな悔しさが湧いてくる #試衛館の青春
2013-06-17 18:11:46けれどもそれ以上に、久しぶりに友に会えて、沖田は時を忘れた。嬉しかった。楽しかった。こんなに腹の底から笑ったことは、ここ最近無かった。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:13:15そして、別れのとき。これから戦いの場に向かう友の背中に、もう二度と見ることは出来ないだろうその後姿に、 「私の分まで頑張れ」 沖田は、素直な気持ちで、心から、そう言えたのだった。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:14:27第六章 沖田総司 ~慶応四年四月 ガンバレ、ピンさん~ あ~あ、ピンさん、行っちゃった。 もう、逢えないんだろうな。 これからもずっと、近藤さんや土方さんと一緒に、戦い続けるんだね。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:15:46羨ましいよ。なんで、私だけ・・・、なんて、ね。だめだね。とっくにあきらめた筈なのに、ピンさんに会ったら、つい愚痴が出ちゃったよ。 この先、大変だと思うけど、がんばれよ、ピンさん。私の分まで・・・。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:17:48思えば、ピンさんと私、何かにつけて比べられてたよね。 二人のことをいう時、「同い年で、剣の腕は互角」、そういう表現が付きまとった。だから、お互い意識したよね。私は、いつも、「ピンさんには負けたくない」って思ってた。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:18:44でも、くやしいけど、ピンさん、いつも私の一歩も二歩も先を歩いてた。 ううん、京へ上る前は、そんなことは思わなかった。平助を加えた三人、試衛館で竹刀を振りまわしていた頃は、ピンさんも、平助や私と同じくらい子供だったと思うもん。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:19:58差をつけられたなあって思ったのは、京で再会してからだった。 ピンさん、変わってた。ほんと、違う人みたいだった。 #試衛館の青春
2013-06-17 18:21:15ピンさんが、壬生の浪士組の屯所を訪ねて来た時、試衛館のみんなは、とても喜んだ。私もすごくうれしかった。また、平助と三人で、試衛館の頃のように、楽しくやれる。そう思ったのに・・・。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:28:33なのに、ピンさん、全く笑わなかった。何を聞いても、「ああ」とか、「うん」とか、「いや」とかしか言わなかった。 それはないだろう、って思った。心配してたんだぞ、みんな。 前の年の春、何も言わずにいなくなるんだもん。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:30:09あとで、噂で、大身の旗本を斬り殺したって、それで、江戸を出たって聞いた。だけど、何処へ行ったか判んないし・・・。水臭いよ。行き先ぐらい教えてくもんだぞ。手紙も出せないじゃないか。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:31:32あ、そちらからは出せたよね。なのに、一年の間、なしのつぶてで・・・。ほんと、心配してたんだからな。 そしたら、また、「ああ」だけ。ほんと、どうしちゃたんだよって思った。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:32:50言葉、忘れちゃったの?あ、ひょっとして、あれ?もうすっかり京言葉になっちゃったもんだから、恥かしくてしゃべれないの?いいよ、ピンさんの京言葉、「うち、山口一どすえ」なんて、聞いてみたいもん。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:33:59って、ばかな冗談言ってみても、ニコリともしないで「斎藤」って言うだけだった。そう、名前まで変えちゃってた。 あの一年足らずの間に、ピンさんの身の上に、一体何があったんだよ。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:34:52ピンさん、もともと、自分からしゃべる方じゃなかったけど、左之助さんや私の冗談に、一番よく反応してた。いつも、涙流して、大笑いしてた。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:35:44生真面目な平助が解らない事でも、ピンさん、すぐに解って、私と一緒に、解っていない平助をからかったり、私も解らない土方さんと左之助さんの話聞いて、一人、ニターッと笑ったり、とにかくよく笑ってたじゃないか。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:36:28なのに、京で再会したピンさんは、全く笑わなかった。ニコリともしない。 何があったんだよ。ピンさん。ホントに・・・。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:37:21私は、早く、元のピンさんに戻って欲しくて、でも、何をしたらいいか判らなくて、とにかく、みんなに言って回った。 #試衛館の青春
2013-06-18 18:38:08